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クリエータ紹介(14) 片桐凜太郎さん、山口豊さん - ユーザーの心理に寄り添い、「健康・楽しさ・手軽さ」を叶えるサウナ体験を目指して

このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。

今回は、サウナをテクノロジーの力でもっと楽しい空間にしようと奮闘する、片桐凜太郎さん、山口豊さんの挑戦をお伝えします。

プロフィール

  • プロジェクト名:サウナ・トトノイ・サポートシステム

  • 支援プランと期間:Solve (23年11月〜24年1月)

  • クリエータ:片桐凜太郎さん(九州大学 大学院 システム情報科学府 1年)、山口豊さん(九州大学 工学部 電気情報工学科 4年)

片桐さん ブースト会議で発表している様子

これまでの歩み、来歴

今回ご紹介するプロジェクト「サウナ・トトノイ・サポートシステム」の開発を手がける片桐さんと山口さんは、それぞれユニークなバックグラウンドを持っています。

片桐さんは大阪出身ですが、東京で過ごした大学時代は、工学部 機械科に所属していました。その後、興味のある分野を追求するために九州大学の大学院に進学し、現在は修士1年生です。もともと「生体センシング」「行動変容」などの分野に興味を持っていた片桐さんは、同分野に関する研究を多く行っている荒川研究室に所属。機械科で過ごした大学時代には、Web制作やアプリ開発に携わる機会はあまり無かったそうですが、大学院に入ってアプリ開発などを行うようになり、周囲からフィードバックを得ながら開発を進めていくプロセスや、アイデアが形になる面白さを感じていると言います。現在も彼は、人の動きや感情がどのように変わるかに関心を持ち、機械や技術そのものよりもその応用に魅力を感じています。

一方、山口さんは、子どもの頃から理科が好きで、小学校の理科の授業で行った実験を家でも再現するなど、自然とものづくりに親しんできました。自分で作ったものが動くことに喜びを感じる子どもだったと振り返ります。中学や高校時代はスポーツに打ち込み、ものづくりからは離れていましたが、大学に進学し、電気情報工学科4年生になると、ハッカソンやインターン、学会発表などに勤しむ先輩に刺激を受け、ものづくりへの興味が再燃。彼は、小出研究室に所属し、プログラミングや技術開発の世界に夢中になりました。

彼らの出会いは、福岡未踏が応募者向けに開催する1泊2日のプレイベント「ブートキャンプ」でした。PMによる相談会やアイデアソンなどが行われたこのイベントに、それぞれアイデアを持って参加していた片桐さんと山口さん。PMからだけでなく、イベント参加者同士でもお互いのアイデアにフィードバックをし合ったり、技術について語ったりするなか、ちょうどサウナの中で、片桐さんと山口さんも技術への関心や福岡未踏への熱意などを語り合ったそうです。

このとき、片桐さんの意欲の高さが印象に残っていたという山口さんは、のちに片桐さんを誘い、ふたりで福岡未踏のSolveに応募することになります。

プロジェクトの概要

  • 課題提供:佐々木食品工業株式会社

「サウナ・トトノイ・サポートシステム」は、サウナ利用者にとってより楽しく、快適で、健康的なサウナ体験を提供することを目的としたプロジェクトです。このプロジェクトは、サウナの利用者がサウナ内で過ごす時間をより良いものにし、同時に、サウナの効果を最大限に活用するプロダクトを開発することを目指しています。

現在サウナはリラクゼーションや健康の一環として多くの人に利用されていますが、サウナの適切な利用方法やその効果については、十分に理解されていない面があります。特に、サウナ内での滞在時間が長すぎると健康リスクが高まる可能性がある一方で、短すぎるとサウナの効果を十分に得られない、といったこともあります。

そこで、このプロジェクトでは、サウナ利用者がサウナ内での時間を適切に管理できるよう、サウナ内での滞在時間を視覚的に示すシステムの開発を行っています。このシステムでは、サウナ内に設置されたカメラが利用者の滞在時間を検知し、滞在時間に応じて表示するアニメーションが変化することで、利用者は自分がサウナ内にいる時間を直感的に把握できます。

プロジェクトを始めた当初は、滞在時間だけでなく、体表面温度や発汗量などさまざまな指標で数値を可視化することを考えていましたが、課題を提供した佐々木食品工業様とのコミュニケーションのなかで、よりエンターテインメント性を重視した方向へとシフトしました。アニメーションの変化により、利用者はサウナ内での適切な滞在時間を、楽しみながら認識できるようになります。

プロジェクトでは、高温多湿という、通常とは異なるサウナ特有の環境に適した技術開発が求められました。当初はセンサーを使用することも検討したそうですが、そういった環境への適応性の問題から、カメラを用いた画像解析へと方針を変更。画像解析システムを通じて、サウナ内での人の動きや滞在時間を検出し、アニメーションに反映させることがプロジェクトの中心となっています。

また、カメラに映りたくないサウナ利用者へも配慮し、全体を映すのではなく一部分だけを映す形に調整し、「滞在時間をアニメーションで可視化できるエリア」を用意する形にしました。普段通っている利用者に、わざわざ何か新たな行動をしてもらうのではなく、ただそのエリアに行くだけで、手軽に健康や楽しさを提供できるものになりました。

一番左)山口さん、一番右)片桐さん 成果報告会ポスター発表の様子

福岡未踏への応募理由

山口さんが福岡未踏に応募した主な理由を尋ねると、「環境としてチャレンジしやすかったためです」とのこと。同年代の参加者が多いことや、九州大学の教授陣がPMとして関わっていること、さらには、1期で採択されたクリエータに同級生がいて、福岡未踏が良い機会だと聞いていたことも、彼が福岡未踏に親しみを感じた理由でした。

実際、福岡未踏で毎月開催されるイベントでは、PMや他のクリエータとのコミュニケーションがとても実り多いものとなっているそうです。プロジェクトに対するコメントやフィードバックはもちろん、知識や技術が不足している部分を教えてもらう機会にもなっています。

片桐さんが最初に福岡未踏のブートキャンプに参加した理由も、やはり福岡未踏に参加するクリエータ、またその他にも頼れる人が周りにたくさんいるという「環境の良さ」です。技術開発に関する具体的なアドバイスやサポートを得られる点も、彼にとって大きな魅力でした。また、ブートキャンプでの参加者同士でのフィードバックなどを経て、自分のアイデアでは応募が難しいかな?と行き詰まりを感じていたとき、Solveのプランに出会ったことで、参加のハードルを下げることができました。

実際、福岡未踏に参加しているクリエータは、年齢に関係なく、なにかに熱中している玄人が多いそう。片桐さんは、「やっていることは違っても、技術で繋がっていると感じます」と話してくれました。

福岡未踏で得られたこと

片桐さんと山口さんが福岡未踏プロジェクトに参加するにあたって、彼らが成し遂げたいことには、技術的な成果はもちろん、個人的な成長や社会的な影響も含まれています。

まずは、「サウナ・トトノイ・サポートシステム」の完成と実用化が、彼らにとって最も重要な目標です。片桐さんは、画像解析やセンサーなどの開発経験はあったものの、アニメーションなど見せ方に関する開発経験はありませんでした。一方、山口さんはデバイス系の知識・経験よりも、ソフトウェア開発の基礎的な知識に強みがあり、「実践のチャレンジが舞い込んできた!」という状況で、お互いの未経験を補完する形で、早めに役割分担ができたとのこと。現在は、山口さんがアニメーションの制作を担当し、どう画面に反映させるかの部分を片桐さんが担当しています。

このように彼らは、それぞれ異なるスキルを持ち合わせていますが、プロジェクトを通じてお互いから学び合っています。さらに、他のクリエータやPM、メンターからのフィードバックを通じて、プロジェクト管理やチーム開発の能力も向上させる機会になっています。

また、1月でプロジェクトは一区切りを迎えるものの、さらに良くできるポイントがいくつも見えているため、彼らは開発を続けたいと考えています。

福岡未踏が終わったあとの目標についても尋ねてみると、片桐さんは「サウナもそうだが、これまであまりITやデジタル技術が介入してこなかった領域に取り組みたい。行動変容には引き続き携わりたい」とのこと。山口さんは、「いつか『サウナ・トトノイ・サポートシステム』が全国のサウナに導入されたら面白いな、と思っています」と、素晴らしい野望を教えてくれました。

おわりに

ユーザー視点で見た「サウナ・トトノイ・サポートシステム」は、特に新たな行動が求められず、健康に繋がり、しかも楽しい!というサウナ体験です。どうせならもっと効率的に健康を手に入れたい。どうせなら楽しく。でも面倒なのは嫌だな…。そんな利用者の心理を丁寧に把握して、行動変容に繋げるプロジェクトのアイデアには感心させられました。全国のサウナで導入される日も遠くないかもしれませんね。

Solveメンター 佐々木食品工業株式会社 春木慎哉さんとお二人

福岡未踏とは

福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。