死んでから永い
あれは京都だったか。
幼い私の背丈を超えて、紫陽花はどこまでも続いていた。
春先で、花はまだない。瑞々しい萌芽が色あせた枝から次々と湧き出ていた。
ひいばあちゃんに手を曳かれ、俯きながら歩いていた。喜寿の祝いの小旅行。
皺だらけの乾いた手は馴染みがなく、私は少し怯えていた。
「あ…」
紫陽花の根本に白く光るものを見つけて立ち止まる。
「どうしたぁ?」
低くしゃがれた声が優しく降ってくる。
カタツムリの白い殻。
ひいばあちゃんはそれを拾いあげ、私の手に乗せてくれた。
「どうして白いの?」
「死んでから永いんだろうなぁ」
*
次にひいばあちゃんに会ったのは、彼女の葬式だった。
呆然としているうちに、ひいばあちゃんは骨になっていった。
削ぎ落とされて、せいせいとした白さ。
全て終わったあとなのに、また萌芽しそうな気配。
それを壺に入れ、永く眠ってもらう。
いつまでもいつまでも。
*
旅先から持ち帰った殻は、今も変わらず本棚の片隅にいる。
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