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ミテモ・インプロWS(2日目)ーリア・ハンド・ホップラとサンキューと同じ理由で出る

ミテモの堀です。
前回に引き続き、3月13日(水)・14日(木)に行われたミテモ・インプロWSのレポートです。前回の内容と重複する内容もある部分は載せず、異なっている部分を書いていきます。

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【読了時間: 15分】
(文字数: 7,500文字)
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何をやったか

導入
 恐怖について
 失敗すること
ワーク
 リア・ハンド・ホップラ
 サンキュー
 同じ理由で出る

インプロは”怖い”と感じる

 インプロについて学ぶということは、恐怖について学ぶこととほとんど同じ意味を持ちます。
 まず、「即興演劇のワークショップ」と聞くだけで、私たちは抵抗感を覚えます。できればやりたくない・・・(汗)。「即興」ってだけでも嫌だし、「演劇」ってだけでも嫌だ。それが合わさって「即興演劇」だと!?勘弁してくれ・・・!!!
 そして、なんらかの条件が整い、インプロのワークショップを受けなくてはならない羽目になってしまったらもう気分は最悪です。「人前に立って即興で演劇をさせられる」「うまくできなかったらどうしよう」などなど様々な憶測が飛び交います。

 ではなぜ、私たちは即興で演劇をすることを「怖い!」と感じるのでしょうか。この「怖い!」という感覚は大人ならほとんど全員が覚える感覚です。しかし、子どもの頃にこの「怖い!」という強力な抵抗感はあったでしょうか?子どもはテレビの前で即興でダンスを踊ったり、歌を歌ったり、演技もして、お人形さんを使って長編のお話もつくります。つまり、私たちはいつごろからか、大人になるまでの間に表現することに対して「怖い!」という感覚を身につけているのではないかとインプロでは考えています。

 恐怖を感じると私たちは持ち前の防衛システムを働かせて、瞬時に、自動的に自分を守ろうとします。相手のアイデアを否定したり、話を先延ばしにしたり、腕組みしたりと、枚挙に暇がありません。この機能は日常生活を生きていく上では非常に大切な機能です。日常生活は危険に晒すことなく、安全に生きていかなくてはならないからです。安全に物事を進めていかなくてはならない時にはこの防衛システムは有益です。
 しかし、日常生活とは反対のことをしなくてはならない時、防衛システムは足かせになります。例えば、時代の変化に適応したい時に、現状維持を目的とする防衛システムは変化への妨げとなります。また、今までにないような前例のないアイデアを生み出さなくてはならない時にも防衛システムはアイデアの源にフタをしてしまいます。


インプロは”怖い”から求められている・・・?!

 このようにルールが反転した世界の代表が芸術の世界です。インプロをはじめ舞台芸術もこの反転したルールで動いています。例えば、皆さんが映画館や演劇を観に行ったとします。そして、その物語のキャラクターたちが危険になったりトラブルに巻き込まれなかったりすることないまま、「終わりです」となった。そしたら私たちは「金返せ!」と怒ることでしょう(もちろん中にはあえてそういった表現方法を採用する作品もあります)。すなわち、インプロをはじめとするあらゆる芸術ジャンルは、普通の人が「怖い!」と思う領域へあえて踏み込んでいくことが仕事になるのです。

 普通にいること・安全にいることが必要ならばインプロは不要です。しかし、現在多くの組織などでインプロを取り入れているという事実を鑑みてみると、次のような仮説が成り立つのかなと思います。

すなわち、
今まで「安全」だったことがもう「安全」ではなくなってきているのではないか。
これまで「リスクがある」・「危険だ」と思われていた領域にチャレンジしていかないと時代の変化に追いつけないのではないか。

こういった問題意識・危機意識を多くの方が感じているために、インプロは演劇の世界を飛び出して、ビジネスの世界にも参入しているのではないかなと私は思います。つまり、世の中が安定していて、決められたことを決められた通りにこなしてくことで問題のない時代ならインプロはパフォーマンスの域を出ていくことはなかったでしょう。現在、インプロは劇場を飛び出して企業の中で新入社員、管理職、経営者の方々に体験してもらう芸術ジャンルになっています。この理由を上のように説明することもできるのではないかと私は思います。

 このように、インプロは人が感じるあらゆる「恐怖」について考え、そこへチャレンジしていくためにはどうしたらよいのかを考えていきます。そのため、インプロを語るときに「恐怖」は重要なキーワードになります。

”インプロが怖い”とはどういうことか?


 人がインプロをする上で強力に働く恐怖は次の4つです。


 ①評価されること
  ・・人から自分がどう思われるかという恐怖
 ②他人から影響を受けること
  ・・人と関わることでトラブルに巻き込まれるんじゃないかという恐怖
 ③見られること
  ・・他者からの視線に晒されるという普遍的な恐怖
 ④失敗すること
  ・・失敗すること自体への恐怖

 インプロをはじめて経験される多くの人は上記の恐怖を抱えています。そのため、インプロのワークショップを進めていくファシリテーターはゲームやアクティビティを通じてその参加者が抱える恐怖を少しずつ緩めていきます。参加者の人が恐怖を感じることなく楽しんで、笑ってゲームをしている内に、インプロにおいて重要な考え方やテクニックが身につくようになっていきます。今回は特に「失敗すること」に絞って話を進めていきます(すべてを網羅したいところではありますが、あまりに長くなってしまっても大変なので)。

失敗は素晴らしい

 多くの人は失敗することを悪いことだと思っています。そして失敗すると非常にネガティブな感情を覚えます。それは、かつて失敗したことが原因でネガティブな経験をしたことによって学習された考え方です。その度重なるネガティブな経験から人はなるべく失敗しないように、なるべく安全にと考えるようになります。

 しかし、失敗しないということは何も学ぶものがないということを意味しています。なぜなら、失敗しないということは新しいことへ挑戦をしていないということだからです。新しいことへの挑戦することなしに、新しいことを身に着けることは不可能です。そして新しいことを身に着けるためには失敗することが不可欠です。なぜなら、失敗には数多くの貴重な情報が含まれているからです。

 自分が今どういう状態なのか、なぜ失敗したのか、どうすればうまくいくのか。そういった点を失敗から学び、考え、改善していくことができます。それを重ねていく内に挑戦した時点ではできなかったことができるようになっていきます。
 このように失敗と学びは不可分に結びついているにも関わらず、失敗が周りからネガティブに扱われてしまうと、人は失敗することが嫌になり、挑戦することが嫌になります。そして、さらに悲劇的なのは、失敗が生じた時に、その失敗をなかったことにしようとしたり、誰か別の人の責任にしてしまうことです。すなわち、失敗から目を背けることを学習してしまうのです。

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 インプロでは失敗することを非常に喜ばしいことだと考えます。インプロはそもそも即興なので、ほぼほぼ毎回失敗が生じます。その度にネガティブになっていたらパフォーマンスを向上させることが難しいですし、なによりインプロから遠ざかってしまいます(私にとって最も悲劇的な状態です)。そのため、インプロでは上述のように失敗に対する考え方を変えること、そして、失敗をいかに捉えればよいのかを学びます。

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リア・ハンド・ホップラ

 合コンや飲み会の席でやるようなゲームに似たゲームです。参加者が輪になります。参加者は各自「リア」と「ハンド」と「ホップラ」という3つの選択肢を用いて順番を滞ることなく回していくというゲームです。
 「リア」は隣の人に順番を回すことができます。自分の左となりの人に順番を回したい場合は右腕をL字型になるようにして前に出し、「リア」と言いながら左に倒します。右となりの人に回したい場合は左腕をL字型になるようにして前に出し、「リア」と言いながら右に倒します。
 「ハンド」は隣からから来た「リア」を反対方向に跳ね返すことができます。自分の左となりから「リア」が来たら、L字型に出した右腕を「ハンド」と言いながら上から下に腕を下ろします。右となりから「リア」が来たら左腕で行います。
 「ホップラ」は隣の隣の人に順番をとばすことができます。頭の上で両手の中指を合わせて”おむすび”をつくり、「ホップラ」と言います。

 なんとなく、察しがついているかもしれませんが、このゲーム、難しいので必ず失敗します。むしろ失敗しないと楽しくありません。安全に行っていると皆の心に「誰か失敗しろよ」という感情が芽生えると思います。

失敗はチームへの貢献・・・!?

 重要なことは失敗しないことではありません、どのように失敗をするかという点です。せっかく失敗をしても極度にネガティブな状態になったり、誤魔化したりすると他の人はゲームを楽しむことができません。つまり、このゲームは失敗があって初めて楽しめるので、失敗をするということはチーム全体への貢献を意味しています。そのため、失敗をしたらポジティブに失敗を潔く認めるようにすれば、笑いが起きてゲームを楽しめます。そしたらまたもう一度始めます。
 この種類のゲーム、すなわち失敗するリスクを楽しむゲームは子どもの方が楽しみ方をよく知っています。そのためすぐに上手くなって、ルールをもう少し複雑にしたり、スピードを上げたりしてリスクを積極的に取っていきます。「リア・ハンド・ホップラ」自体が上手くなることでどのような効果があるかは分かりませんが、この子どもたちの失敗に対する姿勢から私たちが普段どのように失敗を捉え、どのように扱ってるか、そしてそれは成長につながるようになっているのかなどを考えるきっかけになってくれるように私は思います。

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サンキュー

 インプロがうまくいっているような時はまるで事前に示し合わせたような、まるでテレパシーで通じ合っているかのように見えます。では、そんな”奇跡”みたいね場面の時に、インプロバイザー(インプロ俳優)たちは何をしているのでしょうか?それに関連したゲームをいくつかやってみましょう。

 2人1組で行います。Aが何か適当にポーズをとります。Bはそのポーズから”気をつけ”の姿勢に戻します。Aはポーズを直してもらったので、Bに対して「サンキュー」と言います。そしたら次はBが何か適当にポーズをとります・・・・というように順々に「ポーズを取る」→「直す」→「サンキュー」というのを繰り返していくゲームです。
 慣れてきたら選択肢を増やします。Aが何か適当にポーズを取ったら、Bは①直す、②何か適当にポーズをとってAに関わるという2つの選択ができます。Bがどちらの選択をしても、Aは「サンキュー」と言ってあげましょう。特に何か意味をつくりださないといけないわけではありません。相手のポーズを見て、何も思い浮かばなかったら直してあげましょう。思い浮かんだら関わってあげましょうということです。
 これにも慣れてきたら、他のチームと4人組になって、片方のチームが作った2つのポーズを彫刻作品に見立てて、そのタイトルをつけるという遊びもしてみます。タイトルが思いつく限りなんでも言ってあげましょう。これ以上タイトルは出ないかなくらいでタイトルをつけてくれたことに対して「サンキュー」と言ってあげましょう。
 このように相手の身体の様子から出てきたアイデアで相手と関わっていくようなゲームです。Aだけでは意味のなかったポーズも、Bが関わることで意味が見えてきたりします。

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オファーとブロック/アクセプト

 ここでインプロにおける、仲間の出したアイデアとの関わり方についてお話します。インプロでは、人が言うこと・行うことをすべてひっくるめて「オファー」と呼びます。「デートに行こう」、「お母さーん」などの台詞もすべてオファーですし、手を挙げるなどの行動もすべてオファーと考えます。つまり、日常生活はこのオファーだらけです。している本人さえもオファーだと気付かずしているオファーもあります。鼻をすするとか、呼吸が浅いとか、頷きとかetc.
 これらオファーには2通りの扱い方しかありません。「ブロック」をするか、「アクセプト」をするかです。「受け入れない」(=ブロック)か、「受け入れる」(=アクセプト)かと変換してもらったら分かりやすいと思います。すなわち、「デートに行こう」というオファーに対して「Yes」と言えば「アクセプト」したことになり、「No」と言えば「ブロック」したことになります。
 日常生活では基本的に「ブロック」をたくさんしています。それは冒頭でも説明したように日常生活はなるべく安全に、現状維持をしていくことが重要だからです。そのため、デートに誘われる人全員に対して「Yes」とは言いません。デート以外でも少しでも安定を崩しそうなオファーに対しては「No」と言うのが正常な防衛システムの働きです。
 この点についてキース・ジョンストンは次のように述べています。

「Yes」と言うのが好きな人と、「No」と言うのが好きな人がいる。「Yes」と言う人は冒険を手に入れ、「No」と言う人は安全を手に入れる。「No」と言う人の方が「Yes」と言う人よりも圧倒的に多い。しかし、一方のタイプの人をもう一方のタイプの人のふるまいにすることはできる。(Johnstone, K. Impro:Improvisation and the Theatre. Theatre Arts Books, 1979, p.92.)

 私たちは「安全」が必要な日常生活では「No」を言います。ですが、時には「Yes」と言う人がどうなるかといことを知りたいと思います。だから人は映画を観たり、演劇を観たりして、他人にどれが起こっているのを見るためにお金を払います。そのため、アーティストは積極的にこのリスクを選択しながら作品をつくっていくのが仕事です。アーティストがそうしてつくった作品を観て、人はまた日常に戻っていきます。インプロでは即興で物語をつくっていくので、相手のオファーに対して「Yes」といって「冒険」を手に入れる仕方を練習するのです。

 同じ理由で出る

 4人~6人くらいで行います。全員で半円形をつくり、誰かのオファーに全員が乗っかって、同じ理由で全員が舞台から退場することができたら成功というゲームです。例えば、「火事だ!逃げろー!」と誰かが言って全員が「火事から避難する」という同じ理由で退場できたら成功です。
 このゲームを成功させるコツは相手のオファーに対して「Yes」と言うことです。そうしたら簡単に同じ理由で退場することができます。アイデアは何でも構いません。「あ、AKBだ!行こ!」、「ここ寒くない?ちょっとあっちに移動しよう?」、「あ、アリさんだ、追いかけてみよう!」etc.このゲームは「ブロック」が起きると、途端に微妙な空気が流れ始めます。ゲームのルールは非常に単純なのですが、「こんなんでいいんだろうか?」とか「もう少し難しくした方がいいんじゃないか」と思い始めるとうまくいきません。
 相手のオファーに乗っかることがうまくなってきたら、難易度を上げてみます。いよいよ、インプロの舞台において奇跡に見えるようなシーンでインプロバイザーたちがしていることに挑戦してみます。

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 先ほどオファーを外から持ってきました。「火事」「AKB」などはその典型です。ですが、オファーは半円になった時からすでにたくさんされています。1人は腕を組んでいるかもしれません、誰かが鼻をすするかもしれません、首をかしげているかもしれません。次は、事前にアイデアを用意したり、自分で考え出したりせず、すでにそこにあるオファーを使ってみるという挑戦をしてみます。この、他の人が無意識的にやっているオファーを感知したら、そのオファーをとりあえず真似してみます。
 例えば誰かが無意識的に鼻をすすったことをみんなが繰り返し真似をしていると、その状態からアイデアが出てくるかもしれません。「なんか臭うね」とか「花粉がヤバいね」とかといったアイデアが出てくるかもしれません。この手のアイデアは、頭の中で「う~ん」と考えて出したアイデアとは少し性格が異なります。誤解を恐れずに言えば、「頭の中に降ってきた」アイデアです。誰かの頭に「降ってきた」アイデアを受け入れ、みんなで同じ理由で退場すれば成功という流れです。

今、ここにいること

 前回の記事の冒頭で”Improvisation”という単語の持つ意味について説明しました。そして、その意味とは「「前を見ること」をしない」という意味だと述べました。この、誰かが無意識的にしているオファーに気付くというのは先を予測していたりしていたら難しいです。自分のプラン通りに事を進めるためには他の人がしていることに影響を受けるわけにはいかないからです。
 ですが、インプロの舞台で皆が皆、そのように未来をコントロールしようとしていたらうまくいきません。そうするとアイデアをつぶしあう競争になってしまうからです。皆と一緒に協働していく方が、不安ですが結果的に即興で物語をつくっていくことができます。即興をするということは「「前を見ること」をしない」ということ、つまり、「今、ここ」にあるものに目を向けるということなのです。 
 他の人がしている行為に目を向けるというのは、すなわち自分のプランを捨てなくてはならないかもしれません。ですが、そうして互いが空っぽの状態で舞台に上がり、先のことはどうなるかわからない状態で、互いのことを受け入れ合うことで、なんとか奮闘し、誰も想定しなかったような物語が結果的につくられる。これが即興であることの魅力の1つだと、私は思います。

おわりに

 以上が、ミテモ・インプロWSのレポートでした。参加していただいた皆様と、このような機会を設けていただいた飯田さんには改めて感謝を申し上げたいと思います。
 4月より私は正式にミテモのメンバーとなりました。これから、私がインプロを通じて皆様とどのように関わっていくことができるのか、本ワークショップを経てなお楽しみとなりました。
 また、長々と本記事をお読みいただいた皆様、ありがとうございました。皆様のフィールドでインプロがどのような可能性を持ちうるのか、私は非常に関心があります。皆様の探究とご一緒させていただくことができることは私にとって何よりの喜びです。ぜひ記事のご感想も合わせて、お気軽にご連絡ください。

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※前回の記事はこちらです。


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