ゆるやかに老いるということ

昔、母が喉を手で空手チョップのようにトントン叩いていた時期があった。
「何してるの?」と聞くと
「マッサージ」

歳をとると器官の方に食べたものが入ってしまうことがあるので、ということだった。その時は笑いながら、成る程と聞いていたのだけど、そうか今自分は自由に食べたり飲んだりしているけど、それってすごいことなんだと思った。

そして歳を取るのが少し怖く感じた。

お菓子教室で私は小さな子供から60代の方までを見ている。

小さな子供はまたコントロールが利かないので出来ないことが色々あるが、大人も実は段々とそうなっていくようだ。

きれいに作業をする。これをとても重要視しているのだけど、気をつけていても出来ない人がいる。なんでだろう?とずっと考えていたのだけど、それは老化なのかもしれないと最近思い始めている。

べたっとものを触らない。なるべく手を汚さずに処理する。例えば、手で混ぜる時、指3本第一関節しか使わないとか、若い人ならぱっと理解してすぐ出来るようになるのに対し、40代後半以降は出来ない人が多い。自分も立派なアラフィフなので、若い頃に比べ、集中しないと出来ないことが増えている。小さな子供たちが成長するにつれて上手になっていくのと見比べ、人間って段々と小さな頃に戻っていくのだなと感じている。

そして身体の微妙な変化。

以前のように箸でものをうまく捌けない、持ったつもりが落とす。これらは握力が弱くなっているから。

食事中に口に持っていったものをこぼすなんてしょっちゅう。そしてこれは箸を持つ力と同時に食べ物のサイズに起因する。難なく食べられる大きさは3cm以下なのだそうだ。

避けたつもりなのにどこかにぶつかる、ふつうに歩いていてどこかで躓く。

なんだかがっかりしてしまうのだけど、これらはすべての人が通る道なのだ。いつまでも若いつもりで見ないふりをするより、現実を知り対処する方がすっきりする。

私は40くらいからシャカシャカするのをやめて、ゆっくり動くことを心がけてきた。歩き出す、立ち上がる、物を取る、物を置く。最後まで心をおく。失敗しないために。

食べ物問題についてはその原因を最近知ったので料理をする時は食材を3cm以下に切る。外で食べる時は3cm以下にして口に入れるようにしている。

「なんか避けたつもりなのにぶつかるのよ〜」と笑っていられる間に身に付けた方が良い。

80を超えた母はもう首をトントンすることさえやめてしまった。

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