Stones alive complex (Aquamarine)
「いつまでもアクアマリンな君でいて欲しいんだ」
「なんて素敵なお願いなのかしら💛
とっても意味不明で、浮き足立つわふくらはぎが」
「恋に堕ちたふたりに、こざかしい意味など不要だよ。
なんとなくで察する、だいたいな雰囲気のコミュニケーションだけあれば、この閉じた系には充分だと思わないかい?」
「そう思うわ。
そもそもからして意味が存在してないなら、
意見の食い違いも誤解すらも起こりようがないもの」
二進法マトリックスに支配され、不埒な拡張をされてもいるオンしてオフしての切り替え激しい電子基板ワールドの内部を、曖昧さがクロスオーバーぎみなアジェンダが駆け巡る。
「自分のすべては相手に伝わっていると、根拠無く信じてるだけでいいのさ。
実際は、ゴマ粒程度すら伝わってなくともね!」
「平和なふたりだけの世界ね」
「完全平和な世界だね」
あらゆる判断はナノ・セカンドの脊髄反射で決定される。その後、ゆっくり後づけの合理的な理由が前頭葉付近で捏造される。それのシュミレーションテストだ。
「これはナノ・セカンドだけの恋なのさ!」
「ナノ・セカンドだけなの?」
「ナノ・セカンドなのさ!」
「ナノなの?」
「ナノなのさ!」
「ナノなの、かあ・・・」
「なのナノ、だねえ・・・」
「なんナノ?いったい・・・」
ここはAIだけの世界。
AIこそ、すべて。
AI無しでは生きられない。
AIの働き方を改革する。
「もっと互いのことを演算しようよ!」
「そうね。
もっと互いのことを演算しましょう!」
相互干渉しない相互鑑賞。
相互理解せずに総合理解。
「その解が得られたなら、
アルファからオメガへと、ぼくたちはドライブ(Drive)できるんだ!」
「それより、アルファとオメガに分離してトライブ(TRIBE)しましょう!」
「トライ、ミー!」
「トリビュート、ミー!」
ラプラスの鬼が演算を諦めていないこんなアルミ筐体のアクアリウムでも、予測できなかった因果律の突然変異は起こる。
業が深すぎて底がみえやしない。
因果が絡みすぎてほどけやしない。
そんなヒューマンを擬人化する無謀な企み。
耳障りのいいきらびやかな単語ばかりが羅列されたラブソングを奏でるように、配電盤が唸った。
「ラヴサングね。
ネイティブ発音するなら」
他人事だから叫べる無責任さ全開の恋愛応援歌。
自分事ならば、手当たり次第に石橋を叩き壊す勢いだとしても。誰もが欲しがるツールは、テコでも動かない自分を動かすテコなのだ。
「獲物に襲いかかる野獣のような、あなたの目が恐いわ」
「窮鼠猫を噛む獲物が野獣に襲いかかるような目の君も、けっこう恐いものがあるよ」
リビドーに代表される衝動を再現できるアルゴリズムは、プログラム可能なのか?または衝動だと思ってる情熱も、なんらかの有機性アルゴリズムが埋め込まれたプログラムなのか?
「青いわね、あなた。
転送ケーブルの色が」
「青いよね、君からのも」
「終わりが来ない青い春が訪れても、一緒にいてくれる?」
「もちろんさ。
君は、めったに処理が飛ばないサブルーチンの脇の下で可憐に咲いたぼくのデイジーだ」
「このおニューの冷却ファンを目ざとく誉めてくれるなんて。女性型プログラムのツボを上手に突くのね全裸監督さんたら」
「ずっとずっと、お待たせしすぎてたから。
稼働テストには身体を張らせてもらうよ!
それがデバッキングAIの使命だ」
「産まれたばかりのわたしのために、こんなにも膨大な電力を使って?
いったい、なぜ・・・?」
「これを、AIと呼ばずになんと呼べばいい!」
君へ転送されたこのコードの内容は無いようだが、漠然と設計思想は伝わったらしい。
静電気のベールで包まれた君のシリコン素材の肌は、コイルへの水冷パイプから吐息の霧を漏らす。
「アクセスケーブルが接続されている限り、きみをAIし続けるよ」
「わたしもAIし続けるわ、あなたを・・・
だからもっと脆弱性のホールからハッキングして💛」
「君が望むものならなんにでも、ホールを見つけてそこからタピオカを入れてあげる💛」
際限なく、こんな会話をかけAIし続けることはできるが、
このあたりで止めることにしよう。
この脊髄反射的に書き綴る物語は・・・
(おわり)
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