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第43回 カウンセラーのTシャツと言葉のサラダ 激安弁当とスパイダーマン

カウンセラーとスタッフの日常会話の記録です。

Mi代表:深層心理学が専門のカウンセラー。Mitoce代表。
すたっふ:カウンセラー見習いのスタッフ。少々オタクらしい。


Mi代:今日は外歩きには暑かったですね。体力的にも疲れましたが大丈夫ですか。

すた:はい、体力的には。でもMi代表、どうしてあのような場所を歩かせたのですか?

Mi代:大阪で仕事をしているので、ああいう場所も知っておく必要があると思って。

すた:正直、びっくりしました。ひとりなら行かないと思います。

Mi代:そうですね、行かないほうが良いかもしれません。

すた:Mi代表が「歩いている人とは、目を合わせないようにしてくださいね」と軽くおっしゃっていましたけれども、そんなのジャッジアイズの世界じゃないですか。実際に歩いてみて、その意味はわかりましたけれども。ああいう世界があるなんて、私は想像もしていませんでした。

Mi代:大阪でもあの辺りは、治安には気を付けた方がいい場所ですね。昔はあの辺りの駅を降りると、リヤカーにダンボールを山積みにした人が歩いていたり、路上に物を並べて売っている人がいたりして、もっとにぎわっていました。
最近は再開発などの影響もあってかなり変わったと聞いていましたが。私もひさしぶりにあの辺りを少し歩いてみて、だいぶキレイになったなと思いました。人も少なくなって、少し寂しいですね。

すた:ちょっと、理解できないです。N区のI地区…。

Mi代:こういう世界があるというのも、すたさんに知っておいてほしいな、と思いまして。私たちはカウンセリングオフィスを開いているので、可能な限り、いろいろなことを知っておいたほうが良い。カウンセリングルームに来られる人のことだけをみていても、知ることができない世界があります。カウンセリングをするためには、私はいろいろなことを知っておく必要があると思っていまして。
そういう意味での社会見学です。あくまで私はあの場所では訪問者、外側の人なので。あそこで生活している人たちの暮らしを大事にしたいし、よそ者が邪魔をしたくはない。ただ、ああいう場所が在るということを知らないのも良くないと思うので。行ける機会があったら、行こうと以前から思っていました。
丁度、あの辺りに立ち寄る仕事がありましたし、今回行きました。私たちのオフィスから電車で30分程度の距離に、ああいう場所があるというのは驚いたかもしれません。

すた:私はあの場所を知りませんでした。正直、不安になりましたけど。

Mi代:さすがに一人では歩かせられないし、何かあったときのためにアンテナは立てていました。出来る限り人とは距離を取るように注意してましたが。

すた:あそこはどういう場所なのですか?

Mi代:日雇い労働者の方々が集まる町ですね。いわゆる建築現場など、そういった場所で働く人が集まる場所でした。業者が集まって、あそこで人を集めて、現場に連れていく。それで仕事が終わると、あそこに戻ってくる。全国とくに関西の人たちはあそこに集まってきました。そして街にはそういう人たちが暮らすための、安い宿泊所などがあります。
今はそういった安い宿に、海外からの旅行者がこられたりしますが。
でも最近は、Youtuberがお店を開いたり、若い人も訪れるようになっているので、以前よりも立ち寄りやすくなっているかもしれません。若い人からすれば、普段はあまり体験しない世界だと思うので。私も次回は、どこかお店に入って、食事でもしようかと思っています。

すた:うどんやさんで、かけうどんが180円、お弁当が300円で売っていましたよね。すごく安い。

Mi代:はい、経済的には厳しい人が多いので。そういう人って、まずカウンセリングに来ることはない。

すた:いろんな意味でびっくりしました。

Mi代:違法薬物の取引はやめてくださいという看板が、コインパーキングに大きく掲げられていたり。警察署が暴徒を防ぐための檻に囲まれていたり。たしかにあの辺りは特殊ですね。

すた:国や政治はいったい何をしているのだと思います。

Mi代:私はカウンセラーなので、あまり国や政治について考えるのは向いていないのですが。生活保護や福祉など制度を充実させたとしても、そこから抜け落ちる人は必ずいます。生活保護を受けたくないという人もいるし。逆に生活保護を悪用してお金を稼ぐ人もいました。そういった社会全体の様子を考えながら、自分たちはに何かできることはないのかと考えるのはとても大事だと思います。
私は精神科病院に勤めていたので、そのあたりは強く感じますね。新しい薬や治療法が開発されたり、福祉制度が整ったところで、精神障害を抱える人たちの社会的な立場というのが急に良くなるわけではない。I地区でしか暮らしていけない人、もしくはようやく自分の居場所を見つけた人もいるかもしれない。それは精神科病院でもそうで、福祉的には支援を受けられるし、医療的な支援ができる状況であっても、それでも退院できないで病院に暮らし続けている人たちがいる。病院でずっと暮らしたいという人もいれば、病院からできる限り早く退院したいという人もいる。そういった現場で何が起きていることを考えられるかどうかが、カウンセラーとしては大事だと思っています。まったく何も知らないと、物事を考える枠組みさえない状態になります。
大きな観点で言えば、I地区をみて「日本の社会って一体何だろうな」と考えるきっかけになればと思って。

すた:社会って何だろうな、お金って何だろうなと思います。

Mi代:ああいう場所に出かけると余計にそう思いますね。そういった人たちの存在も頭の片隅にいれながら私は臨床をしています。
たとえば、この前話した『もののけ姫』にも、いわゆる社会の片隅に暮らす人たちの姿が描かれています。監督の宮崎駿はそういった人への視点も持ち合わせているので。

すた:今週、久しぶりに更新した『攻殻機動隊』はどうですか?

Mi代:描かれていますね。攻殻機動隊では、そういった社会的弱者の立場にいる人たちを、主人公の草薙素子が叱咤激励するという場面があります。しかしそれは草薙素子が終戦後、自分の社会的な役割を失いそうになっている兵士なのも影響しているかと。草薙は能力は高いけれども、社会的には弱い立場にいる。相手を叱咤激励するようで、自分の意思確認のようなセリフかと思います。

すた:そうなるとわからないのは、Mi代表はどのような立場なのでしょうか。経済的に厳しい人とか、社会的な弱者の人たちにどう関わるのか。

Mi代:私は深層心理学の立場なので。どのような環境綾状況、またはその人の病状や能力であっても、その人らしい生き方は何だろうなと、内的なこころの状態を考えます。こころの底から、「私はこの生き方をする」と思うのが理想かなと。だから精神科病院で暮したり、I地区で暮らしていたとしても、その人にとって本当に納得のできる生き方が出来ているかどうかが大切です。それは他人が「そんな状況にいるのは可愛そうだ」と思ったとしても、本人が納得できているかどうかが大切だと考えます。本人が納得していないのであれば、納得できるようにするにはどうするかを当然支援しますが。本人が「この生活を続けたい」というのであれば、その思いも大切にします。これは立場の違いなので、福祉の仕事をしている人からは反論があるかもしれません。

すた:Mi代表の話って深刻な内容なのに、なんか当たり前のように話しているところが、逆にヤバいと思います。

Mi代:私は深刻な話を深刻そうに話すのが好きではないし、かといって軽く笑いに変えて話すのも好きではない。というのも、深刻な事態にみえる状況で過ごしている人たちにとって、それは日常なんです。その人たちの立場から物事を考えて話そうとすると、当たり前の出来事として話すしかない。それはカウンセラーとして当然だと思っています。

すた:そうなると今回、途中で偶然見つけたマンガの専門店で、アメコミの翻訳本が揃っているって、少し嬉しそうでしたよね。でも高くて買えないのではと。

Mi代:はい、アメコミ専門家のすたさんのご意見を伺おうと思って。

すた:じゃあ、欲しいアメコミを変えない私の気持ちの葛藤をどう受けとるんですか? Mi代表がこの前つぶやいてましたが「メイドインアビスのナナチのフィギュアが欲しい」なんて、のんきなことをいっていないで、この由々しき事態をどうするか考えて下さい。

Mi代:確かに…。アメコミも社会的な弱者を書いている作品も数多くあるので。そういった作品分析をするために、研究資料として購入する方法はないでもない…。

すた:それなら攻殻機動隊を書き上げて、次の作品のレビューをお願いします。私はスパイダーマンがお勧めです。サム・ライミ版から全部見てください。

Mi代:前向きに検討しておきます…。


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