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Stones alive complex (Brookite in Quartz)


「安眠誘導目覚まし付ドリームメーカー」のアラームプログラムは、ちょっと激怒した。

ちょっと激怒って・・・
軽くなのか激なのか、イマイチ分かりづらいが。

起動している感情シュミレーションの設定値を標準よりちょいと上げてテンションを高め、この事態に対応している。

「ちょ!やめやぁーっ!」

うっそうとした深い森に潜んで建てられてる古びた城の、限りなく闇に近い部屋に置かれた棺を、起床時刻の3分ほど前に開けたアラームが、中のドリームメーカー利用者を目覚めさせる用意をしようとしたら。

棺に横たわっていた黒マントの利用者がむっくり起き上がって、アラームが伸ばした起床プロトコル図形が描かれた右の手首へいきなり鋭い牙でばっくり噛みついてきたのだ。

「痛い!
痛いって!
こらっ!離せや!」

アラームの痛覚は、シュミレーションプログラムなので。
「痛い」という触覚情報に「痛がる」という感情プログラムどおりの反応をしているだけだが、アラームは苦しげに顔をしかめて床を足でかき、後ろへずり下がった。

利用者を棺から引きずり出す。

股に利用者の片方の腕をはさんで、彼の胴体へアラームは両足をクロスさせ固定した。

いわゆる。
「腕ひしぎ逆十字」という関節技である。

しかし、いくら利用者の腕の付け根をギリギリ絞り上げても、利用者は突き刺した牙を手首から離そうとはせず、たじろがなかった。

「おやおや。
かなり難儀しているようだな・・・」

床で格闘するアラームの頭上に誰かが立った気配があり、聞き慣れた声がした。

「君は・・・セキュリティプログラム!」

「よお。アラーム君。
お仕事熱心だね。
感心感心」

「いいとこへ来てくれた!
この利用者のアゴを外して、僕の手首から彼の牙を抜いてくれ!めっちゃ痛いの痛いのフライアウェイを頼む!」

「すまん。
諸事情があって、しばらくその牙は外してやることができないんだ」

「なんでやねんっ!」

「私が現場へ予告もなく緊急ダウンロードされてきたということは、現場に異常事態が発生しているということなのだよ。
この利用者が、いったい何の夢を観ているか知ってるかい?」

「ドラキュラになった夢でしょうがっ!」

そんなもんとっくに知っとるわ!と、
眉間にシワを寄せるアラーム。

「ほぉ。知ってたか。
しかし、ちょっとこれは事情が特殊でな・・・」

ドラキュラは、セキュリティを銀色の眼球で睨みつけ、威嚇するかにアラームに噛みついた牙へ力を込める。

「痛い痛いっ!
もったいぶるなセキュリティ!
早くその事情とやらを教えてくれ!」

「実はな。
このドラキュラはな、ドラキュラなのだ」

「痛い痛い、このドラキュラはドラキュラだって知っとるてさっき言うたやろ!痛て痛て!」

「違う。
言葉をよおく理解してくれ。
私は、このドリームメーカーの利用者は、ドラキュラだと言ってる」

「は?
利用者がドラキュラ?」

「理解したか。
ドラキュラがドリームメーカーを使用してドラキュラの夢を観ているのだよ」

「なな、なんと!!」

アラームの絞め技がようやく効いてきたのか、ドラキュラは動かせる方の手でアラームの太腿を数回タップした。
ギブアップのサインである。アラームは両足の絞りを緩めた。

「アラーム、離すな!」

セキュリティが厳しい声で指示した。

「なんでやねんっ!」

二回目のなんでやねんを言い返したアラームへ、

「アラーム。
君はドラキュラが何を吸うのか知ってるかい?」

「そりゃ血やろ!」

「ほぉ。知ってたか。
ならば、
君は何を吸われてるのだ?」

「は?」

そういえば。
プログラムデーターの集合体であるアラームに血など通っているはずないが、ドラキュラは必死で口をチュウチュウいわしてる。

「僕は何を吸われてるの?」

「そりゃもちろん、君のプログラムデーターだよ」

「マジか!」

「マジだ。
そして、そのドラキュラになってるドラキュラは、国際公安組織の特殊捜査部から指名手配になってるとの情報が入った。中世ヨーロッパの暗黒時代から被害者が多数でている。
だがドラキュラだけに、その巣の城がどこかはずっと不明だったらしい。今回はドラキュラが不眠症になってくれてラッキーだった。数百年に及ぶ昼夜逆転生活に限界がきていたんだな。
で。
捕獲の協力依頼が、我々ドリームメーカー社に来たというわけだ」

「その話と僕が噛まれっぱなしと、なんの関係が?」

「うちの技術部が調べたところによると。
君の感情シュミレーションプログラムはドラキュラに対して感情の抑制効果があるそうなのだ」

「抑制効果?」

「うむ。
簡単に説明すると、ドラキュラの凶暴性が抑制される」

「おとなしくなるってこと?」

「そうだ。
温和で穏やかな性格になり、おとなしく公安の捕獲部隊に捕まるだろう。
このドラキュラの城の場所は、特殊捜査部へもう連絡してある。
だから、部隊が到着しドラキュラを捕獲するまで、起床時刻は特例として延長されることになった。
それまで、君の下手くそな絞め技は絶対に外すな。
その間、君の感情シュミレーシもどんどん設定値を高めて、彼に惜しみなくプログラムデーターを吸わせてやってくれたまえ。
よくぞうっかり噛まれてくれたぞ、お手柄だアラーム君」

「なんでやねん!
延長って・・・あとどれくらいこうしてればいいんだ?
痛てててててて!」

セキュリティプログラムは、スーツのポケットから懐中時計を取り出した。

アラームの手首を噛みながら唸り、睨みつけてくるドラキュラへ微笑みを返すと、
セキュリティは針を読んで、ふむ、と推察する。

「そうだなあ・・・たぶんだけど。
あと5時間強ってとこだろうか・・・」

アラームは感情シュミレーション設定値をぐんと高めて、通算四回目を言った。

「な、ん、で、や、ねーんっ!!!」

(おわり)

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