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梓弓2

突然の伴侶ができて戸惑いはあるものの、何とか環境に慣れようと必死の修と、突然現れ伴侶と名乗って居座り続ける梓の物語。第二話の始まり。

「梓さん、ちょっといいですか?」
「修、さん付けは他人行儀でいかん、梓で良いぞ」
「まだ他人じゃないですか」
「それはお前が望まないからだぞ。私はいつでも準備万端なんだけどな。でも無理矢理は良くないと思うからずっと我慢しておるのだ。私の乙女のようなこの気持ちも汲んでくれんか」
「誰が乙女ですか!!」

「それで何用じゃ?」
「付喪神についてちょっと調べてみたんですけど、何か人を誑かしたりイタズラとか悪さをする神って書いてありましたよ」
「う~ん、評判は良くないが確かにそういう輩は多いな。というよりほとんどがそうだな」
「そうなんですか」
「考えてもみろ、100年ほどの時間ずっと動きたいとか、話したいとか、こんなこともあんなこともしてみたいとか思って過ごしてくるんだ。付喪神になれたことで有頂天になっても不思議はあるまい。少々は大目に見てやってくれんか」

「では梓さんも?」
「私は違う。修の伴侶になりたいだけじゃ。それだけを夢見てようやく付喪神になれたのじゃ、だから早う子作りしようぞ」
「伴侶より子作りが目的?」
「何を言うか、伴侶になることが目的に決まっておろう。子作りは仲良うなるための手段じゃ。じゃが心配せんでええぞ、私がずっと導いてやるからな」
「女性経験ならありますから大丈夫ですよ。そもそも僕をいくつだと思ってるんですか」
「そう怒るな、仲良きことは良きことじゃろうが」

「今思ったんですけど、梓さんはこのあいだ人間に変化したんですよね?」
「そうじゃが」
「ということは梓さんこそ初めてじゃないんですか?」
「ギクッ。大丈夫じゃ、私はこれでも神の端くれ。万事心得ておるから心配は無用じゃ。それに壁に飾られていた頃、人の行為は何度もしっかり見ておるからな」 ・・・・・・後で説明書をもう一度読んでおくか

「知識だけで経験はないんですよね」
「それは修のために大事にしとるんじゃろが。あんまりイジメると弓に戻るぞ」
「僕はそれでもいいですよ。この歳になって遥かに年上の、しかも最近人間になったばかりの処女を抱くことになるとは思いもしませんでしたから」
「連れないことを申すな」
「本音に近いんですけどね。それで梓さんはイタズラをしないんですね?」
「修との生活に慣れてくれば、イタズラ心も芽生えるかもしれんが、今のところそんな考えはないな」
「やっぱり弓に戻ってもらう方がいいかな」
「たとえ戻ることになったとしても、一度は修と愛を交わしてからじゃ」
「どうあっても僕と交わりたいと?」
「そのために耐えてきた100年じゃからのぉ、いや100年は大袈裟じゃの、これだと修が生まれる前になってしまうからな」

「そこまで仰るなら、一度お手合わせいただきましょうか」
「ホントか? いつじゃ? どこでじゃ? 何なら今ここでもよいぞ」
「100年待ったんですから、夜までも待てますよね」
「ん~、待たねばならんのか。それで、今夜はどこまで許されるんだ?」
「どこまで?」
「全身舐めまわしていいとか、耳朶みみたぶは嚙んでいいとか、カニ挟みで逃げられないようにしていいとか、尻は叩いていいとか、修の顔の上に跨って擦りつけるとか、修のを私が噛むとか、六十九ろくじゅうくは意味が分からんかったが、そうじゃ道具は用意できてるのか? たしかロープを使う項もあったぞ・・・」
「どこで仕入れた情報ですか?」
「ある書物に書かれていたぞ、ひょっとして文献が古すぎたのか?」
「古いとか新しいとか以前にマニアック過ぎるでしょ」
「そうなのか? 何せ知識は豊富だが経験が乏しいのでな」
「知識も怪しいものですけどね」
「そんなに苛めるな」
「経験値としては僕の方が上のようなのでお任せいただけますか?」
「それがいいかもしれんな。では修、よろしく頼むぞ」
「ハイハイ」

「では風呂にでも入るとするか」
「まだ、午前中ですけど、ずっとお風呂に? きっとふやけてしまって弓としての機能がダメになりますよ」
「それもそうじゃが、身をキレイにしておかないとな」
「それにしても今からお風呂は早いでしょ」
「ではどうやって夜までの時間を過ごす?」
「いつものようにゴロゴロしてればいいじゃないですか」
「心構えをせねばならんじゃろ」
「私に任せておけって言ってませんでしたっけ?」
「うむ、そうじゃった」

「お風呂も夜に一緒に入ればいいじゃないですか」
「どうした修? いきなり積極的になりおって、どんな心境の変化じゃ」
「毎日毎日、顔を合わせば準備万端じゃ、同衾じゃ、子作りりじゃと言われてるんですよ、一度くらいは仕方ないかなって思うじゃないですか」
「一度しかダメなのか?」
「そういうわけではないけれど……」
「やはり今夜が人生最大の山場となるわけじゃな」
「そんなに構えられると逆にやりにくいですよ。そもそも梓さんは人でもないし」
「それは言わぬが花じゃ」
「そうですね」

「今宵を万全に迎えるためには、まず一度目の風呂に入ってくるか。いやその前に歯磨きじゃな」
「何度も風呂に入るんですか? 弓の漆が剥げても知りませんからね」
「身綺麗な方がいいじゃろが」
「あちこち剥げてる弓ってどうなんでしょうね」
「剥げた漆は塗り直せばいいじゃろうが、今宵は一生に一度なんじゃぞ」
「そんなに大袈裟に考えなくても」
「何を言う。今から胸のドキドキが抑えられないというのに」
「そんなにですか?」
「修には分からんのじゃろうなぁ、思い続けた人と初めて一つになれるというのがどういうことか」
「そんな思いは遥か遠くに置いてきてしまいましたよ」
「遥か遠くというが修は私より若いじゃろうが」

「梓さん、何度かある内の1回と思えば少しは楽になりますか?」
「それはそれで嬉しいことじゃが、そういうことではないのだ、修」
「じゃあ今夜は延期しますか?」
「待ち焦がれてると言ったはずじゃが」
「じゃあいいんですね?」
「受けて立とう」
「分かりました。しっかり準備しましょう」
「修、不束者じゃがよろしく頼むぞ」
「畏まりました」
「さて、そうと決まれば風呂じゃ風呂、歯磨きしながら風呂じゃ」
「それしか考えられないんですか」
「一世一代じゃからの」
「分かりますけど歩きながら脱ぐのは止めてくださいよ」
♪フフフフフン♪
「梓さん、まだ早いですってば」


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