『フィスト・ダンス』 第115回 「高校への布石と菊山道場」

<野心は既に始まっている>

「よーし、あきら、やってみろ。連続5発ずつでいい、左右をな」
「はい」

翔太の掛け声で須田すだは、息を大きく吸ってサンドバッグを叩き始めた。
てかてかのリーゼントヘアーが叩く度に大きく揺れて乱れているが、本人は構わず、目は真剣そのものだった。

須田は西地区支部長の、広陵中の番長だ。
本人の希望で月に2回か3回、自分の学校の長ランたちを連れて菊山道場に来るようになっていた。
須田のように通う番長たちが増え、日替わりで翔太は教えている。
むろん、マーボ、トミーら、他の面々も、他校の長ランの前では立派な師範だった。

藤田率いる甲南こうなん中の面々は準レギュラーで、ちょくちょくやって来る。
喧嘩となれば大中が圧倒的に強いが、序列がはっきりしているだけに、両校の仲は良い。
集団内では、序列が明確ならばもめごとはない、と尚泰なおやすの言った通りである。
互いに自分が上だ、とマウントし合うから争うのである。
翔太は実際に体験して、序列の重要さを知っていた。

「よし、うまくなってる。テイクバックを、もう少し小さく、踏み込みは思い切って。おい隼人はやと、手本を見せてやれ」

翔太に指名された隼人が、よし、という表情でサンドバッグを叩く。
須田とは違って、しっかり型になっていたし、威力も別の次元だ。
思わず、10人ほどの広陵中の長ランたちから、おおおっと嘆声が洩れた。

「隼人、オーケー。きっちり型になってる。パワーもあるしな」

隼人は翔太に言われると、ニンマリした。

すげええっ、隼人君のパンチ、俺らがくらったらイチコロだ」
「そうだ、明。隼人なら、おまえら全員を相手にしても1分かかんないだろ」

実際、それくらい他の中学とは実力が違った。

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