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神経細胞群選択理論:標準的な運動発達におけるバリエーションを説明するためのフレームワーク(The neuronal group selection theory: a framework to explain variation in normal motor development)

Hadders‐Algra, Mijna. "The neuronal group selection theory: a framework to explain variation in normal motor development." Developmental Medicine & Child Neurology 42.8 (2000): 566-572.

この論文はHadders-Algraが神経細胞群選択理論をリハビリテーション,とくに子どものセラピーに適用するために書かれたものです.要旨はなく,以下にその内容を簡単に追っていきます.

神経細胞群選択理論(Neuronal Group Selection Theory: NGST)は神経成熟理論の「遺伝」の部分と,ダイナミックシステム理論の「環境」の部分を組み合わせたものである.
神経成熟理論:これは実質的に環境との相互作用に関しては全く考慮していない概念である.運動発達は皮質による下位反射のコントロールが増えていくことと考えられていた.
ダイナミックシステムズ理論:特定の行為は(1)筋力,体重,姿勢サポート,子どもの気分,そして脳の発達などの複数の構成要素,(2)環境状況および課題が要求するものが自動的に特定の器官に与える効果から得られる結果である.
ダイナミックシステムズ理論と神経成熟理論とはとりわけ運動発達における神経系の役割に関する観方が異なる.神経成熟理論では神経系の成熟した状態が主に発達プロセスを制約すると考える一方で,ダイナミックシステムズ理論は神経学的な基板は補助的な作用をするものとして考えている.
神経細胞群選択理論:定型発達の原則となる特徴の一つはバリエーションである.NGSTでは発達は初期のニューロンのレパートリーとともに始まり,それぞれのレパートリーは複数のニューロンのグループから成る.
発達は行為および経験により生成される感覚情報を基にした選択とともに進行する.
経験にともなう求心性情報はニューロングループ内およびニューロングループ間のシナプス結合の強さを調節し,結果として可変的な第二のレパートリーが生じる.
この理論では発達が遺伝的な決定により独占的に支配されているわけでもなく,また,環境状況に支配されているわけでもないことを明確に述べている.一方で,この理論では発達が遺伝および環境からの情報の複雑な相関関係の結果であることにハイライトを当てている.

NGSTの理論をヒトの運動発達の領域に翻訳すると,発達のプロセスは二つの異なる変動性のフェーズとなる(上図).
第一の変動性:運動発達は早期の胎生期に「第一の変動性」とともに始まり,これは乳児期まで続く.早期の運動性はおびただしいバリエーションにより特徴づけられる.運動活動におけるこのバリエーションは環境状況に対して適切に調整されることはないが,実質的に必須の発達的現象を含んでいる.
第一のレパートリーのシステムはおそらく探索であり,自身が引き起こす活動と結果として起こる自身が引き起こした求心性情報を通じて,すべての神経生物学的・人体測定学的に利用可能な運動可能性は進化により設定されている.
第一の変動性の特徴はジェネラルムーブメントによって非常に上手く描き出されている.ヒトのジェネラルムーブメントにおける豊富なバリエーションと複雑性は広範囲に広がる皮質(下)ネットワークの探索活動を反映している.
ジェネラルムーブメントはおよそ生後四ヶ月まで見られる.それは徐々に目標指向的な運動に取って代わられる.探索と同時に生起する絶え間ない求心性情報のプロセスが結果として最も効率的な運動パターンの選択へとつながる.
選択:4-5ヶ月で乳児が一人で座れるようになる前からすでに頸部および体幹の筋群は方向特異的である.リーチング運動などの軽微な動揺における最も効率的な姿勢調節は驚くほど後で,12-18ヶ月に起こる.
踵接地のパターン,これは最もエネルギー効率の良いパターンであるが,は歩く経験を約4ヶ月経たあとで明確に選択される.そして2歳までに全ての子どもが一貫して踵接地のパターンとなる.
選択のプロセスは運動の可能性を減らし,ほどよい運動のバリエーションへと移行する.バリエーションの減弱した移行期の後,「第二の変動性」もしくは「適応的な変動性」のフェーズが開始する.
第二の,もしくは適応的な変動性:第二の皮質(下)レパートリーの生成は広範囲なシナプスのリアライメントと関連しており,シナプス形成およびシナプス刈込の最終的な結果である.
選択が引き起こすバリエーションの減少期の後で見られるバリエーションの再来期の例は座位姿勢調節の研究に見ることができる.年齢を経るとともに,変動性のある活動はより正確に・効率的に姿勢動揺の特異的な細部に適応する.特異的練習は適応的な運動戦略のレパートリーのなかから最も効率的な戦略を選択することで第二の変動性の量を減らすこととなる.練習を行わないと逆の結果となり,それは運動のバリエーションの増加と関連している.
結論:NGSTによれば,バリエーションが定型発達のキーワードとなる.バリエーションには2つの形がある:第一の変動性,これは外部状況には合わせられない.第二の変動性,これは運動遂行が特異的状況に適応する.双方のケースにおいて,求心性情報に基づいた選択が重要な役割を果たす.

以上です.子どものセラピーを考えるとき,その理論的土台として使える文献だと思います.

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