美しい彼シーズン2感想

なぜここまで魅了されるのか

最大の魅力はギャップ

 美しい彼の好きなところは?と聞かれたら、ファンであれば誰もが両手に納まらないほど好きなところを挙げられるだろう。箇条書きでよければ延々と書き連ねられる自信があるが、今日はあえてひとつに絞って考察してみたい。
 私の考える美しい彼の最大の魅力は「ギャップ」だ。シーズン1放送当時から度々目にしていた感想に「受け攻めが予想と逆でびっくりした」というものがある。原作を読んでいなければ、私もそう思ったかもしれない。
 圧倒的キングとして教室のヒエラルキーのトップに君臨し、意図せずとも支配者としての立ち位置を欲しいままにしていた清居は、実は好きな人には愛されたい、もっと踏み込んで言えば酷いこと・恥ずかしいことをされたいと支配されることを望んでいる。
 一方の平良は、カーストの最下層で誰にも見つからないようにひっそりと息をひそめていると見せかけて、心の中に誰にも飼い慣らせない獰猛さを隠し持っている。それは時に清居を辱めた同級生への牙となって現れ、時に忠誠を誓ったキングですら制御不可能な情熱的な愛情となって現れる。🐢
 存在自体がギャップの塊と言っても過言ではないふたりが紡ぐ物語は波乱と矛盾に満ちており、キャラクターの魅力や演出の素晴らしさはもちろんのこと、その意外性こそが視聴者を引き付けて離さないのではないだろうか。

真面目君よりヤンキーの方が得な理由

 そもそもギャップとは何なのか。検索すると「自分の持っていたイメージと実物の間にある差」と出てくる。この差が大きければ大きいほど、人は魅力を感じる生き物なのかもしれない。
 雨の日にずぶ濡れの野良猫に傘を差してやる高校生がいるとする。眼鏡をかけた真面目君と見るからに尖っているヤンキー。どちらがより見る人の感動を誘うかは明白だ。本来であれば普段から品行方正に生きている真面目君の方が評価されるべきではあるが、人の心を打つかどうかはまた別の話なのだ。

清居のギャップが炸裂したシーズン2

 話がだいぶ脱線してしまったが、やっと本題に入る。美しい彼シーズン2では、1にも増して清居というキャラクターのギャップが大きくなっていたように思う。キングと一兵卒という位置づけから恋人へと関係性が変わり、ディ〇ニープリンセスも真っ青のヒロインっぷりを発揮している。
 平良と大喧嘩をし飛び出したものの気付いたら家に戻っていたり(居間で洗濯物に包まり眠る姿は可愛いの限界を突破している)、原作の清居では考えられなかった「石ころでもなんでもいいよもう」という発言まで飛び出す始末。
 清居は恐らく、シーズン2で悟りを開いたのだ。数秒先も読めない軌道で宇宙を爆走する平良に縄を付け自分の方に引きずるのではなく、寄り添い続けることを選んだ。平良を見つめる慈愛に満ちた、どこか達観したような視線に清居のそんな心情が表れている気がする。覚悟を決めた清居はシーズン1よりさらに美しく、包容力に溢れている。それは、長年待ち望んでいた「平良との恋人関係」を手に入れられたからに違いない。

恋人という関係が平良を苦しめる

 一方の平良は、清居との関係に名前がついたことで苦しんでいた。それまではただ見上げて崇拝していればよかった夜空の星が、自分と同じステージで自分に向き合うことを要求してきたのだ。
 平良が抱える最大の矛盾、それは「清居をキングと崇め奉りながらも清居に触れたいという願望を捨てきれない」ところだと思う。いっそあらゆる煩悩を捨て去り、純粋な信者として清居を信仰していれば平良にとってはどれほどラクだっただろう。けれどそれができない。
 平良が抱える矛盾に、長きに渡る底辺としての人生で付加されてしまった自信のなさや卑屈さが加わり、ふたりの関係性を何重にもややこしくしている。

王国から一歩踏み出すとき

 第一話と第二話のほのぼのとした恋人同士の甘い生活から一転、第三話ではそれが簡単に崩れてしまう砂のお城であったことが露呈する。平良の清居をわかりたくないという態度が変わることはなく、決定的な仲違いの末清居は家を飛び出してしまう。
 けれど、第四話で清居は自らの意思で平良の家に戻り、平良との関係を継続することを選んだ。まさかキングが再び自分の元に戻ってきてくれるなんて夢にも思っていなかった平良は大喜びし、清居と参加した同窓会で自分だけが前に進めていないことを痛感する。
 このままではいけない、でもどうすれば良いかわからない。フォトコンにも落ちてしまい元から少ない手持ちのカードを使い果たしてしまった平良は焦燥に駆られ、同窓会帰りにはじめて清居の前で弱音を吐く。(第二話で清居に弱みを見せろと言われ、そんな恰好悪いところ見せられないと言っていたあの平良が)
 言っていることはどこまでもネガティブながら、真っ直ぐに愛情をぶつけてくる平良だからこそ、清居から石ころでもいいという言葉を引き出せたのだろう。とはいえ、石ころのままでは清居と永遠に一緒にはいられないことは平良自身もわかっている。
 野口のアトリエでアシスタントとして働くことが決まり、野口に向かって臆せず堂々と「撮りたいものはあります」と言えた時、平良はネガティブ俺様王国から清居のいる高みに向かって一歩を踏み出せたのだ。

起承転結、からの序章

 縁側で清居と同じ目線で、プロのカメラマンとして清居を撮りたいと宣言する平良からはまるで愛の告白のような覚悟と本気を感じられ、おめでとうと声を震わせる清居の表情が涙を誘う。ギャップの化身の清居から繰り出されるラッピングされたアヒル隊長とチョコレート。そこからの伝説的なキスシーンと事務所に届く不審君からのチョコレートというオチ。
 何もかもが完璧で、30分にも満たないたった四話の尺の中で繰り広げられた起承転結の美しさに、感動すら覚える。しかし、これは序章に過ぎないのだ。今度は平良が頑張る番。劇場版の公開が今から待ち遠しい。





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