emotional

ぼくたちの背がすっかり伸びきって、あたたかな昼下がりより、夜をえらんで生きるようになったころ、部屋にはビールの空き缶が増え、夏もカーテンに包まれた青い部屋で四角い光に照らされる日がつづいた。過去と未来、夢と現実とが乖離してゆく道すじの中に立っていると、よけいにあの頃がまぶしくなる。

青春が今でも胸をときめかせているのではない。もうそこにぼくがいないこと、二度と戻れないこと、忘れかけていること、何もかもが違っていること、それらに追いつめられて、どうしようもなく息苦しくなっているだけなのだ。この胸を押しつぶしてくるものは、不安でも希望でもなく、後悔と焦燥である。

ぼくがあの夏を煌めきの中に閉じ込めたのは確かだが、あの頃はあの頃で精一杯生きていたし、未来がずっとよくなるなんて保証も与えられていなかった。それでもぼくはぼくのまま生きることを疑わなかった。

思い出したように八月。ぼくはあの頃が恋しくてうらやましくて、二度と手に入らないとわかっているから、安心してすがっていられる。ふいにあの頃に戻されたら、きっと青春の作法がわからずに、立ち往生してしまうに決まっているのに。ずるい大人たちは、みんな後悔を八月行きの貨物列車に乗せて、あの頃へ送り返してしまう。今だって、生きているのに。

何年かすれば、きっと今が恋しくなる日がくる。そんな風に自分を叱りつけていた日々さえ、やがて枯葉の中。立ち止まることを知らないぼくたちの人生は、季節という回転テーブルの上で、少しずつ色褪せながらめぐってゆく。ああ、これも幻か。ぼくたちの目の前におそろしく浮かび上がる夏の憧憬は、いつだって憂鬱が見せた幻だ。強いお酒を飲んで、シーツにもぐりこんだなら、きっとすぐに忘れてしまう。忘れてしまうから、もっと淋しいんだ。

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