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美術作家・美雨初個展「Pray」 インスタライブ感想

昨日7/25、無事に美雨さんの初個展が終了致しました。盛況だったとのことで大変嬉しく思っております。

さて、こちらのnoteでは、会期中に行われたインスタライブについて感想を綴って参ります。インスタライブはアーカイブに残されておりますので、未見の方はこちらから会場の雰囲気を感じ取って頂ければと思います◎

▼アーカイブはこちら

それではインスタライブを見ながら会場を辿ってみましょう。

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▶︎会場の全体像

今回のインスタライブは、会場全体の流れと、特に注目してほしい箇所の解説という構成になっています。

会場の全体図はこのようになっています(参考:冷泉荘さんHP)。壁面には基本的に平面作品が展示されており、星印はこのあと述べる作品解釈にまつわる作品の位置を示しています。

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※動画を見ながら書き起こしたため、実際の展示と異なる部分がある可能性があります。あらかじめご了承ください

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まず入り口から入ると過去作品の大型作品がお客様を迎えます。通路の中央には長机が置いてあり、小作品が飾られています。

そのため順路がわかりやすく、「過去作品から『現代の神話』まで(の作品を展示)」という主題が活きた配置であると言えるでしょう。

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▶︎入り口すぐの壁の様子。引用元:
https://twitter.com/mirinmiu_o/status/1418429463562317825?s=21

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▶︎立体作品《ピエタ》と《平和の鳩》を据えた「祭壇」

美雨さんはこれまで主に平面作品を手がけてきた作家さんですが、今回は立体作品にも挑戦しています。それが《ピエタ》《平和の鳩》、そして後に述べる《ホワイトマーメイド》です。

《ピエタ》と《平和の鳩》は、簡易的な祭壇に祀られており、天使の絵やオリーブの枝、金の聖杯などと共に据えられています。オリーブの枝は、神話『ノアの方舟』からきたモチーフです。

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▶︎ピエタと天使像 引用元:
https://twitter.com/mirinmiu/status/1418429056983261184?s=21

美雨さん曰く、ピエタの像が好きだとのこと。様々な作家さんがピエタの像を立体や絵画で作っており、自身もそれに倣ったそうです。

ピエタとはイタリア語で哀れみ・慈悲などの意。聖母子像のうち、死んで十字架から降ろされたキリストを抱く母マリア(聖母マリア)の彫刻や絵の事を指します(Wikipediaより)。

ピエタの後ろに飾られたこの天使の絵についてはこう述べられていました。

(この天使は)思うに祀られた人なのかなと。ちょっと悲しげな青。この絵は青と赤と白だけで描きました。

これに関して、私は個人的に、「ピエタの像のような様子を間近で見て心を痛めた優しい少女が、死後、自分も祀られるような形で二人を見守っている」というストーリーが見えてきました。これが正解というわけではありませんが、この祭壇にはなにかを物語っていく力があるように感じました。

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▶︎平和の鳩とオリーブの枝、金の聖杯。 引用元:
https://twitter.com/mirinmiu_o/status/1418429463562317825?s=21

《平和の鳩》はピカソなどもよく用いたモチーフであり、日本でも「白い鳩=平和の象徴」(奇しくも1964年の東京オリンピックで行われたパフォーマンスですね)として扱われることが多いですが、その出自はあまり知られていないのではないでしょうか。その答えは美雨さんの好きな神話『ノアの方舟』の中にあります。

以下、美雨さんがインスタライブで語ったノアの方舟のお話をかいつまんで引用致します。

「ノアの方舟」(の物語)は、地球が悪事に満ちた世界になってしまったものを神が大洪水を起こしてリセットしようとしたもの。その際に、善良な人間であるノアが(神からの命を受けて)、番(つがい)の動物を一対ずつだけ、巨大な船に乗せていく。

舟に乗り終えたところで大洪水が起きる。大洪水のあと、ノアたちはどうやって地上に帰ったのか。(その鍵になるのが鳩である)
ノアたちは鳩を飛ばして地上の様子を調べさせることにした。戻ってきた鳩はオリーブの枝をくわえていた。洪水が収まり木々が生きていること・地上が近いことを確認し、ノアたちは地上に戻る。
オリーブの枝を咥えた鳩は平和の証。スマホ絵文字の鳩がオリーブを咥えていて驚いた 笑。 それくらいメジャーだけど、日本ではあまり知られていないみたいで、(お客様からは)「この雰囲気が良いね」と言われた。

※カッコ内の補足は筆者によるもの

鳩が平和の象徴というのはメジャーな話だが、その元となった話を知らない。なんだか日本人の空虚さが表れているようにも感じました。

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▶︎祭壇に込められた想い

さて、祭壇の話に戻しましょう。なぜ祭壇を設けたのか。インスタライブ内での美雨さんの言葉を引用してみましょう。

今回、簡素ながらも祭壇を作りました。なぜ簡素かというと、これから展示していく上で増えていくであろうからです。絵が豪勢になるかもしれないし、そこから引き算していくかもしれない。

(※筆者による多少の省略が含まれます。正確さを求める場合はインスタライブ本編をご覧ください)
https://www.instagram.com/tv/CRqloBiJg3P/?utm_medium=copy_link

すなわちこれらは立体作品一点で成り立つものではなく、複数の作品あるいは装飾品によって完成し、また、完成の時期がいつかもわからない(もしくは完成イメージの変化も起きうる)、未知の力を秘めた作品と言えるでしょう。

今後の個展において、祭壇がどのように変化していくのか。また、祭壇の変化からも作家のコンセプトや思想の変化が伺えそうで、非常に興味深く感じました。

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▶︎《月》が誘(いざな)った観客たち。原画の持つ力。

今回の個展「Pray」に来場された方の多くは、メインビジュアル《月》を見て訪れたとのことです。

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▶︎DM画像。引用元:
https://twitter.com/mirinmiu_o/status/1412049498591830031?s=21

DMを見て来られた方の多くが「原画はだいぶ印象が違う」と言われていたそうです。

やはり生の原画の力は大きくそして強い。それを改めて実感したことで、作家の制作原動力が増していくことを期待しています。

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▶︎キャンバス作品《疫病》と、《肖像画》たち

《疫病》の絵(壁面中央の青緑色の作品)の左隣には肖像画作品が飾られています。なぜここに肖像画を飾ったのでしょうか。

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▶︎《疫病》と肖像画。奥の壁左側がそれに当たる。
引用元:https://twitter.com/mirinmiu/status/1418429056983261184?s=21


理由は「《疫病》の絵の真ん中にいる少女が自分目線だから」とのこと。

よって、《疫病》に描かれた少女と、過去に描いた肖像画が割と一致しているのではないかと考え、歴史を(並べて)見るという意味で隣に飾ったそうです。

《疫病》の右隣にも赤が際立つ作品が展示されています(写真では背景の青が目立ちますが、描かれた人物には強い赤が用いられています)。

ライブ中に「ややきつい印象の、棘の刺さるような絵を展示している」と言い切っていたのがとても印象的でした。その言葉を聞いて、その棘が誰かの心に残り続けることで、祈りや偲びといったことを思い出し続けるトリガーとなるのではないかと感じました。

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▶︎《疫病》の絵は、過去・現在・未来を駆ける

《疫病》は、3種の登場人物で構成された作品だそうです。

① 真ん中の立っている(祈っている)女の子。人類だったり素直な自分の目線を示す。

② 少女のその後ろにいる(首を落とそうと)剣を振りかざす者。この者は「人間」を示す。これはコロナではない。

③ 左上、空中を漂い、頭の後ろに月夜の光を背負っている者。この存在がコロナ。

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▶︎《疫病(未完)》※作画途中の絵を仮で掲載しております。 引用元:
https://twitter.com/mirinmiu_o/status/1402247733029740552?s=21

この絵には説明キャプションがついています。

「上空を飛ぶ疫病、
剣を振りかざす悪魔化した人間。
それらを見ている私達。
疫病を祀る絵である。」

この絵を深掘りするには、「祀る」という概念が必要になってきます。以下に、インスタライブでの美雨さんの言葉を要約します。

現在、私たちは疫病の危険に晒されている。疫病の危険に曝されているということは、「今つらいよね」と現在進行形で共感してもらえる絵だと思う。
そして、疫病(コロナ)が去った後にこの絵を見ると、「こういうこともあったよね」と、過去を振り返る作品となる。つまりコロナは過去(昔のもの)となる。
ということは歴史画にもなるなと思うし、再度コロナが来ないように祈ったり、またコロナ自体に捧げる絵にもなるかもしれないと思っている。それが『祀る』ということ。
だからこの絵は今も面白いし、未来・子孫などに向けて見てもらい、過去の出来事を伝え、(未来で見る人たちに)恐ろしいなと思ってもらえるような、そんな絵になっている。

よって私個人としては、この絵のタイトルに(未完)と添えられているのは「これから未来に向けて、そしてコロナ禍がいつか過去のものとなったときにまた違った意味を呈し始めるため」であり、作品が完成していないという意味の未完とは異なるものと考えています。

祀画になった時に完成するのか、それとも別の意味を持ち始める(例えば疫病以外の脅威)ことで新たな作品になるのか。それはまだ不明ですが、少なくとも確かなこととして言えるのは「この絵は過去現在未来すべての時間を駆ける」ということだと思います。


また、《疫病》の絵のすぐ隣には、描いていく過程を写真として展示されています。これが他の作品とは異なる大きな特徴です。

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これについては、映像を見ながら美雨さん自身の言葉で聞いた方が断然楽しめますので、アーカイブをご覧になられることをお勧め致します。(だいたい-15:00あたりから解説パートになります)


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▶︎「Pray」を場として顕現した立体作品《ホワイトマーメイド》

この個展の大きな特徴は、「儀式」を行う場が設けられていることで、「祈り=Pray」を体感できるところと言えるでしょう。

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引用元:
https://twitter.com/mirinmiu_o/status/1418429463562317825?s=21

例えば神社やお寺を訪問した時。人は自然と、その場その場で決められた手順に沿って祈りや祓えの儀式を行います。

しかしながら(特に日本では)、「特別な場所・正しく定められた手法でなければそういうことはしない(するのは不自然)」、という思い込みも多々見られるように思います。

特別な場所以外で祈ることは本当に不自然なことでしょうか?ここで少女漫画を例に上げてみましょう。

80〜90年代頃までの少女漫画では、物語の中にたくさんの「おまじない」が登場しました。りぼんやなかよしなどの少女漫画雑誌の付録にもそういった「おまじないアイテム」がよく付いてきました。相性をチェックするための紙製温度計、想いが伝わるメッセージカード、合格祈願のお守りのようなものなどなど…。漫画雑誌の付録だけでなく、ティーン雑誌の紙面で特集されることもありましたね。
読者層的に主に恋愛成就が目的のおまじないが多かったように思いますが、これも一種の「祈り」そして「儀式」と言えるでしょう。それは恵方巻や土用の丑の日の鰻、バレンタインのチョコレートなどにも言えることでしょう。

そう考えてみると、大抵の人たちは、少女漫画を経ていてもいなくても、「おまじない」という「正式ではないけれど信じたいと思う(誰かが作った)創作儀式」に触れてきたのではないでしょうか。

美雨さんの個展で描かれているものが主に「死」であるにもかかわらず、なんとも「清い」印象を受けるのは、こうした「自分のこころが求めるもの」に対して素直に表現を行なっているからなのかもしれません。

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▶︎そして「Holy ground」へ(2021年10月東京個展の案内)

今回福岡で行われた「Pray」は、2021年10月に開かれる東京個展「Holy ground」へと続いていきます。福岡で作り上げた祈りの場は東京へと向かい、聖なる場所となり結実します。

最新情報はTwitter(@mirinmiu_o)をご参照ください。詳細の発表が楽しみです◎

▶︎通販サイトのご案内

ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。

個展「Pray」で展示されていた作品の販売ショップへは、以下のURLから飛ぶことができます。

準備が整いましたらこのページで公開されますので、気になる方は要チェックです!(一部作品は10月の個展を終えてからの発送となるそうなので、各作品ページで詳細をご確認ください)

BOOTHのアプリをお持ちの方は、フォローしておくと作品販売の通知を受け取れますのでぜひ◎


美雨さんの作品テーマである『現代の神話』について改めて知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。

文責:2021.07. ナツメミオ


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