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クリエータ紹介(11)養父さん、倉掛さん - AIを活用した紛失防止システムへの挑戦

このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。

今回は、北九州高専の情報システムコースで学ぶ、養父里穏さんと倉掛開斗さんの挑戦をお伝えします。彼らのプロジェクトは、ウェアラブルカメラとAIを活用した「Item Finder」という紛失防止システムです。このシステムは、AirTagのような既存のデバイスとは一線を画すもので、ユニークなアプローチを取り入れています。

プロフィール

  • プロジェクト名:AIを活用した汎用性の高い紛失防止システム「Item Finder」

  • 支援プランと期間:Grow(23年9月~12月)

  • クリエータ:養父 里穏さん(北九州工業高等専門学校 情報システムコース3年)、倉掛 開斗さん(北九州工業高等専門学校 情報システムコース4年)

左)倉掛開斗さん、右)養父里穏さん

これまでの歩み、来歴

養父さんは北九州工業高等専門学校 情報システムコースの3年生で、18歳です。幼少期の彼は、外で遊ぶことよりもレゴブロックなどで遊ぶのが好きな、物作りに強い関心があった少年でした。ロボットを作ってみたい!と思っていた矢先、高専の部活に「ロボコン(ロボットコンテスト)」があることを知り興味を持ち、進学。現在は、本来は4年次から関わる研究室の活動にいち早く加わり、ロボット制御やAIを使った制御技術に関するスキルや専門性を高めています。

一方、倉掛さんは、同コースの4年生で、19歳です。彼の現在の学びは制御工学、電気系、情報系と幅広いのですが、高専を選んだ理由としては、Webサイトを作りたいという思いから特にプログラミングに強い関心を持っていました。高専入学後はWebサイト開発およびサーバーの構築・運用を通じサーバーサイド、フロントエンドのスキルも向上させました。

彼らの高専の情報システムコースでは4、5年次に各自研究室に配属され、卒研として研究を行います。養父さんはまだ3年ですが、ロボコンの顧問でありAI系が専門だったこともあり、ロボットの制御・AIを使った制御を研究している研究室の先生と仲良くなっていました。倉掛さんは同研究室には入れなかったものの、雑談の中でWebを使ったものも作ってみたい!という話が盛り上がり、福岡未踏でのプロジェクトを開始するに至りました。

彼らはお互いに持っている専門性のある技術スタックを補完しつつ、このプロジェクトを進めています。

プロジェクトの概要

養父さんと倉掛さんが取り組む「Item Finder」プロジェクトは、ウェアラブルカメラとAI技術を駆使した紛失防止システムです。このシステムは、日常で容易に失くしてしまう物品を見つけ出すための革新的な取り組みとして設計されています。

まず、使用者はウェアラブルカメラを日常生活で身に着け、自分の視界にある物体を録画します。これにより、ユーザーの日常の動きやその環境が記録されます。

そこに「Referring Expression Comprehension (REC)」というAI技術のひとつである「UNINEXT」を組み合わせます。一般的な物体検出AIとは異なり、UNINEXTは未学習の物体も検出できるという特徴があります。「青い」「コップ」といった汎用的な特徴を用いて物体を認識することが可能です。

AirTagのような既存のデバイスとの最大の違いは、「あらかじめ紛失対策したものでなくとも探すことができる」という点です。ウェアラブルカメラとUNINEXTを使うことで、紛失の可能性を踏まえて対策することが現実的ではないようなものやAirTagなどのデバイスをつけることができない小物類も探し出すことができるのです。

ウェアラブルカメラによって取得された映像データは、日常のあらゆるシーンを記録します。使用者が何かを失くした際、その物体の特徴(例:「赤い円柱形」)をシステムに入力します。UNINEXTは入力された特徴に基づき、記録された映像データ内で該当する物体を検出します。そして、システムは物体が最後に確認された時刻と場所をユーザーに提示するのです。

当初、「Item Finder」は、ウェアラブルカメラで録画した映像を手動でサーバーにアップロードし、必要に応じて検索するという設計でした。

しかし、録画時間が長すぎるためアップロード等の処理に時間がかかるという問題を解決するために、システムは進化しました。現在は、ウェアラブルカメラが自動的に映像データをサーバーに送信し、ユーザーは物を失くした際に検索のみを行う形式になっています。これにより、より手軽で効率的な紛失防止システムが実現しました。

ウェアラブルカメラデバイスの写真

福岡未踏への応募理由

養父さんは以前、大規模なプロジェクトやロボコンのような競技に参加していましたが、少人数でのプロジェクトは未経験でした。プロジェクトの内容的に費用が嵩むことがわかり、費用面での援助も魅力に感じたと言います。

AIとWebを組み合わせたプロダクト開発を進めようとしたものの、先述の通り、養父さんにはWeb周りの開発経験がありません。そんな折、技術スタックを補完し合える倉掛さんと意気投合し、二人は福岡未踏に応募することにしました。

専門分野が異なるふたり。コミュニケーションが噛み合わないことも「当然ある」と話します。養父さんはロボコン、倉掛さんは就職活動も並行しており、そもそもコミュニケーションの時間が十分に取れないという事情もありました。さらに、異なる分野の開発を担当するため、相手を待たせてしまうシーンもあったと言います。そういったすべての状況から、少人数プロジェクトの進め方を学ぶ機会にもなったそうです。

また、他のクリエータの方々とは、福岡未踏のイベントの際に交流を図り、相互に影響を与え合っているとのこと。彼らのプロジェクトに対し、改善に繋がるフィードバックやコメントをもらうなど、福岡未踏に参加したからこそのメリットも感じていると話します。

福岡未踏を振り返って

養父さんにとっては初めての少人数プロジェクト。プロジェクトそのものの進め方や、他分野の人とどう協調して進めるかなどを学びました。今後はIPA未踏などにも挑戦していきたいと考えています。また、今まではロボットなどの制御を中心に学んでいたものの、形にするとなると、やはりWebアプリにするしかないことを実感したと言います。「自分自身でプログラムを書けるようになったり、少なくともコミュニケーションを取る上では知識が必要だと感じました」と話してくれました。

また、倉掛さんにとっても、他分野の人と開発するのは初めてのことで、コミュニケーションはもちろん、プロジェクト管理のスキルを磨くきっかけにもなりました。これまでと変わらずフロント・サーバーを中心に開発技術を磨いていきたいと考えていますが、「技術をどのようにプロダクト開発に活かすか」という観点では大きな変化があったと振り返っています。また、ワクワクするプロジェクトとの出会いが多くあったため、「AIなど新しい技術を使い、自分のアイデアでもう一度未踏福岡に挑戦するのも良いな」と感じたそうです。

「Item Finder」は、研究の形で進めてきたため現在は実用化に関しては今は想定されていません。ウェアラブルカメラはまだ一般家庭に広まっていませんが、ウェアラブルカメラの普及具合によっては今回の技術の実用化も視野に入ると考えています。

おわりに

彼らのプロジェクト、「Item Finder」は、ただ物を見つけるというシンプルなコンセプトを超え、常識を覆すアプローチで日常生活における新たな便利さを提供する可能性を秘めていると感じました。彼らの福岡未踏での挑戦は、若き技術者たちが新しい技術を社会にどのように適用させ、それを通じてどのように成長していくかを示す素晴らしい事例です。同時に、彼らの取り組みが、同じ道を歩む他の若者たちにとってまた新たな刺激となり、将来のイノベーターたちへの道標となる未来をもイメージさせてくれました。

熊本版未踏的プロジェクトIPPOの中間発表で福岡未踏を代表して発表している様子

福岡未踏とは

福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。