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インプロの視点ーintroductionー

はじめまして。ミテモ内定者の堀光希(ほり こうき)です。愛知県出身です。本日からこちらにて「インプロ」に関する連載をしていきます。私は大学・大学院とこの「インプロ」の研究をしてきました。今後も広く「インプロ」に関する実践をしていければなと思っています。

「インプロ」という言葉に聞きなじみのない方がほとんどかなと思いますので、まずはインプロの説明から。

”インプロ”とは

 「インプロ」とは即興演劇のことを指します。「Improvisation:即興」を省略して「Impro(インプロ)」と呼んでいます。すなわち、台本も、設定も、配役も決まっていない状態で、その場で作られる演劇のことです。
 私がここで「インプロ」という言葉を使う時はキース・ジョンストン(Keith Johnstone)という方のインプロ思想・方法論を前提にしています。キース・ジョンストンはイギリス出身の作家・演出家で、「インプロの父」とも呼ばれています。彼のインプロ理論は演劇の世界だけでなく、教育学、哲学、脳科学、社会学、心理学など広く応用されています。

人材育成とインプロ

 インプロの応用範囲は、人材育成や組織開発の分野であっても例外ではありません。特にインプロ×組織という視点からストレートに書かれた書籍は、立教大学教授の中原淳先生と東京学芸大学准教授の高尾隆先生による共著『インプロする組織―予定調和を超え、日常をゆさぶる』です。本書の中で、中原先生はインプロを企業の中で行うことの意味を次のように説明しています。

組織に慣れ親しんでしまった(組織社会化・過剰適応)人々に、心理的に安心できる空間の中で(心理的安全)、身体の動きをとおして、自己や組織メンバーにゆらぎやゆさぶり(異化の機会)を与え、じっくりと内省をうながすこと

 組織に新規参入した新入社員の人はその組織に適応するべくあらゆる経験を積み、次第により効率よく、より効果的に業務を回すことが可能になっていきます。しかし、それがあまりに身体化され自動化されてしまうあまりにその企業の中でしか通用しない言葉や思考パターンや行動パターンに縛られてしまうことにもつながり、変化に対して柔軟に対応することが難しくなっていきます。
 こうした過剰適応に抗うため、企業の中で求められるルールとは反転したルールを持つインプロによって、無自覚的であった自身の思考パターンにゆさぶりを起こし、良質な問いかけをきっかけをして仕事をしている環境や状況そのものに対して批判的内省を促すのです。そして、その結果個人(パフォーマー)の中に、または個人と関係する個人(観客)に対しても変化を生み出すことへと繋がります。

この連載について

 中原先生のご指摘の内容について、私よりもこの記事を読まれていらっしゃる方々の方が知識的にも経験的にも豊富であると思います。一方で私は大学・大学院と続けて「インプロ」についての実践や研究を重ねてきたので、「インプロ」の専門家ではありますが人材育成や組織開発の専門家では“まだ”ありません(目下勉強中です)。そのため、ここではお読みになっている方々に対してインスピレーションを少しでも与えられるように「インプロ」についての濃度を高くして、書いていこうと思います。

どのように書くか

 実際のインプロのワークショップでは身体を動かしてインプロの思想に触れていきます。しかし、ここでは主に文字を使ってインプロを伝えていく必要があります。さらに、ワークショップの現場では私が直接参加者と関わっていくので、説明の仕方やロジックなどその場で工夫します(普段はワークショップも即興で行います)が、ここではもちろん今この文章を呼んでいる皆様の表情すら見ることができません。
 つまり、ここではインプロを説明する際に、コミュニケーション的制約が2つ(①文字情報を主に使って②読み手の反応を先読みしながら書く)あります。

どのように仕掛けていくかについて

 この問題点を抱えながらも、ただただ私がインプロの理論や考え方を書いていくだけじゃつまらない。この文章を呼んでいる皆様と創造的に対話を深められる方法・文体はないものかと考えた結果、ある実験を思いつきました。簡単に言えば、「ブログ上でワークショップをやってしまおう」という試みです。
 ブログを読むという経験が「読む、読む、シェアする」というものではなく、「読む、試す/観察する、考える」というものになるように、いわば身体性を伴ったブログになるようにしてみようというものです。私の理想像は、このブログを読みながら読者の皆様が電車内、オフィス内、家庭内などでブログの内容を実践・内省できるような内容にできたらなと思っています。
 私自身はじめての試みなので、実験的な試みです。しかし、インプロに限らず身体を伴った体験的学習は時間的・空間的にかなり一部の人々にしか伝えられません。そのため、この試みが皆様の学びに一定の効果や刺激があるのであれば、より多くの人へ戸口を開くことができます。
 同時に、私のインプロに関する連載には皆様からのフィードバックが重要な役割を果たします。どのような細かな気付きや、疑問点、不明点でも構いませんので、ご意見をいただけたら幸いです。それによってワークショップの質も向上しますし、ブログ上での学びが双方的で対話的なものになることが期待されます。

インプロの柔らかさと硬さについて

 私はここで「インプロを教えること」を目標にしているわけではありません。インプロについての知識や情報が預金のように皆様の中に蓄積されることよりも、むしろインプロ的な実践を通して皆様の日常抱えるモヤモヤから自由になる助けになればと思っています。
 インプロは1つの生命体のようです。即興なので、私たちの生活と密着しています。私たちは日々トライ&エラーを繰り返し、日々自分自身を社会と照らし合わせ、チューニングしながら生活しています。インプロそのものも、そういった私たちの生活と連動し、その姿かたちを変えて、あらゆる環境に適応しながら生きているように私には思えます。
 そのため、皆様が皆様のフィールドで何を考え、何に悩み、どんな実践をするのか、それによってインプロそのものも常に姿かたちを変えていく遊びがあります。私はインプロのこの柔らかさにとても魅力を感じています。なので、皆様がインプロを正しく理解することに私はあまり興味を持っていません。
 しかし、一方で、インプロにおける一貫した態度・ヴィジョンにも大きな魅力を見出しています。それはまるで私たち人間がカテゴリー(国籍や性別など)に関わらず持っている“人間であるとはどういうことか”という視点をインプロは見通しているかのようです。
 キース・ジョンストンは“インプロとは人間探求である”と述べています。いくら表面的な姿かたちは変わろうともその人間探求という態度は一貫して持ち続けている、その硬さにも私はインプロの「奥深さ」を感じています。

おわりに

 以上のような考え方を基本にしながら、本ブログを通して、皆様が少しでもインプロにおけるハード面をのぞき込むことができるようにと努めて参ります。どうぞよろしくお願いいたします。


【参考文献】

中原淳・高尾隆『インプロする組織―予定調和を超え、日常をゆさぶる』三省堂,2012年


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