見出し画像

24の調によるトルコ行進曲変奏曲を転調にこだわって考察してみた

(ヘッダー画像はサントリーホール公演で弾かれたグランドピアノと球体のライト)


はじめに

「角野隼斗全国ツアー2024KEYS」

今年1月31日から3月23月まで全23公演で開催された全国ツアー。どの曲も心惹かれるプログラムだったのですが、とにかくイチオシで気に入ったのが「24の調によるトルコ行進曲変奏曲」(以下、「変奏曲」あるいは「この曲」と表記)でした。

角野さんが「ツアータイトルが2024KEYSって並んでいるのを見たら、24KEYS(24の調)の曲を作るしかないと思った」(ニュアンス)ところから生まれたこの曲。24ある調をすべて使い、転調の仕方もすべて使って変奏曲を作り上げるというアイデアと意欲とゴージャスさと最高さにあふれる作品です。コンサートで聴かれなかった方も、CDなどになったらぜひ聴いてみていただきたいです。

しかしわたしはこの曲を2回(3月7日のサントリーホールとリピート配信)で聴いただけだし記憶力もほとんどないので、「ここがすごいポイント」のような細かい考察は残念ながらできません。

しかし、転調が大好きなかてぃんさん同様自分も転調が大好きなので、この曲を調性や転調の観点からならなにか書けるのではないかと思い、簡単ではあるが以下に書き記します。

なお、自分と近しい考察は、すでにほーすさんが素敵なnoteにしてくださっています。
ぜひ読んでいただきたいです!

まず、あの球体のライト=調(KEY)の色ってなんだったの?からはじめる

この曲の演奏時には、調の動きを示すために、グランドピアノの傍らに置かれた球体のライトが調ごとに違う色に点灯するということを、自分よりも先にコンサートに行かれた方みなさんのSNS投稿で伺い知っていたのですが、角野さんのことだから、そのライトの色には規則性があるに違いないと思い、それをサントリーホールで見つけたいと願っていました。

サントリーの当日開演前に、プログラムに転調順と調ごとのライトの色が記載されていたのを見て、転調の順番はざっくりとわかったけれど(しかも前半だけで後半はあまり把握できず)、それと色がどう結びつくかはわからず。

プログラムより、ライトの色と調(KEYS)

しかもサントリーで見た時は、音楽の展開についていくのが精いっぱいで、球体の色の変化をほとんど感じることができなかった。

ところがリピート配信の前に以下のポストを拝見してまさに雷で打たれたような気づきを得、さっそく色相環に五度圏を重ねた図を作成して、配信の際に色の変化を見ながら調性をチェックしていったら、まさにビンゴでした。気づいたポスト主のご主人様はほんとにすごい!
https://twitter.com/sayaichiro/status/1771711063387406351

というわけで、すでにXでもポストしていますがこの図を貼ります

色相環と五度圏の関係

五度圏のCを色相環の黄色にあてはめ、そこから時計回りに調性が変化する(シャープが増えていく)と、色相環の青みが増していき、時計と反対回りに変化する(フラットが増えていく)と、赤みが増していく。黄色から見て6時の方向(反対側)にある色は青紫色であり、青紫色は黄色の補色である。また、音楽的に言うと、黄色の音(C、ドの音)と青紫色の音(F#、ファ#の音)は増4度の関係にあり、反対側の、いちばん遠くの音(調)である。ここ、最後に書くことに関係があるので、うっすら覚えて置いていただけるとうれしいです。

球体の色は、曲中の調の演奏順である①②③・・に対応する色相環上の色が球体ライトの色になっています。(ここで上に貼ってあるプログラムの色と調の関係の表と照らし合わせてみてくださいね♪)

変奏曲に登場する順に番号をふったもの。この順でライトが点灯する

なお、コンサートの最後に(アンコールの時から?)アップライトピアノが色のついた照明で照らされていて、会場ごとに違う色だった(と、みなさんのポストで見知っていた)けれど、この照明の色も、その日のアンコールのきらきら星変奏曲の調(KEY)の色だということに気づいた次第です。ちなみに3月7日のサントリーホールではヘ短調(F♭マイナー)で、マゼンタのような色に見えました。

3月7日サントリーホール公演終演後のアップライトピアノのライティング


次に、どのように転調していたのかについて記す

まずは24のKEYSの転調の動きを示すところからはじめたい

(ややこしいかもしれないです、ごめんなさい)

①    イ短調(Am)
  ↓ +3(短3度、平行調、短調→長調)
②    ハ長調(C)
  ↓ -4(長3度、長調→長調)
③    変イ長調(A♭)
  ↓ +1(半音、増1度、長調→長調)
④    イ長調(A)
  ↓ -3(短3度、平行調、長調→短調)
⑤    嬰ヘ短調(F#m)
  ↓ ±0(完全1度、同主調、短調→長調)
⑥    嬰ヘ長調(F#)
  ↓ -3(短3度、平行調、長調→短調)
⑦    嬰ニ短調(D#m)
  ↓ -4(長3度、短調→長調)
⑧    ロ長調(B)
  ↓ +3(短3度、長調→長調)
⑨    ニ長調(D)
  ↓ +5(完全4度、下属調、長調→長調)
⑩    ト長調(G)
  ↓ ±0(完全1度、同主調、長調→短調)
⑪    ト短調(Gm)
  ↓ +3(短3度、平行調、短調→長調)
⑫    変ロ長調(B♭)
  ↓ +2(全音、長2度、長調→短調)
⑬    ハ短調(Cm)
  ↓ +1(半音、増1度、短調→短調)
⑭    嬰ハ短調(C#m)
  ↓ ±0(減2度※同音異名、同主調、短調→長調)
⑮    変ニ長調(D♭)
  ↓ +4(長3度、長調→長調)
⑯    ヘ長調(F)
  ↓ -1(半音、短2度、長調→長調)
⑰    ホ長調(E)
  ↓ ±0(完全1度、同主調、長調→短調)
⑱    ホ短調(Em)
  ↓ -5(※+7)(完全5度、属調、短調→短調)
⑲    ロ短調(Bm)
  ↓ -3(短3度、短調→短調)
⑳    嬰ト短調(G#m)
  ↓ ±6(増4度、短調→短調)
㉑ ニ短調(Dm)
  ↓ +3(短3度、短調→短調)
㉒ ヘ短調(Fm)
  ↓ +5(完全4度、下属調、短調→短調)
㉓ 変ロ短調(B♭m)
  ↓ +5(完全4度、短調→長調)
㉔変ホ長調

次に転調の種類ごとにまとめてみる

◆同主調への転調(±0)4回
⑤⑥長調→短調、⑩⑪長調→短調、⑭⑮短調→長調(同音異名)、⑰⑱長調→短調

◆半音の転調(±1)3回
③④長調↗長調、⑬⑭短調↗短調、⑯⑰長調↘長調

◆全音の転調(±2)1回
⑫⑬長調↗短調

◆平行調への転調(±3)4回
①②短調↗長調、④⑤長調↘短調、⑥⑦長調↘短調、⑪⑫短調↗長調、

◆平行調ではない短3度の転調(±3)3回
⑧➈長調↗長調、⑲⑳短調↘短調、㉑㉒短調↗短調

◆長3度の転調(±4)3回
②③長調↘長調、⑦⑧短調↘長調、⑮⑯長調↗長調、

◆下属調への転調(±5)2回
⑨⑩長調↗長調、㉒㉓短調↗短調

◆下属調ではない完全4度の転調(±5)1回
㉓㉔短調↗長調

◆属調への転調(-5)※+7 1回
⑱⑲短調↗短調

◆増4度の転調(±6)1回
⑳㉑短調→短調

考察してみる

登場するKEYSについてその順番を中心に考察する

前半(①から⑫まで)と後半(⑬から㉔まで)で比べてみると

①から⑫:長調8つ、短調4つ
⑬から㉔:長調4つ、短調8つ

あきらかに調整が偏在している
曲の場面展開の変化に合わせている

⑮から⑰は長調が3つ続き、中盤の雄大な盛りあがりを感じる
続く⑱から㉓までの6変奏は、短調の連続。急な展開、ヒリヒリぞくぞくする緊迫感
①と㉔のKEYの関係が増4度(いちばん遠くの調)
トルコの軍楽隊が行き過ぎて向こうに行ってしまったのかな(後段でも考察)

転調の仕方の特徴(転調の種類)について考察する

前段では調の数で比較するために、24調を半分の12調ずつにわけて比較したが、自分は⑫よりも⑮が前後半の転換点だと思っているので、転調に関してはそのように扱いたい

①から⑮までは、近親調(平行調、同主調、下属調、属調)への転調が多く、あわせて8つあり、調性の変化が比較的安定していることが伺われる。それは曲調が安定していることでもあると思う。

一方⑯以降では近親調への転調は3つのみ。意外な、ドラマチックな、大きく場面転換するような転調が多い

⑲から㉑への転調はすべて近親調ではない転調、どこにいくかわからない浮遊感。

⑳から㉑へは増4度の転調、ギアが最高に入った感じ

同じ種類の転調でも、2回以上ある場合は必ずパターンが違う転調をしている。例えば平行調ならば、短調→長調も、長調→短調もあり、その他の転調では、例えば上向↗・下向↘の組み合わせがされているなど。

こうして見ると、かてぃんさんが言われていた通り、この曲中では±0(同主調)から±6(増4度)までの全ての転調を成し得ていることがわかる。24調をすべて使って転調による作品を作るにあたって、あまたの転調の組み合わせがある中で、あえて転調のパターンをすべて使うという制約をもうけて、その中で注意深くなおかつわくわくしながら作品を作っているのを感じる。
かてぃんさんの曲作り(とくに転調を扱うこと)の能力が唯一無二たるゆえんだと思う。

なお、角野さんは「創造とは制約である」というコラムを書かれていて、とてもうなずかせる内容なのでご一読をおすすめしたい。

結論:最後の調(KEY)はなぜ変ホ長調なのだろう

この曲は24調すべてのKEYSを、これまたすべての種類の転調を使って作り上げられたとてもユニークな曲である。イ短調(Am)から始まる原曲はイ長調(A)でフィニッシュしているが、この曲はどうだろう。

この曲では、原曲と同じくイ短調(Am)から始まっているが、フィニッシュは変ホ長調(E♭)である。ここでAとE♭は増4度の関係にあり、五度圏表の反対側である。つまり、24調による変奏を経てたどり着いた先は、当初の予定とはまったく反対側でした、という、角野さん独特の茶目っ気を感じてしまうのですが、みなさんいかがでしょうか?

イ短調ではじまり、真逆のKEYで終わる原曲と角野隼斗の変奏曲



この図では、角野さんとモーツァルトが真っ向から向き合ってるみたいにも見えておもしろいですよね。角野さんが持っているKEYはモーツァルトのKEYとは真逆の扉を開くKEYみたいでもあるようで。

ここはぜひラボで真相をお伺いしたいところです。

おわりに

以上、曲調に関してはほとんど触れることができず、転調の視点からだけの考察でした。もし機会があって(CDなどが出て)なんども繰り返し聴くことができたなら、より深堀りした考察をしてみたいと思います。

ここまで読んでくださってありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?