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クリエータ紹介(13) 内海さん、丈野さん、堀江さん - 盆栽×IoT。職人の技術を保存・再現する挑戦

このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。

今回は、内海忍さん、堀江彩さん、丈野仁寿さんの挑戦をお伝えします。彼らのプロジェクトは、日本の伝統文化である盆栽と最新のテクノロジーを掛け合わせ、盆栽の魅力を拡張し、より多くの人が楽しめるようにすることを目指しています。

プロフィール

  • プロジェクト名:BonsaIoT ~盆栽特化型の育成サポートシステム~

  • 支援プランと期間:Grow(23年11月~24年1月)

  • クリエータ:内海忍さん(九州大学 総合理工学府 博士課程1年)、堀江彩さん(九州大学 修士課程 工学府化学工学専攻2年)、丈野仁寿さん(九州大学 工学部 機械工学科 3年)

内海忍さん ブースト会議の様子

これまでの歩み、来歴

今回ご紹介するプロジェクトのメンバー、内海忍さん、丈野仁寿さん、堀江彩さんは、それぞれ異なるバックグラウンドを持つユニークなチームです。

内海さんは福岡県出身で、高校卒業後に九州大学 工学部に進学。現在は26歳で同大学の博士課程1年生です。傍目には輝かしい学業歴に見えますが、学士、修士と工学をはじめとする専門知識を学ぶなか、難しい電気回路の計算や大規模シミュレーションなどはできるようになっても、実際の「ものづくり」に携わっていないことに若干のコンプレックスを感じていたと言います。彼にとって今回のプロジェクト「BonsaIoT」は、電子工作に関する初めてのものづくりとなる重要な経験です。そんな彼の専攻は社会物理学・情報科学で、数学や物理を用いて、感染症の拡散やネットワーク接続、人間の意思決定のモデル化(ゲーム理論)などを研究しています。盆栽には以前より興味を持っていましたが、2023年5月に友人の祖父から盆栽をもらい、本格的にお世話をするように。そこで気付いたさまざまな課題が、今回のプロジェクトに繋がっていきます。

堀江彩さんは島根県出身で、小中高時代はバレーボールと陸上に打ち込み、高校2年での怪我を機にN高等学校に編入、その後九州大学に進学します。現在は同大学の工学府 化学工学専攻の修士2年生です。実はプログラミングは授業で触れた程度で、彼女の専攻は有機・高分子合成化学で、可視光を用いた光反応について研究しています。堀江さんがスウェーデン王立工科大学に留学した際、現地で知り合ったのが内海さんです。

留学を経て帰国した内海さんは、譲り受けた盆栽のお世話をするなかで気付いた課題を解決できるプロダクトを作りたいと、九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(QREC)のアクセラレーションプログラムに応募することにしました。そのとき、同じく博士課程の友人と共に声をかけたのが、留学時に知り合った堀江さんでした。

丈野さんは和歌山県出身で、中高時代はサッカーに熱中しました。現在21歳で九州大学の工学部機械工学科3年生です。彼のプログラミング経験は週に一度の授業程度ですが、新しい分野に挑戦する意欲を持っています。大学ではアメリカンフットボールに興味を持ち、アメフト部に参加していましたが、怪我によりドクターストップ。スポーツから離れることとなりました。長い間スポーツに熱中してきた彼は、「今度はスポーツ以外に熱中したい」と考え、QRECのアクセラレーションプログラムを見学に行ったそう。そこで出会ったのが、内海さんと堀江さんでした。直感的に「面白そう!」と感じた彼は、チームに入ることを申し出て、結果として3人での福岡未踏への応募に至ります。

この3人のメンバーは、それぞれ異なる専門分野から集まり、このプロジェクトを通じて、IoTによる新しい盆栽の可能性を追求しています。

プロジェクトの概要

「BonsaIoT」は、日本の盆栽職人が持つ水やりの技術をデータとして収集・保存し、複雑な水やり技術を再現・自動化することを目指した、盆栽特化型の育成サポートシステムです。加えて、三次元再構成技術を用いた3D成長記録の開発により、盆栽に新しい愉しみ方・可能性を提案します。

日本に古くからある「盆栽」は国内のみならず海外でも人気です。しかし育成するとなるとその難易度は高く、高値で購入しても数年で枯らしてしまったり、良い盆栽を作るために100年以上もの時間がかかるケースもあります。

盆栽の手入れにおいて最大の課題となるのが「毎日の水やり」で、盆栽の世界には「水遣り三年」という言葉があるほどです。これが、盆栽に興味がある人が盆栽の育成を始められない「壁」となっていると、内海さんは指摘します。木の種類や季節、天候などさまざまな条件によって大きく変動する水やりの必要性。最終的に「BonsaIoT」は、これらの要素を考慮した水やりの自動化システムを開発することを目指しています。気温、湿度、土の水分量などのデータを収集・分析し、盆栽の健康状態に最適な水やりのタイミングを判断します。また、盆栽を芸術として捉え、ひとつの盆栽のなかに訪れる四季を3Dモデルとして残すため、動画撮影による立体データの生成にも挑戦しています。3Dの成長記録があれば、日々変化する唯一無二の盆栽をアーカイブとして保存、遠隔で鑑賞・共有、手入れのデモンストレーションや、オンラインでの世界盆栽大会など、様々な可能性が生まれます。

これらにより、より多くの人々に盆栽文化を楽しんでもらうことができると考えているのです。

盆栽育成管理デバイス
3D盆栽
データ分析の結果

福岡未踏への応募理由

内海さん、堀江さん、丈野さんの3人で構成する「BonsaIoT」のプロジェクトチームが福岡未踏プログラムへ応募したのは、ちょうどQRECのアクセラレーションプログラムに関わっていた先生から、ちょうど良いタイミングで福岡未踏について聞いたことがきっかけでした。

IoTは、農業の分野ではすでに多くの実務シーンに活かされ始めています。しかし、盆栽は農業と異なり、収穫量を上げるなどの目的があるわけではありません。また、盆栽は育てる人によって鉢にもこだわりがあるなど、条件がまちまちです。「IoT×農業」はそれなりの数のデータが集まっているが、「IoT×盆栽」は未踏的分野であると彼らは考え、福岡未踏に応募しました。

彼らは、強力なメンター陣によるサポートを期待していました。福岡未踏のプログラムは、革新的なアイデアを持つクリエイターや技術者に対して、専門家によるフィードバックや技術的なアドバイスを提供しています。この環境がプロジェクトに新たな視点やアイデアをもたらすと共に、技術的な課題への対応を支援します。

彼らのメンターとして、「スマート農業」を研究されている、九州大学大学院 農学研究院の岡安崇史教授が就いてくださっているそうです。彼らが「BonsaIoT」の土壌センサーとして水分量を測るセンサーを使っていたところ、岡安先生から、センサーを刺さしている場所によりデータに影響が出やすいとアドバイスされ、重さで適切な水分量を測った方が良いという提案も受けたと言います。

さらに、他のクリエータたちからも多くの刺激と、良い意味での焦りを受けているそうです。3Dモデルの生成部分を担当する丈野さんは、カメラについて詳しいクリエータに相談しながら開発を進めています。調べても出てこないようなことを他のクリエータが先にやっていたり、参加しているクリエータ同士で励まし合ったり、アドバイスを交換したり…といった交流を通じて、彼らはプロダクトをブラッシュアップするとともに、横のつながりを深めています。

福岡未踏で得られたこと

彼らは、福岡未踏の期間では、実データ計測に向けた要素技術を全て盛り込んだデバイスを完成させるところまでをゴールとし、試行錯誤しながらプロダクト開発に取り組んでいます。

福岡未踏でプロジェクトに携わるなかで得られたことや感想に関しても聞いてみると、内海さんは、難解そうに見える技術も取り組んでみると意外と簡単に解決の糸口を見つけられることや、彼自身も盆栽を楽しむ当事者としてこのプロダクトを完成させたいと強く願っていること、そして「ものすごく頑張って一人でやるよりも、みんなでやる方が楽しいし、面白いアイデアが生まれる」という気付きについても教えてくれました。

化学を専攻する堀江さんは、「こんなふうに開発系に関わる機会があるとは思っていなかった」と振り返ります。ゼロからものづくりをする楽しさや、属性やバックグラウンドの異なるメンバーと一緒に取り組むことで新たな視点が得られることに気付いた堀江さんは、「いつかまた、ものづくりに挑戦したい」と話します。

開発経験がそんなに豊富ではなかった、チームメンバーの中で最年少の丈野さんは、「挑戦するハードルを下げてもらえた」と感じています。まず一歩踏み出してみることが大事だ、という彼の実感は、彼の今後の人生で再現性のある武器として残り続けるでしょう。

いずれにしても、「BonsaIoT」開発プロジェクトはまだ旅の途中です。彼らの挑戦が、盆栽に興味を持つ多くの人の助けとなることが期待されます。

おわりに

内海さん、堀江さん、丈野さんのプロジェクトの魅力は、アイデアそのものの面白さと、ダイバーシティに富んだチームの素晴らしい関係性です。彼らの技術的な挑戦は、その着眼点のユニークさゆえに高い壁も多いことでしょう。盆栽園の職人の方々が継承してきた水やり技術をデータ化して、再現・自動化するという取り組みは、伝統的な芸術を現代技術で再解釈し、新しい世代に受け継ぐ架け橋となり得ると感じました。

その技術的な挑戦を「楽しいもの」とするのが、三人が相互に抱く尊敬の信頼の念です。お互いに持っていないものをチームにもたらし、刺激を与え合いながら成長していく過程自体に大きな価値を感じました。「このメンバーなら、大きなことを成し遂げてくれそう…しかも楽しみながら!」そう思わせてくれるインタビューでした。今後のアップデートからも目が離せませんね。

成果報告合宿での様子

福岡未踏とは

福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。