もう……

私はまた、失敗をした。もう、何度目だろう。こんなはずじゃなかった。こんな大人になんてなりたくなかった。思えば十九歳のころから、ずっとそうだった。同じことの繰り返しだった。お酒を飲んで、酔っぱらって、いい気になって、本人は強くなった気でいても、周りから見ればなんて滑稽な姿なんだろう。そうして、大切な人のそんな滑稽な姿を、何時間も檻の外から眺めさせられる人たちは、どんなに惨めな思いをしていただろう。

家族や友達は、優しくて、私に甘かった。だから私が何度同じ失敗をしても、やれやれとあきれた顔して、少しはお酒を控えたほうがいいよ、なんて、たしなめることはあっても、何かを強制することなんてなかった。だけど、それは、お前の人生はお前のものだからって、あくまで他人として、できうる限りの優しさだったのだ。

あの人だけは、そうではなかった。私の人生を、自分の人生と同じくらい重く受け止めてくれていた。もしかしたら、私以上に。そうして、私がまともな人生を歩めるように、あの手この手を打ってくれた。きっと身を切るような思いをしながら。本当なら、そこで生まれ変わるのが、人間というものだろう。改心するタイミングは、何度もあったはずだ。だけど私は、変われなかった。守れもしない約束を何度も取り付けて、その度に破り、裏切りを繰り返した。もしかしたら、私は心のどこかが欠けているのかもしれない。

お酒を飲んでいるときの自分が好きだった。のは、もう、ずっと昔の話。饒舌で、明るくて、寛大になれたつもりでいながら、その姿がどんなに醜いものか、朝が来るたびに思い知らされる。目が醒めたとき、ワァーって声あげて、枕に顔をうずめて、死にたくなる。ごめんなさい、ごめんなさいと唱えながら、ゆうべの自分を殺してやりたくなる。

器用で、要領がよくて、なんでもそれなりにこなせる人間だなんて思い込んでいたけれど、実際は、人に助けられているだけだった。私にある才能は、人にかけた迷惑を気にせずに過ごせること。ああ、なんて最低な才能なのだ。今に、家族も、友達も、私の本性に気づくだろう。いや、気づいた上で、今まではまだ我慢してくれていたのかもしれない。そのうちに、きっと愛想を尽かされて、みんな離れていく。そうしてこのまま、本当に孤独になってしまう。私だって、私みたいなやつとは、友達になりたいなんて思えないのだ。

私に必要だったのは、重大な決心や、誓いの言葉なんかじゃなかった。私が本当に、すぐに取り掛かるべきだったのは、自分で自分を管理すること。それは単なる精神論なんかじゃなくて、もっと具体的に、何をどうすれば、どうなるのか、ひとつひとつの行動の結果を予想すること。だって私は、ずぼらでも生き抜いていけるほど、強い人間じゃないのだから。今までは、誰かがこっそりと私の分を背負ってくれたから、生きてこられただけ。もしもひとりぼっちなら、私など、とっくに死んでいてもおかしくない。だけど、そのために、私の分を背負わせすぎたために、ついにぽっきりと折れてしまった人もいる。これ以上、後悔のしようもない。今がよければいいだなんて、そんな時代は、終わったのだ。私にはもう、刹那的な夜なんて、二度と訪れなくていい。もう、十分に、使い果たしただろう。明日のことなど考えない権利も、大切な人からの信頼も。今の私には、何にも残っていない。

今さら、私を管理するために、色んなことを始めてみた。うまくいくか分からないなんて、言っている場合じゃない。これを、うまくやり遂げなければならない。それも、一生やり遂げつづけなければならない。私はこの生涯において、あと一度も失敗を犯すことは許されないだろう。だけど、本当は、失敗するかどうかに怯えているような状況が、そもそもおかしいのだ。一日一日を慎重に生きていくことももちろん大切だけど、それよりも私は、二度と失敗しないための仕組みを作るべきだった。それだけの話だった。もう大丈夫、なんて、言いたいけど、まだ言えない。私の言葉に、意味なんてなくなってしまったから。今は、誰かに信じてもらおうとか、そんなことを口にする資格はないから、ただこうして自分自身の考えを整理しながら、明日も、明後日も、その先も、ずっと、自分と見つめ合って暮らしていくしかない。そこに、もう、あの人の姿が戻らなかったとしても……。

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