元AV男優の結婚について
元AV男優で今はスナックのマスターをしているマグナム北斗さんに彼女がいると、共通の知り合いから聞いたのは、彼がまだ店を始めるずっと前のことだった。
マグナムさんを知ったのは、どんなきっかけだが忘れたが、彼の書いているブログを読んだこと。軽快なリズムの文章のなかにホロリとする本音が隠れていて、無頼派を装いながら、本当はいい人なんだろうと思った。
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1番好きなのはこの記事。
マグナムさんのご家族に対する思いが伝わる。
ブログの更新は稀だったが、ほどなくツイッターアカウントを見つけてよくリツイートしていたら、たまたま知り合いの男性が(マグナムさんと同世代の元AV男優さんの撮影で知り合った人なので、たまたまではないか)が、「マグナムさん知り合いだから、紹介してあげようか。でもつきあっている人いるよ」と言われたのだ。
それだけなら、単なる親切な顔の広い男だが、その後、
「なんでマグナムさんにツイッターで絡むのだ。彼はババア嫌いなのに」
「えっ、でも彼女さん(私より年上の)50代なんでしょ?」
「50代は50代でもお前とは格が違う。皇族と平民ぐらい違う」
と、訳の分からない難癖をつけられ、マグナムさんがどんな女性とどんなつきあいをしているかより、その男がどうして私にそんなことを言うのかの方が気になった。
当てつける訳ではないが、紹介してもらえなくても会うことはいくらでも可能とばかりに、マグナムさんがリングアナを務めるプロレスの試合に行ったあと、このことを聞いてみたら、つきあっている女性がいることは本当だが、その男が私に伝えた内容には違うこともあると教えてくれ、その男が「同じ業界人として」と言っていることを、「同じじゃない、それこそ格が違う」と怒るので、なんだかプライドの高い人だと思った。
(今回の結婚報道でも感じたが、かなり有名な方なので、その反応は当然のことなのだが)
マグナムさんがお店を開き、たまに飲みにいくようになって、彼女さんとのことを聞くこともあった。
「今さら結婚はする気がない」と言っていたが、私が「風俗やAVなどエロい仕事も普通の仕事として認められるようになってほしい。偏見が少しでも少なくともなれば」というような話をしたときに、「偏見の目で見られてもしかたがない仕事なんだ」と言われ、そんな仕事をした自分は人並みの幸せを望んではならないと思っているように感じた。
自分を世に出し有名にしてくれたAV業界が、多くの女性を人生を狂わせ、結婚も出産も擦ることができなくなった女性が性的ないるのに、自分だけ幸せになってはならないと考えているように思えた。
マグナムさんは早くにお父さまを亡くされ、女手ひとつで育ててくれた母親に対してすごく感謝しているけど、AV男優になって迷惑を掛けたことを申し訳なく思っているようで、たまに「親孝行プレイ」と言いながら、病院受診の付き添いをしているのをほほえましく感じていた。
マグナムさんの店では、かなりプライベートなことも明かしていて、実家の母との関係も話題に登ることが多く、 そんなときに、「マグさんも早く結婚してお母さまを安心させてあげたらいいのに」とよく言っていた。
最高の親孝行は、おやに自分が幸せな場面をたくさん見せることだと、子供の立場からも親の立場からも思うからだ。
なんだか、小うるさい親戚のおばちゃんみたいだと我ながら思いつつ、マグナムさんにも、マグナムさんのお母さまにも幸せになってほしいと心から思っていた。
それは、AVに出たこと、性を扱う仕事をした人が、その経験ゆえに普通の幸せから遠退くのを見たくないという気持ちもすごく強かった。
はあちゅうさんとAV男優さんの事実婚が発表された日、マグナムさんのお店に飲みに行って
「マグさんも事実婚したらいいのに」
と言ったら、どきっとした表情になって「それはまぁそのうち」とごにょごにょと言葉を濁した。
もっと突っ込んで話を聞きたかったけど、他にもお客さんがいたので詳しいことは聞けなかった。
逆に「今は世の中変わったよね。俺らが若い頃は……」と、結婚の挨拶に行ったら相手の両親から反対され、結局別れてしまった話をされた。
それからしばらくして、話を聞いたが、「お互いに歳を取って、病気などしたときに、手術許可書にサインできる関係になりたかった」と聞いて、歳を重ねて、弱くなることも素敵な側面があると思った。
マグナムさんは55歳、奥さんになる方も同世代だと聞いている。
50代になっても新しいスタートが切れる、私にだってまだまだチャンスはあるかもと思ったが、そのためには、捨てるべきものを捨てなくてはならない。
そんな覚悟がないのに、何を夢みたいなことを言っているのだ。
それに、今の生活を維持しながらならともかく、独り身になって、結婚できるかどうか分からない人と5年も6年も、その日を待ち続けることが、私にはできるだろうか?
私ができなかったこと、多くの人が乗り越えられなかったことを乗り越えて、ようやく幸せを掴んだふたりをこころから祝福したい。
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