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Stones alive complex (Gilalite in Quartz)

乳白色の空に、ふたつの太陽があった。

ひとつはやや小さく、若々しい青竹色の輝きを放っている。
もうひとつは大きく、表面には淡いオレンジの模様が渦巻き、白銀色の大輪が王冠のようにとり巻いていた。

その銀光沢の王冠を構成する光の編み物は、輪の端からエネルギーの糸がほどかれてゆき、小さい太陽の方へ吸い寄せられている。
それは、新旧ふたつの太陽を結ぶエネルギー移行の架け橋となっていた。

銀光のエネルギーが、乳白色の宇宙空間を和紙にして明暗が反転した水墨画を描き。
若い太陽へと、王位の冠が継承してゆく。

しかし。
若い太陽はその求心力がまだ弱い。
王冠をその身にまとうには、まだまだ未熟だった。
自転平面の赤道上空へ巻きつけてられてゆく光のエネルギーは、ふわふわとして形をとどめきれていない。あれが冠として形を成すまでには、星として相応の経験を積み重ねばならないだろう。

無音の交響曲。

どちらを向いても、視界いっぱいに展開する光景の威圧力が壮大すぎる。
見栄えだけのパワーで、音のないシンフォニーが胸奥いっぱいに響いてくるようだ。

あまねく銀河を支配する帝釈天は須弥山の頂きでその響きに心を踊らせ、数億の渦状星雲がひしめくこの夜摩天空間で起こっている新旧交代のドラマへと、敬畏の言葉を発した。

「すげ。
めっちゃ、インスタ映えするやつやん・・・!」

ウロボロス状の電磁波ベルトで共鳴しあう、ふたつの太陽がいい感じになる角度を探して背にすると、阿と吽のポーズをキメて何枚も自撮りした。

さてさて!
仏教系SNSインガヤグラムへの投稿用に、いろいろなエフェクトで盛ったろ!と、スマホのギャラリーから写真の出来栄えを確認してみた帝釈天は、仰天した。

「なんやん!こいつは?!」

自撮りのバックには、ふたつの太陽が写っているはずが。
自分の後ろには、何者かの巨大な顔が画面いっぱいに引っついていた。

その顔は頬の横で、拳から人差し指と中指を広げた全力の「印」を結んでいる。
俗世でいう、ピースサインであった。

帝釈天は、おそるおそる振り向いた。

背後には。
結跏趺坐で浮かぶ御仏の姿があった。
ピースサインの横で半眼に見開いた瞳は、虚空を超えた彼岸を見つめ、すうと寄せた眉には生きとし生けるものすべてへ注がれる慈愛が込められていた。

その人相に、帝釈天は見覚えがあった。
ていうか。
古から伝わる経典に見開きのぶちぬきで、でかでかと顔写真が載っていた。

「あなたは・・・
まさか・・・
弥勒菩薩様・・・?」

弥勒。それは。
今から56億7千万年後。
末法の世に降り立つと予言されている、ダントツでハイクラスの菩薩である。
この人間界の仕組みそのものを創り変え、下界を天界と同質の成り立ちにして、人々を救うと言われていた。俗世でいう働き方改革である。ちょと違うか。

恐れおののいた帝釈天は、合掌し、

「せやかて!
あなた様が降臨される御予定は、
56億7千万年後ですやろ!
早すぎますやん!」

恐れ多く尋ねた。

「決して早くはないのですよ」

さざ波のようなトーンの声質で返答したアラームは、ピースサインの印をほどき、手のひらの起床プロトコル図形を広げ帝釈天へ向ける。

「私は、安眠誘導目覚まし付ドリームメーカーのアラームプログラムです。
56億7千万年後じゃなくて、
今から、567秒後。
つまり9分と45秒後に、あなたを起こして夢から救い出すために、こうして降臨してきました」

「わざわざ、弥勒のコスプレで?」

「はい。
この夢のテイストに合わせて・・・
マズかったですか?」

「いや、めっちゃ映えるやつやん!
起きる前に、一緒に自撮りせえへんか?」

パシャ!
【◎】д=)


(おわり)

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