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天使のお仕事

公園のベンチで寝っ転がっていたら突然話しかけられた。
「何やってんの?」
「何もやってねえよ。ただボーっとしてるだけだよ。てかお前誰だよ?」

突然目の前に顔が現れたら驚くだろ。
「私? 君たちの世界では確か天使というんだったと思うよ」
「天使って小っこくて羽が生えてて丸々と太ってて丸裸で飛んでるアレのことか?」
「絵画や彫刻の世界ではそうね。でもあれも天使の一部なのよ」
「実物は違うってか?」
「あんた何気に失礼ね」
「だって俺の知ってる天使の要素、あんたに全然ないからさ」
「それは私が大きくて細くて羽も生えてないってことかな?」
顔が近いって。

「だってそうじゃん。丸裸でもねえし」
「天使は丸裸でないことの方が多いのよ」
「そうなのか?」
天使は裸だと思っていた。俺って変態なのかなあ?

「飛んで見せようか?」
「そんなことできるわけないじ・・・アッ飛んだ!!」
この男トリックなど微塵も疑わずに一瞬で信じた。
「これでも天使だからね」

「他には何ができる? 指先からビームが出るとか、突然巨人になれるとか」
「アニメの世界じゃないんだからそんなことは無理よ。でもそうね、好きな子とくっつけてあげることはできるわよ」
「どういうこと?」
「恋のキューピッドでもあるということよ」
「それこそ素っ裸だろ? でもあれ少年じゃなかったっけ?」

「あなたの心臓射ろうか?」
俺は間違ってないと思うんだけど。
「死んじゃうじゃねえか、お前物騒なヤツだなあ。ホントに天使かよ?」
「あんたこそバカね。私が心臓を射ったとしても死にはしないわよ。むしろその逆って言えるんじゃないのかなあ」
「どういうことだよ」

「例えばだよ、あなたのお気に入りのアイドルとか身近にいる気になる女性とかの心臓を私が射貫くとするでしょ、すると会ったことも見たことも話したこともなかってもそのアイドルや身近にいる女性はあなたに好意を抱くってことよ」
「なるほどそれいいな。でもそれ今じゃねえな」
「そう、残念ね」
「ちょっと待て、さっきお前は俺の心臓射るって言ったよな? ということは俺がお前に惚れるってことか? それとも誰かに頼まれてきたのか?」
「・・・・・・。」

「まあいいか。今は特別気になる存在もねえしな」
「じゃあ、しばらく付いててあげようか?」
「お前がか?」
「その代わり寝る場所と三度のご飯はお願いね。おやつがあったらなお嬉しいわね。それから一応言っておくけれど私は女の子だから」
「それって俺に関係ある?」
「だって寝る場所を提供してもらうわけだけど、あなたと一緒に寝るのは困るじゃない」
「俺は別にいいけど」
「私が困るのよ」

「お前天使だろ?」
「そうだけど」
「天使って神じゃねえのか?」
「ちょっと誤解があるようだからキチンと説明しておくと、天使は神のメッセンジャーで、神のご意志を広く人間に伝える職務を負っているのよ」
「ということは神の使い走りってことか」
「あなた本当に失礼ね」
「だって事実だろ?」
「それはそうだけど・・・まあいいわ、今日はちょっと疲れちゃったから帰ろうよ、私お風呂入りたい」

「お前変わってんな」
「どうしてよ、初対面のくせに何が分かるっていうのよ」
「天使って西洋のモノだよな、それなのに見た目は完全に日本人だし、使う言葉も日本語だし」
「それはあなたに合わせているからよ。例えばアメリカに行けば金髪になるし英語を話すわよ」
「それにおやつなんて八つ時から来てる言葉だし、お風呂入りたいって西洋はシャワーだけじゃねえの?」
「情報は勝手に頭の中に入ってくるの。意味も分からずに使ってることもあるわね」

「姿形を変えるのって日本にいてもそれはできるのか?」
「できるわよ」
「例えばブロンドの胸の大きなすっげえ美人とか」
「ブロンドとか胸が大きいのはできるけど美人は無理ね。顔立ちは変更できないの」
「お前充分整った顔立ちしてるけどな」
「天使を揶揄からかわないの」
「冗談を言ったつもりはねえんだけど」
「あ、あのー、ありがと」
そんなこと言われると照れるじゃないの。

「お前名前はねえのか? ずっとお前というわけにもいかないからよ」
「エルって呼ばれてる」
「そんなに大きく見えねえけどエルだな。俺はシュウって呼ばれることが多い」
「シュウちゃん、エルはサイズじゃなくって名前だからね」
「分かってるよそんなこと。昔そんな変わったヤツがいたなあって思い出してさ」
「何の話?」
「あるスポーツクラブに入ってたんだ」
「うん」
「そこに新しい仲間が2人入ってきたんだ。みんなが初対面だから自己紹介をってことになって、最初の1人が長野ですって言ったら、もう1人が僕も長野ですって」
「それは奇遇ね」
「最初はそう思ったよ、でも次の一言でそこにいた全員ずっこけたんだ」
「その心は?」
「長野はどのあたりですか? って」
「エッ?」
「誰が自己紹介の最初に出身地なんか言うんだよ。ホント変なヤツだったよ」
「アハハ」
「それを瞬間に思い出してさ、お前がエルって言った時どう見てもエムだし胸の部分なんかどっちかと言えばエスだよなって思ったんだ」
「シュウちゃん、私に逆らえなくなるようなぶっといの射込んであげようか?」
「お前の下僕になるかどうかはこの先は分かんないけど今は遠慮しとくよ。ただ胸はもうすこ・・・。」
「シュウちゃん、次言ったら脳天ぶち抜くからね」

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