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不憫なホールズワースを褒めよ!讃えよ!! ソフト・ワークス「Abracadabra」

 ソフト・マシーンは2003年に再結成し(ようとしたがカール・ジェンキンスから許可が出なかったのでこの名前になっ)た。その時に出たアルバムが本作である。

 面子はヒュー・ホッパー(ベース)、エルトン・ディーン(管楽器鍵盤)に、ジョン・マーシャル(ドラム)、アラン・ホールズワース(ギター)という方々(ほうぼう)に声をかけた中から来た2人を加えた、いずれも元ソフト・マシーンの4人で、この偶発的要因によって生じた楽器の編成はソフト・マシーン時代には一度も無かったものである。いや、広い範囲で言えばカール・ジェンキンス(鍵盤管楽器)がいた時代の編成が近いが、「鍵盤が弾ける管楽器奏者」のディーンと、「管楽器が吹ける鍵盤奏者」のジェンキンスはやはり厳密には違う。そしてこの微妙な違いが大きな意味を持ってくる

 サックスという「基本的にはリードしかできない楽器」と、ギターという「リードもバッキングもできる楽器」が1つのバンドに共存している場合、どうしてもギターがバッキングに回る局面が多くなってくる。そのため本作では、あのすごいギターソロを弾くことで知られるホールズワースが、頑張って伴奏に徹してる割合が、彼の参加作にしては珍しく多いのだ。彼が以前にソフト・マシーンに在籍していた際のアルバム「Bundles」では、カール・ジェンキンスは基本的には鍵盤を弾いていてたまにサックスに回るという割合だったし、またサックス自体も技術を全面に押し出したソロというより、曲の一部として吹いている場面が多く、こういう事態にはなりようがなかったのである。これは、演奏者寄りのディーンと作曲者寄りのジェンキンスという資質の違いも大きいと思う(代わりに、当時は「鍵盤が弾ける管楽器奏者」のディーンから「管楽器が吹ける鍵盤奏者」のジェンキンスに交代したことで、鍵盤専任のマイク・ラトリッジが居づらくなって辞めちゃうという別の問題が発生したのだが)。一応本作でもディーンが鍵盤を弾く場面はあるが、それでも全体的には「ディーンがソロを吹いて、ホールズワースが伴奏する」という構図が多くを占めている。

 ところで、「ソリストが他にいるせいでホールズワースがバッキングに徹する場面が多い」という状況には、以前にも似たような事例が存在する。UKのファーストアルバムがそれだ。そのためかこの2枚は、ホールズワースのギターの音や演奏自体も似ていると個人的には思う。UKのファーストアルバムを愛聴している自分は、「ソロが本分なはずのホールズワースが頑張って弾くバッキングが聞ける」ということの他に、「ホールズワースのUKっぽいギターが聞ける」という、輪をかけて邪な動機でも本作を聞いている。

 余談だが、ソフト・ワークス名義で再出発したこのバンドは、ソフト・マシーン・レガシーへの改名、さらに晴れて正式にソフト・マシーンという名前を取り戻していくという過程でメンバーが脱退や逝去のために入れ替わっても、この当初の「ドラム、ベース、ギター、管楽器鍵盤(鍵盤管楽器ではなく)」という意図したわけではないはずの編成を何故か崩すことがなかった。ディーンとホールズワースが、彼らよりも我の強くなさそうなセオ・トラヴィスとジョン・エサリッジにそれぞれ交代したことで、本作で聞かれるような問題は大分改善しているようにも思うが、セオはセオでビル・リーフリンの一時代役としてキング・クリムゾンに呼ばれたのが後日内定取り消しになるくらいにはあくまで「鍵盤が弾ける管楽器奏者」なので、根本的解決には至っていない。セオが加入した時点で「元ソフト・マシーン」という資格も無くてよくなっているんだろうし、現行ソフト・マシーンには鍵盤専任メンバーを入れてほしいと思っている。ライブで「ギターがない時代の曲の鍵盤のパート」をギターで弾くエサリッジが大変そうだし。

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