18/9/28 圧倒的さについて

 とある演奏会でたまたま隣り合わせた人に、突然話しかけられる。曰く、いや〜、彼の演奏はいつも良いところまでは固めてくるんだけど、どこか圧倒的さに欠けるのよね、という評価らしい。

 しかし、圧倒的さって人間の及ぶ領域ではないように思います。表現における技巧の上手下手は実は圧倒的さにはほとんど関係ないし、ものすごい下手くそな表現に心の奥底をガッと掴まれることだってある。たくさんの観客の側も決して一枚岩ではなく、圧倒的さは表現する側とそれを見る・聞く側とが、たまたま良い具合に出会う関係性の上にしか現れないのかもしれません。どんなに研鑽を積んだところで、常に誰に対しても圧倒的なものを作れる人なんておらず、せいぜい勘所が多少わかるようになるくらいのこと。

 本番に向けて懸命に準備をした後は、誰かが受け取ってくれることを祈るしかないし、見る・聞く側も同じく、自分に関係する何事かが舞い降りてくることを祈るしかない。芸術に限らず、人間ができることなんてそんなものかなと思っています。

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