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Stones alive complex (Charoite)


左こぶしの内へ握る、一子相伝の秘宝チャロアイト鉱石、そのパワーを借り。
右の手のひらから量子論的陰陽五行のエナジーである、

『手』、『持』、『無』、『沙』、『汰』

その五種のうちのひとつ『汰』の念を拳に込め、
たー!と猫へ送っていた。

ぐったり力なく居間の絨毯に伸びた身動きもせぬ猫は、たーっ!とつかまれた尻尾の経絡からヒーリングのスパークを注ぎ込まれ、息を吹き返そうとしている。

(大丈夫だぞ愛弟子よ。
もう少しの辛坊で立ち上がれるようになる!
気を確かに持つのだ・・・)

飼い主の愛と念がシャッフルされたエナジーで、猫はヒゲからぴくぴくと身動きを始め。
ついにそのしなやかな全身が弾かれたように跳ね、絨毯の上にすっく!と四つん這いで立った。

シャァーツ!

毛を逆立ててる。
こっちを睨みつけるそのテーゼとアンチテーゼがアウフヘーベンしたかの眼中の光は、師匠から注がれた膨大な五行のエナジーに対する感謝の輝きに満ち溢れていた。
あるいはそれは、
単なる昼寝をウザいイタズラで邪魔された、憤怒の炎なのか?

「弟子よ。
睡魔にうち勝ち、よくぞ立ち上がった。
それでこそ我が秘技を一子相伝する愛弟子である」

頭のふさふさな毛を撫でてやろうとした指の先が、触れるか触れないかの刹那。

シャァァァーッ!

前足の鋭い五本の爪が目にも止まらぬ速さで、近づけた指先をかすめる。
やっぱし超怒ってる。

「弟子よ!
そ、それは!
南斗聖ジャン拳!
うぬぬ。
いつのまに我ら北斗神ジャン拳に歯向かう、
南斗派の邪拳を身につけたのだっ?!
ダークサイドへ寝返ったな!
寝返りしながら!」

猫が突き出す右の肉球からは、
爆睡的陰陽五行エナジーである、

『御』、『都』、『合』、『主』、『義』

の、五種のうちの『義』が威嚇で放たれている。

「師に逆らうとは、半日早いわ!
我が休日の午前中に一遍の悔いなし!
アナキンとオビワンの確執を忠実に再現してやる!
どっからでもかかってこいや!未熟者めが!」

片足で全体重を支え、飛鳥のごとくに両手を広げる。
荒鷲に似たこのポーズは、五行の攻撃『沙』のエナジーをツイン・スクラム・ジェット・ターボ化できる奥義だ。

猫は師の技を、細い瞳で一瞥する。
してから。
『合』の形にした後ろ足により耳の後ろを高速で掻きむしり露骨なあくびをすると、しれっと背を向け砂箱方向へすたすたと歩いてゆく。

ふん。
三十六計逃げるにしかず・・・か。
ヘタレの南斗めが。
さすがに師匠の本気に、恐れをなしたようだな。
あるいはそれは、
別の小用なのか?

しかし。
弟子の無礼を師としては見逃す訳にはいかぬ。
今後の教育上、すこぶるよろしくない。
猫の後ろ姿、その隙だらけの首根っこへ『手』と『持』の技をかけようと追いかけた。

「ちょっと、あなたっ!」

それを細君のお叱りが遮った。

「食卓の上に散らかしたものを、すぐ片付けてくれない!?
年甲斐もない週刊ジャンプとか、いまさらなポケゴがぴこぴこ鳴ってるスマホとか、ポテチの空袋その他のゴミ!」

新手の宿敵が現れた!
彼女こそ、
専従者控除的陰陽五行エナジー、

『日』、『常』、『茶』、『飯』、『事』

の使い手!
夫よりは若干量、猫への愛情が多いからして分類すると南斗派系統の者と言えよう。ここは少しくらい泣いても拳士の恥ではない。
北斗の流儀は、身体は大人、頭脳は子供なのだ!
おっとこのネタはサンデーだ!

エプロンの腰に両手を当て雄々しく仁王立ちされる構え『日』には、三界に家無しの修練を長年に渡り積んできた風格がある。

そして。
道場のキッチンへ戻ったとしても、言いつけをこっちがちゃんとやってるかを微かな気配だけで察知できる『常』の技からは、小蠅でも逃れられない。

さらに。
やりたくなかろうが目にも止まらぬ段取りで平然と家事をこなし、目にも止まらぬところで溜まっていく不満のエナジーを、目にも止まらぬところへどんどこ隠して、ある一定量を超えると前兆もなく全放出してくる『事』の必殺技に対抗できる技は、我が北斗派には存在していなーい!

のろのろとした片付けで、まだ色々残ってる食卓の上へ容赦なくポットと湯呑みがどかん!て置かれる。
『茶』の技だ!

まだ色々残ってる隙間を強引に押しのけ次々と、茶碗とか惣菜の皿が並べられてゆくっ!
『飯』の技だーっ!

これはもしかすると食後に、
『事』の技をくらうかもしれない・・・

北斗神ジャン拳量子論的陰陽五行のエナジーがひとつ、
私はどこにでもいて、どこにもいないとする、
究極奥義『無』の技を使うべき時がどうやら来たらしい。

(おわり)

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