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リスクと清掃登山

2010年5月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 パンっとはじける音がした。
 僕の右手で大型トラックほどの氷塊がはじけて崩れ、それがきっかけで下のさらに巨大な氷頭を倒していく。大自然のドミノ倒しの轟音は連鎖が吸収されるまで続き、僕の足元がいかに不安定なものかと、いいようのないおののきを覚えた。
 この場所は通称ダムと呼ばれるエベレストのアイスフォールでも最も危険な地域だ。急こう配の氷の塊は昼夜の気温差で簡単に崩れ、周りをのみこんでしまう。一刻も早くこの危険地帯から抜け出したいが酸素は地上の半分、動かない体にいら立ちながら第2キャンプ(C2)を目指して進む。

 5月、僕はリーダーとして7人を引き連れ、標高5545㍍のカラパタール登山を行い、その後グループと分かれてエベレストの清掃活動をするために標高6500㍍のC2へ向かった。今回は2013年に予定している遠征を見据えて、現在のエベレストの状況も把握しておきたかったのだ。
 野口健さんをはじめ、近年、エベレストでは清掃活動が活発に行われているが、その最初は1984年にネパール警察が陣頭指揮をとったもので、53年のヒラリー卿による初登頂依頼、30年に及ぶ登山史の中で積み重なったゴミの一部をサウスコルから回収したのだ。しかし、この清掃登山でサウスコルの上に残されていた遺体を回収しようとしたときに2人のシェルパが犠牲となっている。

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