見出し画像

お山巡りしていたら滝に打たれてた話 〜『伏見稲荷と一期一会』〜

ミーン、ミーン、ミーン......。

まだ京都に越してきたばかりの、ある夏の朝。僕は稲荷山を登っていた。夏場のランニングは朝早くに限る。早朝6時前、この日は「ある場所」を目的地に決め、走りだした。

ゴールは「清滝」。伏見稲荷の敷地内に滝があるらしい。神社の案内図をみてから、一度見てみたいと思っていた。

僕は滝が好きだ。山や緑に囲まれた中で見る滝の雄大さ、肌に感じる水しぶき、マイナスイオン。この上なく癒しと開放感を感じる。

関東に住んでいた頃は、よく栃木まで滝を見に行っていた。日本三大名瀑のひとつ「華厳の滝」や、滝の裏側に回り込むことができる那須の「乙女の滝」がお気に入りだ。

清滝の場所ははっきり調べてない。看板を見るに、四ツ辻から左回りに山頂へと進めば、どこかに分岐があるのだろう。案内を見逃さないようにと気をつけながら、走る。

(朝の伏見稲荷は本当に美しく、気持ちがいい)

四ツ辻を過ぎる。流石に階段を走っていると疲れてくる。でも、もう清滝は割と近いはずだ。

眼力社を過ぎたあたり、ようやく清滝への分岐を見つけた。ここを降りていけば、清滝に辿り着けるはず。

山頂を目指して登る人はちらほらいたが、流石にこのあたりは誰の姿も見当たらない。どこまで降りるのかわからないが、構わず進んでいった。

水の流れる音も聞こえてきた。ちょろちょろと、心地良い川の流れ。

ん、ちょろちょろ......?
この先、滝......なんだよね?

「これはなんだか、想像していたやつとは違いそうだぞ......」

そう確信した。でもせっかくだから、滝をひと目見てから帰ろう。そのまま階段道を下る。

到着した。
清滝大神さまを祀る神社と一緒になってるようだ。

「おはようございます。ちょうど僕終わったところなんで、どうぞどうぞ。」

......びっくりした。中に人がいたのか!!
というか、何が終わったところで、何がどうぞなんだ......?

察した。

さて、どうしたものか。どうぞと言われても、別に滝に打たれる予定はない。そもそも、タオルも着替えも何も持ってきてない。というか普通、滝打ちって修道着か何か着てやるものではないだろうか?

「はじめてですか? 服はそこに置いとけば大丈夫ですよ。いつも来てますが、こんな時間なんて誰も来ないんで。」

なるほど。この神主さん(らしき格好の人)が言うには、素っ裸で打たれて帰ってるらしい。

えいや、せっかくだしもう打たれてしまえ!!

去っていった神主さん(らしき格好の人)に言われるまま、素っ裸で滝に打たれてみることにした。朝から滝に打たれながら瞑想。なんか良さうだ!

............冷たっ!!
真夏だと言うのに、水が死ぬほど冷たい!!

10分くらいを目標に思ってたけど、結局2〜3分で断念してしまった。

......ちょっと悔しい。

登りは汗をかきながら走ったが、滝に打たれた帰り道は妙に身体がひんやりして、なかなか心地良かった。

涼しさを全身で感じながら、ゆっくりと下山する。

「やっぱり、目標の10分をクリアするまで続けてみようかな......?」

なんとなく、最初に決めたことくらい達成できないと負けた気がする......!!

そして6日目、ついに10分達成。この頃には水の冷たさもなんか慣れてきて、余裕すらあった。

そして後日......

ある日、眼力社のあたりであの神主さん(らしき格好の人)と再開した。

「こないだ、あそこにイヤホン忘れてったでしょ? 滝、続けてるんですね。僕もさっき打たれてきたところです。」

そう、確かに3日目、滝のところにイヤホンを忘れてしまったのだ。この人もやっぱり、毎日来てるんだなぁ。

「はい!あの日は1〜2分でギブアップだったんですが、ようやく10分くらいは打たれてられるようになりました。」
「それはすごい!僕なんて2分くらいでいつもやめちゃいますよ笑」

......あれ?

話してみたら、別に神主さんでも何でもない、ただ趣味で毎日滝に打たれてるだけの、近所のおじちゃんだったみたいだ(紛らわしい格好しないで欲しいw)

............うん。もう当初の目標10分はクリアしたし、もういいかな笑

この日で僕の滝打ち習慣は終了した。

― 2021.09.21. 充紀

バックナンバー

【連載第1回】

【連載第2回】


この記事が参加している募集

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?