トムの卒業日

「トム、やったな!」

普段から気さくなコミュニケーションをとる職場だが、いつも以上にうかれた同僚たちが声をかけてくる。これといった成功に身に覚えがない以上、その逆を案じなければならないのだろうか。激昂するボスを想像をしていると、ちょうど彼がフロアに現れた。
そのままボスは自分の方へやってきて

「おめでとう、無事卒業だ」

かつてない温かい笑みをうかべてこう言った。

「あーこれは今の時点ではまだわかってないことなのだが、今日の午後、ついに探し求めていたテロリストのアジトが見つかる。そこへ突入したうちのメンバーは次第に苦戦を強いられ、なんとか活路を見出そうとし、結果お前は死ぬ

死ぬ

「ただ死ぬんじゃないぞ、感動的な演出が君の幕を引くからな!」
トムは温厚でトボけたところのある役柄なので、つい「あ、ありがとうございます」と礼を言ってしまう。

ボスの輝いた目は、まだ話が終わっていないと物語っていた。

「来シーズンでは、お前がかつて連続殺人誘拐犯に監禁されていた壮絶な過去や、どこかに隠しもっているという莫大な財産を追って、このチームも忙しくなるからな!!」

「僕ってそんな過去要素微塵もなかったですよね?!?」

「シーズン初めは海外ロケからやっちゃうってよ~~!!ヒュー!このお金持ち!!」


ボスは一方的にそう言い放ち、鼻歌交じりの軽足でフロアを出ていった。


「たまに過去回想か誰かの枕元に重大なヒントを言いに来るんだろうなぁ…」

#コラム

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