私はタクシー運転手。乗務歴は40年近くになる。
さて今日も観光シーズン真っ只中の路上を流すとするか。

早速お二人の若いお客様だ。

「ご乗車ありがとうございます。どちらまで？」
「時間ないんですけど紅葉のキレイなところへお願いします」
「それならとっておきのところへご案内しましょう」
「やったね」
「では一度外に出ていただき改めて助手席へ順にどうぞ」

不思議そうに顔を傾げながらも運転手の指示に従う乗客二人。
一人が助手席に座った途端その姿が消えていく。

「これってどうなってんですか？」
「助手席の異世界転生ですよ。今アニメなどで大流行してますからタクシーの中にも取り入れてみました」
「戻って来れるんですよね」
「勿論ですよ」
「じゃあちょっと行ってきます」
「見たことのない世界をお楽しみください」

「ホントに戻れるんですよね」
「お客様は一度見えなくなって、今、座面から顔だけ出されていますよ。だから大丈夫です」

だが誰一人として戻った者はいない。
(410文字)

今週も参加させていただきます。
たらはかに様　よろしくお願いいたします。

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