脳溶かす熱気による、うなだれ日記。

 スチームサウナのような外気に蒸し上がった青年、わたくしは一人、冷気のひとつを求めて喫茶店を目指します。足取りは燃えるアスファルトにべたり取られたように重く、持ち前の猫背は陽を受け更に屈折、風前の稲穂に似た格好で地獄体験。灼熱地獄。閻魔が見える。幻覚か如何に。

 徒歩五分の距離に立つ喫茶店、冷気を取るに最適かと思いきや、まぁ道は長いもんだ。こちとらダレた稲穂なんですから。「あちぃ~~」の声で持てるカロリーすべてを使い切り、底をつく体力とうとう下限ぶっち切り、途中のコンビニエンスストアに縋り付きます。へばりつきます。本当に息絶えてしまう。アイスを買いましょうね。

 味なんかもうどうでもいい。冷たいのであれば、都合良い大きさの金属片でも良い。木っ端でも泥でも骨片でも良い。冷たけりゃテクスチャは何でも良い。雑魚の肉片でも良い。財布の中にてキンキン鳴ってくれる金銭の数を恐々確認する。そこそこ入ってあった。良かった。スイカの形をした安っぽい氷菓子をひとつ買う。ここぞとばかりに夏。むかつく。店を出たら、熱気にぐらつき、亡き祖父が網膜へ見えた。嘘だ。ダサい氷菓はなるほど美味しかった。

 なんだっけ。喫茶店か。残り三分ほど地獄を彷徨えばありつけるんです。ジジイになったら、「オアシス」という名前の夏季限定喫茶をやろうと思う。高校英語で習った「未来完了進行形」の目線で己を助けてやりたい。ちょっと伝わりづらいな。しかし、そもそも目論む「ジジイ」の年齢てんで届かず、二十六歳の夏、灼熱に飲み込まれては致し方無く。うだうだするのも怠いので、全力で走ってみることにした。存外すんなり着いた。喫茶店に入る脇道半ばで嘔吐した。吐しゃ物が赤かった。これは夏だ、と思った。


 店。三十半ばぐらいの女性店員はいつにもましてやる気なく、『へい』と水を置いてくれたのには笑った。良いね。お母さんが僕に習わせた『店員さんには愛想良く振舞いなさい』という言葉、なんでもこの暑さを眼前、脳にフラッシュバックできずでした。「コーヒー。アイス。氷多めで」と仏の顔の私は、本棚で寝そべる雑誌に刷られた『夏の奈良特集!』の文字にブチギレてしまいそうで、たまらず頬杖ついて仮眠。

 ガンと鳴ったテーブルにアイスコーヒーの一杯。三十半ばぐらいの女性。さっきの店員。パーマがよく似合ってるねえ。ずずっと一口、苦くて苦しい味がした。店は冷気でみっちり満ちており、「すいませんが、いっそ住み込みで働かせてください」の切実なる言葉を、黒の水分でもって胃に流し込みます。僕の家にはクーラーが無い。よくも生きているね。家も地獄。

 夏になった。どこに頼み込めば良いのか知らんが、もう少し涼しくなってください。アイス食って走って吐瀉、泥のようなコーヒー飲んで、今年も辺鄙な夏がやってきました。黙って生きましょう。

頂いたお金で、酒と本を買いに行きます。ありがとうございます。