続・文具業界におけるピンク色問題(前編)

 長らく感じていた「文具業界におけるピンク色問題」について、話を進める前にあらかじめ明確にしておきたいことがある。
 私はこの「ピンク色問題」を語ることで男女の差を強調し、両者の間に対立関係を生むことを目的としていない。何よりもまず、文具業界がより盛り上がることを望んでいる。お客様が楽しい買い物の時間を求めて売り場を訪れた時に失望しないように、買い物を終えた後にまた来たいと思えるように、商品や店舗で使用される「ピンク色」が持つ効果について考えたい。

 「文具業界におけるピンク色問題」は、私の元に届けられる商品サンプルの多くがピンク色であることが発端だった。
 私は仕事柄、文房具のサンプルを頂く機会がある。サンプルを頂戴するのはとてもありがたいが、ピンクが好きだと一言も言っていないにも関わらず、これでもかとピンク色の商品サンプルが送られてきたのである。そこで私は「女性=ピンク」のイメージがいかに強いかということを知り、「女性向けであればピンクを塗っておけばいいだろう」という考えが透けて見えるような見当違いのピンク色の商品が少なくないということを知った。
 思い返せば、トークイベントのチラシやテレビのテロップにパステルピンクと白いレースや白い文字にふわふわとしたピンク色の縁取りが施されていることもあった。なんとも惨めな気持ちになったものである。なぜこうもピンク色を押し付けられなければいけないのか。なぜピンク色を見て暗澹たる気持ちになるのか。
 この思いをある講演で吐露したところ、来場者の女性たちが大きく頷いた。彼女たちは押しつけられるピンク色の苦痛を理解していた。

 文具業界に限らず、広告や商品が世に出た際、ターゲットであるはずの女性たちが「なぜ『このピンク色』を使ったのだろう」と首を傾げることが少なくない。2013年頃、ツイッターを中心に話題になった「ダサピンク現象」のムーブメントは、そんな女性たちが声を上げたものだ(「ダサピンク現象」は「ピンクがダサい」ということではなく「女性ってピンクが好きなんでしょ?」という安易な考えが透けて見える上に見当違いな商品への批判だ)。
 あれから五年が経ち、文具業界にも変化がみられる。文具メーカー・クツワが今年発売した手芸用ハサミは、女性用と明確にわかる商品ながらカラーバリエーションはブラック・ホワイト・ミントグリーンの三色だ。ピンクがラインナップに入っていないことについて、同社の商品担当者は「女性たちが利用している、あるインターネットサイトの人気色を参考にした」と話している。「女性はピンクが好き」という先入観にとらわれず、ターゲットが好む色を調査した結果である。

 実際にピンク色が好きな女性は少なくないが、ピンクにはローズピンクやサーモンピンク、ベビーピンクなど様々な色が存在し、一口に「ピンク色が好き」と言ってもその好みには大きな差がある。ピンク色は易々と取り扱える色ではないのだ。そんな繊細さを無視した「宛がわれたピンク」は、女性たちにピンク色への無理解をまざまざと見せつけ、ピンク色好きの女性たちをも落胆させ、白けさせている。さらに彼女たちがそれら商品を目にした際の落胆は単に色だけの問題ではない。彼女たちはピンク色から色以上のものを読み取っているのではないだろうか。

 ピンク色について語る時、合わせて話題に上がるのは「女児=ピンク、男児=ブルー」という色分けだ。この性別による色分けは19世紀のフランスに由来し、1972年にはアメリカの老舗百貨店、ワナメイカーズやメゾン・ブランシュなどが、それまでピンクを男児の色として売り出していた他の百貨店に対抗するための戦略として、ピンクを女児の色と宣伝したともいわれる。

 『Don’t think pink』(リサ・ジョンソン、アンドレア・ラーニド共著、邦題『女性に選ばれるマーケティングの法則』、ダイヤモンド社)では、女性をターゲットとした商品に安易なピンク色を宛がう、あからさまなステレオタイプを「ピンクの発想」と呼んでいる。この本が日本で発行されたのはなんと2005年。今から十三年も前だが、2018年現在、「ピンクの発想」についてどれほどの業界人が考えたことがあるのだろうか。まずはその内容がわかりやすく書かれているレシピを同書P5から引用してみよう。

「ピンク発想のレシピ」
時代遅れの思い込みや情報……一さじ
もはや通用しないステレオタイプ……二さじ
人材と予算の不足……一さじ
新しいアイデアへの社内の抵抗……二さじ
男性を遠ざけ、手痛い過ちを犯すことへの不安……三さじ
パステルカラー、蝶々、ハート、花……たっぷり
善意と誠意……少々
他部門と混ぜたり、くっつけたりしないこと。盛り付けて女性顧客へどうぞ。 

 こんな盛り付けの料理を見れば食欲も失せるだろう。このレシピに「ピンク」そのものは材料には入っていないものの、思い当たるピンク色の商品や売場などが浮かぶのではないだろうか。

 「大人の女性向け」と銘打った商品なのに、幼児向けの玩具に使われるようなパステルカラーであったり、コスメポーチに入ると謳いながらリボンやハート、キラキラのラメがちりばめられていたり、白いレース柄があしらわれていたり。女性たちはなぜそれらに不快感を覚えるのか。女性たちはただ色そのものを見ているのではなく、色からある思想性を読み取っているからではないだろうか。それは先のレシピにあった「もはや通用しないステレオタイプ」だと考える(続く)。

後編はこちら。
https://note.mu/misatokan/n/nc36f02328da4

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菅 未里

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