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死んでから永い

あれは京都だったか。
幼い私の背丈を超えて、紫陽花はどこまでも続いていた。
春先で、花はまだない。瑞々しい萌芽が色あせた枝から次々と湧き出ていた。

ひいばあちゃんに手を曳かれ、俯きながら歩いていた。喜寿の祝いの小旅行。
皺だらけの乾いた手は馴染みがなく、私は少し怯えていた。

「あ…」

紫陽花の根本に白く光るものを見つけて立ち止まる。

「どうしたぁ?」

低くしゃがれた声が優しく降ってくる。

カタツムリの白い殻。
ひいばあちゃんはそれを拾いあげ、私の手に乗せてくれた。

「どうして白いの?」

「死んでから永いんだろうなぁ」

次にひいばあちゃんに会ったのは、彼女の葬式だった。
呆然としているうちに、ひいばあちゃんは骨になっていった。

削ぎ落とされて、せいせいとした白さ。
全て終わったあとなのに、また萌芽しそうな気配。
それを壺に入れ、永く眠ってもらう。

いつまでもいつまでも。



旅先から持ち帰った殻は、今も変わらず本棚の片隅にいる。


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