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近世大名は城下を迷路化なんてしなかった(10) 第3章 3.5~3.6 地図調査の結果

## 3.5. 集計結果と地図調査の結論
   城下町と非城下町に極端な差はない。そして、やや城下町の方が道が良い。


### 3.5.1. 集計結果一覧

城下町の集計結果を表 3.5.1と表 3.5.2に、非城下町の集計結果を表 3.5.3と表 3.5.4に示します。

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表3.5.1: 城下町集計結果(1)


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表3.5.2: 城下町集計結果(2)


35003_集計結果3

表3.5.3: 非城下町集計結果(1)


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表3.5.4: 非城下町集計結果(2)


※注:表3.5.3と表3.5.4について

* 地名のあとの距離は、その距離を一辺とする正方形範囲の調査を意味します
* 距離がkm×kmで表記されている場合は調査範囲の長辺×短辺を意味します
* 数字は明治20年代~昭和10年頃までの陸軍調査地図を基にした計測結果であり、現在の各都市の道路事情を反映しているものではありません

### 3.5.2. 集計結果からわかったこと

それぞれの平均値、中央値を比較した結果、

* 城下町は非城下町より十字路の比率が2%~3%高い
* 城下町は非城下町より三差路の比率が4%~6%低い
* 城下町は非城下町より複雑交差点の比率が3%~4%高い

ということがわかりました(表3.5.5)。

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表3.5.5: 平均値および中央値


これをまとめると

* 城下町は非城下町より丁字路・Y字路が少ない
* 城下町は非城下町より十字路が多い
* 城下町は非城下町より複雑交差点が多い

と、なります。

非常にモヤモヤする結果ですね!(ひとごとのように言う)

しかし、どうあがいても三方向へしか行けない丁字路・Y字路にくらべると、クランク(食い違い)十字路は、ともかく四方へ行くことが可能です。

複雑交差点の大半はクランク十字路と五差路が占めていました。

ということは、複雑交差点が多い城下町は非城下町より道が良いと言えます。

つまり城下町は、城下町ではない町と比べて迷路的とは言えません。むしろ城下町は道が良かったのです

とはいえ、いずれも最大で5%の差しかないわけです。城下町と非城下町に極端な差はありません。

この結果をグラフで見てみましょう。まずは「三差路:十字路」の比率から(図 3.5.1)。

35201_グラフ1

図 3.5.1: 三差路と十字路の割合


平均値・中央値では目立った差は出ていませんでしたが、個別に視覚化すると、城下町の方に三差路の割合の低さで団子状態から抜け出してる町がいくつかあるのがわかります。

また、ここまで地図で見てきた通り、城下町の三差路は丁字路が多いのですが、非城下町の三差路は丘陵地帯のY字路が多いという特徴がありました。こういうのは数字やグラフに現れていない部分です。

次に交差点の総数に占める十字路の割合です(図 3.5.2)。

35202_グラフ2

図 3.5.2: 交差点総数に占める十字路の割合


「(ノーマル)十字路の比率が高い=道が良い」とすれば、さらに城下町の方が道が良いことがハッキリしました。

城下町では十字路の割合が30%を超える地点が6つ現れています。

中でも八代は交差点数が100に届かない小都市でありながら、46%と最も高い十字路の割合を示したのです。

一方で、非城下町は30%の壁が越えられませんでした。宮城県名取市増田などは、4km内に交差点が365も計測できるほどの街路過密地帯ながら、十字路の割合は28%にとどまっています。

田畑の街路を見る限り、名取市増田は方格設計を嫌ったわけではなく、むしろ積極的に取り入れて新田開発したように見えます。

それでも、元から存在する丘陵地帯で生じているY字路、丁字路のために、このような結果となったと考えられるのです。

では、城下町の方が高くなった複雑交差点の比率をグラフ化するとどうなるでしょうか?(図 3.5.3)

35203_グラフ3

図 3.5.3: 交差点総数に占める複雑交差点の割合


複雑交差点の比率をグラフにしてみると、両者は相似していました。

* 小都市から大都市まで、おおむね城下町の方が非城下町より複雑交差点が多い
* 城下町も非城下町も、交差点数が多くなるほど複雑交差点の占める割合が減る傾向が見られる

ということが、グラフから読み取れます。

以上の地図調査により城下町と非城下町の街路のちがいは、ある程度あきらかになりました。

* おおむね、城下町の方が非城下町より道が良い
  * しかし、すごく良いわけでもない
* 正保城絵図の城下町で、主郭への到達が困難なほどの迷路的街路は無い
  * しかし、理想的方格設計都市と呼べるほど整ってもいない
* 城下町は非城下町よりクランク(食い違い)十字路が多い
* 非城下町は城下町より曲がりくねった道やY字路が多い

こうした違いはあきらかになりましたが、そうなっている理由までは、地図調査だけではわかりません。

城下が迷路とは呼べないほどに道が良く、理想的碁盤型都市と呼べない程度に道が悪い理由、それは第4章の文献調査、第5章の都市街路変遷を踏まえて、最終章で説明します。

### 3.5.3. 特別企画:『正保城絵図』の城下町でいちばん道が悪いのどこやねん

せっかくですので、調べた数字を使って『正保城絵図』の城のうち、本論が調査対象とした42城の中で、「もっとも城下の道が悪い城」を決めてみましょう(数字はあくまで正保城絵図でのものであって、現在の各都市における街路が悪いという話ではありません。念のため)。

■ 正保城絵図 十字路の割合が少ない城下町 10選

35301_集計結果_十字路の少ない城下町

表 3.5.6: 十字路の少ない城下町


北・東・南の三方向から迷わずまっすぐ主郭までたどり着ける山形城がランクインしてしまったのが意外でした。

■ 正保城絵図 三差路の割合が多い城下町 10選

35302_集計結果_三差路の多い城下町

表 3.5.7: 三差路の多い城下町


回の字城下町の代表格・篠山城が、実はあまり道が良くないという事実に驚きを隠せません。

小田原城は惣構付近まで含めると道は悪いだろうなと思いつつも、2位という順位には一瞬、目を疑いました。

■ 正保城絵図 複雑交差点の割合が多い城下町 10選

35303_複雑交差点の多い城下町

表 3.5.8: 複雑交差点の多い城下町


なぜか、この10選にのみ突如として現れ存在感を示す福山城。ふたたびランクインし、道は悪いのにお城へたどり着くのは容易という不思議城下町を誇示する、山形城。三種類すべてにランクインする安定力を見せたのは新発田城と掛川城。

さあ! 優勝はこの2者のどちらかか、それとも!?

■ 道の悪い城下町(正保城絵図編)総合1位…新発田城

35304_総合ランキング

表 3.5.9:道の悪い城下町 1位~3位


優勝は三部門で安定の道の悪さを見せた新発田城でした!(念を押しますが、正保城絵図による調査の中での話、それも交差点総数の少ない城下を除外した上での結果です。全時代・全国を通じて日本一というわけではありません)。

2位は十字路の少なさと三差路の多さで高得点をマークした二本松城でした。

新発田城下は開発されて、今ではあまり道の悪さは感じられませんが、二本松城下の道を悪くしている原因である丘陵は健在です。登り降りの苦労を堪能できる城下であること間違いなしです。

ぜひ、実際に足を運んで体感してみてください!

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※城下町の地図は正保城絵図です:  正保城絵図 - 国立公文書館 デジタルアーカイブ
  https://www.digital.archives.go.jp/DAS/pickup/view/category/categoryArchives/0300000000/0305000000_6/00

※非城下町の地図は明治~昭和前期の国土地理院地図(旧参謀本部陸地測量部、内務省地理調査所による地図)です:  国土地理院  http://www.gsi.go.jp/

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※このnoteはミラーです。初出はこちらになります。

https://www.pixiv.net/fanbox/creator/188950/post/410022

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