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土木工学から台所へ。世界の台所探検家の今までとこれから (2023.3.20)

岡根谷実里です。世界の台所を探検しています。

「世界の台所探検家です」と言うと、なにそれ?どうして始めたの?と聞かれます。興味を持ってくださった方に、少しでもわかりやすく知ってもらえたらと思い、自己紹介を書きます。
おもしろい出会いや仕事につながることを、期待しながら。

・1989年長野県生まれ、東京在住
・世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理から見える社会文化背景を発信
・小中高校での出張授業・イベント・講演・研究・執筆などの活動
・料理を通して世界を伝えたい、世界の見え方を広げたい
・クックパッド株式会社→独立

1. 「台所」と「探検」への興味の経歴

1-1. 台所への興味のはじまりは家の夕飯から

私が台所に惹かれる理由については以前の記事で書いたのですが、その原点は、幼少期の夕飯に遡ります。

子ども時代は、長野県長野市で過ごしました。家は三世代同居で母は専業主婦。家に帰るといつも誰かがいて、鍵っ子に憧れました。祖母も母もちゃんと料理をする人だったので、夕飯にはいつもたくさんのおかずが並びました。

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学校でいやなことがあった日でも親に叱られた日でも、夕飯の時間は必ずやってきて、食卓には必ず一つは好きなおかずがあって、おばあちゃんは必ず話を聞いてくれて、そんな相変わらぬ夕飯の時間が好きでした。
…といってもそんなことを考えたのは大人になってからで、当時はわーいかぼちゃの煮物だーくらいしか考えていなかったですが。

二人のおかげで自分はお手伝い以上に料理をすることはなく、子どもの頃から料理していた人に比べて料理キャリアが浅いのはひけめですが、この二人が料理しない人だったら、世界中の台所で料理をする人に興味と敬意を持つことはなかったでしょう。

1-2. 世界への興味の芽生え

高校に進学し、世界地理にはまりました。小さい頃から好奇心は強く、勉強は好きだったのですが、人生を通して地理ほどわくわくした科目はありません。行ったことのない土地の暮らしが気候区分や地質から垣間見れることに感動し、地図帳と資料集を見比べては、遠い土地の暮らしに思いを馳せました。世界のことわりがわかるのが面白くて、地理のノートは書き込みで真っ黒になりました。

東京大学に進学し上京すると、地元で生きていた高校時代までとは比べ物にならないくらい広い世界が広がっていました。大学には各国からの留学生がいて、国際交流プログラムにも参加する機会が多数ありました。地理の授業で習った知識が現実の体験に変わり、ますます海外への興味がかきたてられました

海外とひとくちに言っても、より知らないことが多いのは途上国。途上国の人々と関わりながら、国際協力の分野でインフラ整備をすることで人の幸せを作りたいと考え、学部選択の際に土木工学を専攻することにしました。
(※正式な学科名は社会基盤学科ですが、旧土木工学科です)

写真は、体育会部活の合間を縫って出かけたバングラデシュ線路上とフィリピンのスラムの暮らしです。

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1-3. 留学、そして世界へ

大学院に進学し、かねてから願っていた留学をすることにしました。自分の知らない土地で挑戦してみたくて、交換留学協定校の中で一番「知らない国」だったオーストリア(ラリアではない)のウィーン工科大学に行くことに決めました。

ウィーンでの日々はすべて新鮮でした。また、近隣の国々からの留学生仲間たちと付き合う中で彼らの文化へも関心がわき、バックパックを背負っては、周辺の国々にでかけました。ボスニアでは留学仲間の実家を訪れおばあちゃんの手作りパイの虜になり、セルビアのヒッチハイク道中ではごはんをわけてくれたおじさんたちのやさしさに感涙し、世界の暮らしや文化を知るっておもしろい、こんな素敵な人たちとつながれるって楽しい!とますますはまっていきました。一年間で訪れた国は30カ国ほどになりました。

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1-4. 国連インターンで知る、机の上の「世界」

旅以外でも世界が広がる機会がありました。ウィーンの国連機関(国連工業開発機関, UNIDO)本部でインターンを募集していることを知って応募し、選考を経て3ヶ月間インターンシップをする機会を得たのでした。

国連機関の本部は、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、色々な国の人たちがいてそれぞれの文化が交錯し、とても刺激的でした。一方仕事は、国際協力の上流に携わっているという自負もありつつ、途上国の現場が感じられないもどかしさを感じていました。自分が机の上で叩いている数字が本当に人々の暮らしをよくしているのか、実感が持てないでいました。

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リアルな途上国の現場に行きたいと伝え続けていたところ、ケニアのプロジェクト現地で働かせてもらえることになりました。ケニアの8人家族の農家宅に住まわせてもらい、寝食を共にする3ヶ月が始まりました。

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1-5. ケニアの現場で直面した、土木工学の限界と転機

そこで直面したのは、生活をよくすると思っていた土木工学で、人が不幸にもなりうるという現実でした。

滞在していた村で、ある日突然村の真ん中を通る大型道路の計画が知らされました。小さな村なので、市場も学校も家々も、すべて立ち退かなければいけません。自分たちの生活が壊されてしまうことに、村の人々は憤慨し、悲しみ、騒然としていました。国全体としては、物流がよくなり経済も発展するはずなのですが、目の前の人たちは誰一人として喜んでなどいないのです。

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人の生活を豊かにできると思っていた土木工学が、発展の裏で人を不幸にしている― これが自分が心からしたいことなのか、わからなくなりました。犠牲なくみんなが幸せになることってできないんだろうかと、考え込んでしまいました。

一方、ケニアの家族との暮らしの中でみんなが一番笑顔になるのが、そろって夕飯を囲んでいる時。開発に憤慨していても、何ら特別な食事でなくても、手作りの料理を囲んで時間をともにしている時はみんな笑顔になっちゃうのです。国を超えて海を超えて、おいしいごはんを食べる幸せは人類共通なんだなあと感じました。

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どんなに思い通りにいかない環境でも、自分の手で笑顔を生み出すことができて、そして誰一人として不幸にしない。誰もが平等に幸せになれる「料理の力」に目覚めました。

1-6. 土木工学から台所へ

帰ってきて就職活動をし、国際協力や土木業界にも興味はあったものの、出会いあってクックパッドに入社しました。「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」という当時(2014年)のミッションが、自分の気持ちを真っ直ぐに表してくれていて、心にすとんと落ちたのでした。大きな外力に翻弄されるのではなく、誰もが自分の手で自らの幸せを作れる世にしたいと思い、入社しました。

入社して数年は、クックパッドのレシピサービスの開発を担当していました。しかし海外への興味は抑えきれず、そこに「料理の力」への関心が加わり、気がついたら自分の時間とお金を使って、世界の台所に足を運んでいました。

(※2017年以降クックパッドのミッションは、「毎日の料理を楽しみにする」になりました。短くなっても精神は変わらずです。)

1-7. 世界の台所へ

世界中誰一人として食べない人はいなくて、世界中に台所がある。あらゆる人の暮らしに等しく笑顔を生んでいる。

世界中の台所の「料理をする人」に会いたくて、「料理の力」を知りたくて、台所探検に出かけはじめました。

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世界の台所で一緒に料理をするうちに、料理は個人の営みに留まらず、国の風土や歴史や経済に通ずる「社会を知る窓」でもあるということにおもしろさを感じるようになりました。ブルガリアの台所のヨーグルトスープから、酪農を育んだ気候や、消費が広がった社会主義の歴史が見えてきたり。

こんな小さな日常の営みから、テレビのニュースや学校の地理の授業で聞いたような大きな世界の動きが見えてくるのがおもしろくて、そしてそのおもしろさを伝えたくて、「世界一おいしい社会科の時間」という大人向けのイベントを始めました。そのうち、子どもたちと世界への興味の扉を開きたいという気持ちが膨らみ、小中学校の社会科で授業をさせてもらうようになりました。

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2. 最近の活動

料理から広がる「楽しい!おもしろい!」を様々な方法で伝えています。
食から始まる学びを作っていきたい、というのが最近の関心です。

授業
小中高校の社会科や総合の授業などで講師としてお話ししています。実際に食材を食べたり道具に触ってもらうことから始めて、料理という日常の身近なものから世界がわかっちゃうというおもしろさ、国や人種を超えて同じ人間として見る視点を伝えています。
ここ数年は、探究の授業に関わらせてもらうことも増えました。単発だけでなく、通年で子どもたち一人一人の探究活動に伴走させてもらったりもしています。私自身が世界の台所でやっていること自体が、料理のまわりの「なぜ?」を深掘る探究だということもあり、子どもたちと一緒に首を傾げたり調べたりしながらとても楽しくやらせてもらっています。

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ワークショップ・イベント
学校向け以外にも、全国各地で様々な機会をいただいてきました。以下は一例です。

・「世界の台所探検!」ワークショップ:台所の風景や料理から世界を知ろうという、実食とお話しをあわせたもの
・「インドの菜食事情と家庭の食卓」:地域を絞って特定のテーマで、実食とお話し。
・「はじめての〇〇ごはん」講座:オリパラホストタウン交流事業の一環で、料理を通して相手国の文化や暮らしを知ろうというもの(実施例: スペインごはん、ブルガリアごはん)
・料理ワークショップ

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その他に、学習塾・大学・定時制高校・親子教室・市民講座・勉強会・イベント、などなど取り組んでいます。

研究

大学でお世話になりながら、自身も研究活動をしています。立命館大学の方では家の料理から見える社会の様子を関心とし、大阪大学の方では「食生活変容からみる食価値観の分析」をテーマに研究しています。歩みはひじょうううううに遅いのですが、学術的な視点も持って、食の学びを生み出していきたいと思っています。

2021年4月〜現在 立命館大学BKC社系研究機構 客員協力研究員
2022年4月〜現在 大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER) 連携研究員

レシピ紹介

台所から持ち帰った、「その土地らしいおもしろさのあるレシピ」や「まねしたくなっちゃうような楽しさの詰まったレシピ」をクックパッドで紹介しています。

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執筆

noteの他に、クックパッドニュース・味の手帖等に連載をしています。単発で記事を書いたり。

書籍

2020年12月18日に初の著書を出版しました。そして2023年4月に、より食の先にある世界を深掘りする二冊目を出版。

絵本の翻訳も二冊させてもらいました。
「単に英語から日本語にするのではなく、現地の暮らしや食や文化を汲み取って訳してほしい!」と依頼くださった編集者の方には感謝です。
どちらも原書が素晴らしいので、胸を張ってお勧めできる本です。お子さんはもちろん、食や旅が大好きな大人にも。

テレビ・ラジオ出演
NHK総合「世界はほしいものにあふれてる」ではブルガリアとオーストリアの台所探検。
NHK「まる得マガジン」では世界のたまご料理を紹介。たまご料理30品以上を収めたこちらのテキストは、なかなかいいです。

ラジオは、各局で世界の家庭料理のお話しなどをさせていただいています。

3. 信じていること、これからやっていきたいこと

料理って、世界を知る窓なんです。
料理を通して、世界の人と暮らしに興味を持ってもらいたい
と強く願っています。様々な角度から国や人を見られるようになれば、決めつけや分け隔てのないやさしい世の中になると思うのです。世界中みんなごはんを食べていて、一見ちがうようにみえる食事も、それは環境が生んだ表面的な差でしかないのだから。
きっかけは料理以外にも色々ありえますが、おいしいごはんを食べる幸せの世界共通性は信じられるので、今はこのアプローチでやっています。

それからもう一つ。料理は、すべての人を幸せにできる、世界をつなぐと信じています。
料理って、誰もが自分の日常にちょっとした幸せを生み出すことのできる、すごくパワフルな手段なんです。思い通りにならないことがあった日でも、ほっとするご飯があればなんとかなる。そんな力を持ったものだからこそ、一人でも多くの人に、料理に振り向くきっかけを届けたいと思うのです。

2021年春、クックパッドを卒業し、独立しました。信じていることややっていきたいことはずっと変わらず、さらに大きく挑戦していきたいと思っています。今までやってきたことを超えて、ご興味を持ってくださった方とは一緒に道を切り拓いていきたいと思っております。ご依頼・ご相談は、メールにて気軽にご連絡ください^^
連絡先:misato.okaneya★gmail.com (★を@に変えてお送りください)



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