「あの頃が一番良かった」の呪縛

物心付いた時から私は『アイドルオタク』として生きて来て、しかしいつの間にか、気づけばアイドルを仕事にしてからの月日の方が長くなっていたようです。驚き。

アイドルを仕事にし始めた時は、少し不安があって、もしかしたらこの気持ちを失ってしまうのではないか、アイドルの事を嫌いになる日が来たりしたら…なんて事を考えたりしていました。

映画「あの頃。」を見て、「今が一番楽しい」というメッセージがとても素敵だなと思いました。同時に思い出した事があるので、少し書きたいと思います。

この仕事を始めたばかりの頃、私は相変わらず休みの日にはアイドルを見に行く生活を続けていました。その後箱の運営をしていた時も、毎日アイドルと仕事はするものの「他所様のアイドルをお借りしてライブをする」という状況だったので、あまりスタンス的には変わっていなかったような気がします。

それが「中の人間になった」と感じるようになったのは、自分でグループを持った時でした。いつか出来たらなぁと思っていたのが機会を頂いた事で、今まで外から見ていた物の内側に入り、見える景色も関わり方も一変しました。(これはほんと、同じアイドル界に居るのでも自分でグループを持つのと持たないのでは全く見える物が違うと思います)

最初はメンバーとも距離の取り方が分からなくて、よそよそしかったんじゃないかなぁと思います。腫れ物に触るような感じというか、正直ちょっと怖かったです。だけど、アイドルグループとして活動して行くという事は、本当に色々な事を皆で乗り越えて行かなくてはいけなくて、そうなると距離とか言ってられなくなるんですよね。お母さんが子供を産んだらお母さんになるような感じでしょうか…(産んだ事無いから分かりませんが)。色々な事に皆で向かって行く内に「チーム(仲間)」や「家族」のような感じになって、アイドルファンだった自分はいつの間にか消え去っていたように思います。

去年グループが活動終了をして、運営の立場でなくなってみると、またアイドルファンだった時の感情が少しずつ戻って来て、なんだか懐かしい気持ちになりました。どちらの立場が良い、という事は無く、両方体験出来て良かったなと思います。ファンの人が応援してくれる事がこんなに嬉しくて、励みになるなんて自分がアイドルファンだった時は思ってもみなかったし、メンバー達はファンが想像もつかないくらい大変な事を乗り越えて頑張っている、とても逞しい存在なんだなと知る事が出来ました。

本題に戻りまして…

両方の立場を経験した中でとても印象に残っているのが、「あの頃が一番良かった」という言葉でした。これ、アイドルファンをしているとつい言ってしまいがちですよね。私もついポロっと口に出してしまったりしてました。

でも言われる側って、本当にキツくて、呪いのようにずっと纏わり付いて来るものです。
やっぱり作っている側は常に新しいものを見せようとしているし、「今が一番」と言いたい。
もちろんファンそれぞれの「あの頃」の積み重ねがあって「今」があるので、感謝の気持ちはあると思います。でも、その「あの頃」を越えたいと、アイドル達は思っているから、もどかしいんですよね。アイドルにとっては、最初から見ているから偉い、とかも無いし、どんなタイミングで好きになってくれても本当にありがたい。何より一番嬉しいのは「ずっと続けて応援してくれる」事なのだと実感しました。これは本当に、グループを運営する立場になって物凄く感じた事です。

私はアイドルファン時代にずっと応援をしていたグループに、8年振りに仕事で会う、という出来事を経験しました。本当に良い子達で、ただのファンだった自分の事を覚えてくれていただけでも驚きなのですが、その時に言われたのが「〇〇の時期くらいから(私)さんや(友人)さん達が来なくなったから、どうしたんだろうって言ってたんです」という事でした。ファンの数はまだ少ないけれどキラキラしているグループを応援するのが好きだった私は、3年ほど、本当に楽しい時間を過ごさせて貰いました。ファンの数も増えて、握手会も無くなって、これからは新しいファンの人達が現場を作って行くのだろうという転換期の空気を肌で感じたので、徐々に現場からは離れて行ったのですが、まさかこんな8年経っても覚えているほどに本人達の中にはしこりとして残っていたとは思わず、胸が苦しくなりました。逆に、「〇〇さんは今でもライブに来てくれるんですよ!」と当時から居たファンの方の話をしてくれて、とても嬉しくなったし(この規模でどうやってファンの事認識しているんだとまた驚きましたが)、アイドルにとって「ずっと居た人が突然来なくなる」というのは思っている以上に堪える事なんだなというのを改めて実感しました。

私がやらせて頂いたグループは、去年活動終了をしたのですが、その発表の時に沢山の方からメッセージを頂きました。今はもうライブには来られていない方、長い活動期間の中でどこかで応援してくれた方、関わり方の大小はあっても、多くの方がグループの存在を思い出して、懐かしんで言葉をくれた事がとても嬉しく、幸せな気持ちになりました。
ラストライブで卒業メンバーが「この6年間、メンバーやスタッフやファンの方々、それぞれ繋げてくれた誰かがいるから今私たちがここに立てている」と言っていたのですが、本当にその通りだなと思いました。最後に会いに来てくれた人達が居たのも嬉しかったです。

しばらく現場から足が遠のいてしまうと、久しぶりすぎて行きづらい…みたいな気持ちになる事があると思うんですよね。
でも、活動をする者にとって最後だけでも、卒業の時だけでも思い出してくれるのは嬉しい事だというのは経験をもってお伝えしたいし、頻繁には来れなくても節目節目で顔を見せてくれるのもとても嬉しい事だと思います。
もちろん、現場に来なくても、「あの頃」に想いを馳せてくれるのだって嬉しい事だし、それぞれの胸の中に何らかの形で存在が生き続けているのがとても尊い事なのだなと思います。

楽しかった『あの頃』を完全に過去の事にするのでは無く、自分の中で生き続ける細胞のように思えたら素敵な事だなと思いました。そういう1つ1つの細胞のおかげで、今私たちは楽しく生きていられるんですよね。そして、その細胞を大切に思う気持ちがあれば、きっと応援されていたアイドル達も皆幸せなんじゃないかなと思います。

「あの頃は良かった」とつい嘆きそうになったら、そんな事を思い出して欲しいな、と思ったお話でした。


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