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雨の降らない場所

高校野球が終わり、24時間TVが終わり、いよいよ二学期が目前に迫ってきた。

この時期「いじめ」がある学校には戻りたくない…行きたくない…そんな子どもたちがいるという。
中には思い詰めてしまい命を絶ってしまう子も…
哀しい現実である。


僕自身には「いじめ」のような体験がない。

もしかしたら鈍感すぎて気がついてなかったのかもしれないけれど、無視をされるとか危害を加えられるとか、そういった経験がなかったのできっといじめられていたなんてことはなかったのだろう。

ただ、小さいころは極度の人見知りで、かなりの時間をかけないと心を開くことができない寡黙な少年だったことに間違いない。最近の僕を知る人には信じられないだろうけど、いまでも初対面の人にはかなりの無理をして話をしている。接客業という職業柄"仕事"と割り切って別人としての自分がそこにいたりするのだ。

◇◇◇

その昔、二学期が始まる直前「学校へ行きたくないなあ…」って気持ちが少しだけあった。小学生から中学生くらいまでかな。

中学1年生のとき僕はバスケ部だった。けれど、来る日も来る日も先輩に怒られてばかりで、その頃の僕はバスケは好きだったのに部活動は嫌いになり始めていた。そして、2年生なってすぐにバスケ部を辞めてしまった。

その後は別の部活に入ることもなく、ただ家に帰ってTVを見る…そんな流れでの2年生。
夏休みは林間学校もあったけれどひとりでいることが多くて、この2年生の夏休み明けの学校は本当に行きたくないピークだった。
単純にクラスメイトとの距離感が分からなくなっていたのと、それを補おうとする自分の面倒くささが同時に襲ってきたのだ。

それでも僕は、引き攣った作り笑顔と持ち前の楽天的性格が功を奏して、なんとかやり過ごすことに成功した。
なにより学校へ行かないことで親に怒られるのがものすごく怖かったことと、だったら別にひとりでもいいやって単純に割り切れたことが幸いしたのだ。まあそのぐらい我慢できると。

僕は本を読んだりTVを見たりして、その中に自分の居場所を発見した。

想像の世界は僕だけの世界だったのだ。

ラジオを聴きだしたのもこの頃だ。

「青春大通り」を聴き「天才秀才バカ」を聴き、聖子ちゃんやヨッちゃん、「マッチとデート」なんてのも聴いた。もちろん「青春キャンパス」は外せない。「スネークマンショー」は言わずもがな。そして、さだまさしさんの「セイヤング」における「三国志」の歴史漫談が毎週楽しみで仕方なかった。土鈴をチリンチリンと鳴らし「〇〇さんいらっしゃい」というくだりも楽しかった。

極めつけは笑福亭鶴光さんの「オールナイトニッポン」
多感な少年たちはこの番組を聴くのが楽しみで仕方なかったのだが、なにせ深夜1時からで、一生懸命眠い目をこすり、テーマ曲が流れ、「提供は、ブルボン、BVD富士紡――」とかこの辺で力尽き、はっと気がつくと演歌が流れていたこともしばしば。


僕は、学校がしんどくて、イジメが怖くて、友だちなんていなくって、そんな悩みに対して今にも圧し潰されそうな君に「ラジオを聴いてごらん」と言ってあげたい。

なんたる人任せな対処法かもしれないけれど、ラジオは"ひとり"を快く迎え入れてくれるのだ。

聴くだけでいい。もちろんラジオの各コーナーに投稿するのもいいけれど、まずは聴くだけでいい。TVよりもラジオかな…本を読むのもいけれど、人の声は殺伐とした君の心を温めてくれるはずだ。

何よりパーソナリティーは君に話しかけてくれる。君だけの空間だ。それは脳内だけかもしれないけれど、誰にも危害を加えられないし、なんなら世の中のためになる情報だっていっぱいラジオには詰まっている。

もし本当に酷いいじめにあっていて、毎日がツラくてツラくて、もう生きているのも嫌になるくらいだったら、ラジオを聴いてみよう。無理して学校になんか行かなくたっていいのだから。

毎日毎日雨が降り続ける中へ、雨合羽を着込んで傘を差して、それでもびしょ濡れになって、一生懸命防御する君は確かに間違ってはいないけれど、そんな毎日ってやっぱり普通じゃないよ。
だから僕は君に教えてあげたい──

──信じられないかもしれないけれど、雨の降らない世界だってあるんだ。

雨合羽なんていらない。傘なんていらない。
雨なんて降らないのだから。
そしてそんな世界は君のすぐそばにあったりする。


本当に思い悩んでいる子は、イジメられていることを友だちに話すことはない。だって恥ずかしいから。
本当にツラい毎日を過ごしている子は親に打ち明けたりなんかしない。
だってそんな子だって思われたくないから。
ましてや先生なんかに相談するわけがない。

そんな恥ずかしいことするくらいなら死んだほうがマシだから。

友だちや親や、なんとか先生にツラい状態を打ち明けられた子は助かるけれど、我慢強く、意思が強靭な子ほどピンと張った糸がいまにも切れそうだったりする。それは君のことかもしれない。
そんな君はひとりで解決するしかなくって、だから僕は君に「ラジオを聴いてごらんよ」と言いたかったんだ。
未来がどうとか、そんな先のことはわかりっこない。だけどいまは、やり過ごそうよ。

さあ、ラジオでも聴いて。



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