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あるバーに人生相談を受けてくれる作家がいると聞いた。その男はウイスキーを飲みながら言った『お前は悩みたいから悩んでいるだけだ』とね。

〈この物語はフィクションであり、妄想である〉


風の噂で『あるバーに人生相談を受けてくれる作家がいる』

と聞いた。


バーなんて22年間一度も行ったことがない。


そもそも酒が飲めない。


一杯飲んだだけで頭が痛くなる。



だが相談したいことはある。



そのバーはある街の片隅にあった。


薄暗い階段を降りた先に年季の入ったドアが

ついている。


入るまでに随分と躊躇った。


『もしその男がいなかったらどうしよう』

『ふさわしい動きができずに恥をかいたらどうする』

『この歳でバーなんてカッコつけてると思われないか』


ドアの前でウロウロしていたら、



誰かが階段を降りる音が聞こえた。


『なんだ?入らないのか?』



振り返ると、黒いジャケットを着た男が立っていた。



バーに現れるという例の男の顔は知らないが、

おそらくその男だとわかった。



『あ、あなたに会いに来たんです。』


『また人生相談か。今日はそんな気分じゃないんだが。

まぁ、入れ』


男はやれやれといった顔でドアを片手で開けた。



店内は席が5か6つしかない小さな

バーだった。


男はいつもの席なのか、慣れた足取りで

奥に座った。


『マスター、いつもの』



場違いだ。

今日はTシャツに短パンできてしまった。


帰りたい。



『どうした?座らないのか?』



オドオドしている姿が男にはお見通しなようで、


男の隣に申し訳なさそうに座った。



『お連れの方とは珍しいですね』


『店の前でウロウロしていて邪魔だから一緒に

入っただけだよ。』



『それで、相談って何だ』



『な、悩んでるんです。自分が何をしていいか

分からないし不安で、、、』



長くなりそうだと思ったのか、男はタバコを

取り出して火をつけた。



そしてこう言った。



『お前は悩みたいから悩んでるんだ。』



あまりに無愛想な一言で私はあっけに取られた。



続く。



福田光宏

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