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菜の花の|詩

陽の眩しい田んぼの水路を囲んで
あどけない菜の花の群れが
風に揺れている

柔らかな黄色が揺れている
春の空に透けて
胸いっぱいの朝日を吸い込んで

悪戯な風が水の上を吹き流すと
岸辺に向かい合う花同士
くちづけするように顔を寄せ合う

じっと見るには眩しすぎるよ
水面の煌めきのせいか
幼げで無垢なその色のせいか

渋滞する車の列の真ん中で
ハンドルを握るだけの私が
眩しい車窓の景色に取り残される

なにかを落としてきたようで
ただ毎日に目を背けているようで
心を侘しく縛るのに慣れてしまって

せめてあの菜の花に触れたなら
私は私を許して
絡めた紐を緩やかに解けるのではないか

陽の下に立ち
せめて春の香に気づけたら
冷えた足にも力が戻るのではないか

菜の花と同じ色の帽子をかぶっていた頃は
道端に顔を出した黄色い花に
迷わず手を伸ばしたことだろう

大きすぎるランドセル
小さな蕾みたいだったあの子は
自分だけの物語で世界を見ていた

走りたければ走ればいいのに
車の列をぴょんと飛び越してしまえばいい
不自由さに慣れてしまったか弱い大人よ

せめて菜の花のくちづけを
目と言葉とに印してみる
あたたかな眩しさには気づけたのだから

2022/7/3

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