見出し画像

社会と会社への適応に苦労する野球エリートの姿から思うこと

 
仕事の本質とは「問題を解決する」ことに他なりません。
人から「求められる仕事」で結果を残すことが、自分の評価や市場価値を決めるからです。自分の実力が認められるかどうかについては、仕事と野球には共通点があります。

私は企業研修を通じて、多くの若手社員、新入社員たちと接しています。
印象的だった出来事がありました。

新入社員のNさんが私に近づいてきて質問をしてきました。「大西さんは、野球でホンダに入ったんですよね。僕もボーイズリーグ(少年硬式野球)で野球をやってきて、高校はスポーツ推薦、大学もスポーツ推薦で入学しました。野球は大学で辞めてこの会社に入社したのですが・・・。自分には向いているかどうか、仕事ってつまらないです。大西さんは、どうして今の仕事についたのですか?」という内容でした。


私のプロフィールから、「大学、社会人で野球をしていた」ということに興味を持ち、質問をしてくれたのです。


 「自分の好きな仕事が見つからない」と嘆く若手社員は非常に多いです。
特に、新入社員から3年目ぐらいまでの研修では、必ずといっていいほど、「自分の適職」と「自分探し」をしている多くの人に出会います。

N君だけでなく、大学体育会出身者、若手層の共通の悩みの一つといえます。私は、N君に「求められる仕事」をしていたら、野球のポジションがショートであると決まったことのように「適職」がわかり、プレースタイルが決まってくるように、今の仕事が自己表現(プレースタイル)であることがわかってきたと答えました。急に答えを自分に求めてもいけないよ!と伝えました。


 Nさんは、大学卒業までの生活は「野球漬け」生活。自身の交友関係も野球部の同期、先輩、後輩。そして、野球部の監督とコーチという非常に狭い人間関係の中で過ごしてきました。就職してからは働く事、一般社会におけるカルチャーショックの連続だと現在の心境を吐露してくれました。同期で入社したのに、野球部、体育会ではない価値観を持っている同期達のノリに上手く馴染めず、職場の上司や先輩たちとも人間関係が構築できていない状況でした。
野球人生は、長い人生においてのワンスパーンでしかありません。

私は、社会人野球生活を終えて、34歳という年齢で本格的に社業に専念しました。13年間、同期は仕事の専門性を獲得しています。仕事を覚えるのは、非常に苦労をしました。だから、野球一筋で歩んできたN君の心情は痛いほど、理解できるものでした。

彼との会話を終えて、研修会場を後にするとき、ふと思うことがありました。野球界は構造的に「野球バカ」を生んでいないか・・・。野球をとった時、一人の人間として、自主自立(自律)で立てる人に成長しているのか・・・。野球でメシが食える人は本当に一握りですし、引退後は、セカンドキャリアを歩まないといけません。一生、野球だけに没頭できる人は一握りの中の一握りの人です。

最も大切なことは、「自主自立(自律)の行動がとれる人づくり」ではないかと強く思いました。

「少年野球や高校野球、大学野球の連盟及び団体は、どの連盟も青少年の育成を掲げ、それを理念としている」にも関わらず、社会人として歩む一人の人という視点で考えた時、野球を通じて、どんな人材に育ってほしいのかの「人材像」は基より、野球界全体として人づくりのビジョンと目標をより鮮明に打ち出して、青少年の育成に寄与することが大人の今、すべきことだと思うのです。

野球界は指導者の属人的要素が色濃く反映される世界です。好きと嫌いの世界、勝ち負けの世界です。属人的要素とは、指導者の好き嫌いや、指導者の指導スタイルにものすごく左右されるという世界です。育成を中心に選手の自主性を引き出す指導か、俺の言うとおりにしろ的な一方通行のコミュニケーションと型にはめる教えすぎ指導スタイルかなど、指導者そのものの指導の「質」と目指すべき、人材像を共通認識と共通言語化することでベクトルを合わせなくてはなりません。

私は自分が社会人野球のマネージャー、監督時代に選手をスカウティングする時、必ず指導者の方の指導スタイルとチームの雰囲気に着目していました。なぜなら、厳しすぎる一方的な指導者の下で経験を積んできた選手は、「手を上手く抜く事、監督の顔色を観て行動する」という行動習慣の傾向があります。社会人で野球をやるわけですから、「好きな野球において、全力を尽くす。言われたことだけやる、指示されなければ動けない選手」はスカウティングするに値しないと考えていました。

今、スポーツ推薦等、大学進学への門戸が開かれていることは非常によいことです。しかし、学生時代に野球だけやっていれば良いという風潮が強い野球部や指導者の存在も事実ではないでしょうか。社会で活躍できるための自主自立(自律)した人材育成の基盤を野球を通じて形成することができれば、野球の存在価値は拡充されていくのでないかと仮説を持っています。

画像1

(出所:経済産業省HPより。「人生100年時代の社会人基礎力」資料)

図は、経済産業省が推し進める「人生100年時代の社会人基礎力」です。
社会人基礎力は、「前に踏み出す力」「チームで働く力」「考え抜く力」とという経験で学ぶことで開発されていく能力でもあります。

学校の教室で知識として学ぶこと以上に野外で体験しながら学ぶ事、経験学習としての「野球」こそ、社会人基礎力の開発には最適だと思うのです。

エラーの後に気持ちを切りかえて、積極果敢にボールを追いかけることで「前に踏み出す力」が開発されるし、チームメンバーで話し合いながら自分の役割をみつけて、働いてチームの勝利に貢献することで、「チームで働く力」は形成され、どうしたら上手くなるのか、どうしたら相手投手を打てるのかなど、考え抜いてそれを行動することは、「考え抜く力」の形成に役立ちます。

野球は魅力的なスポーツです。野球の可能性は無限です。人の能力も無限の可能性を秘めています。

陽気に楽しく、子供たちがプレイフルで野球に取り組む環境を我々大人がつくることができれば、未来の子育てとしての最高のストーリー戦略になると思います。


この記事が参加している募集

野球が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?