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問いはどこまでが問いなのか

前期の表現の授業の第一発目のワークは、例年自己紹介から始める。
ここ数年はなぜか受講生が多いこの講義。
少人数の講義がいいのだけど、人数制限はしていない。
なので、今回は55名の履修人数となった。
もう一つのソーシャルイノベーションは29名。
これもいつもより若干多め。
それでも教室なら目は届くくらい。

今日は、表現のクラスの方のお話。
少人数クラスにこだわるのは、他者とのシェアや意見交換がこれらのクラスの運営にはとても大きな意味を持つから。
知識伝達系の講義なら、大人数の講義で先生の解説を聞くだけでも学びがあるだろう。
でもせっかく少人数なら、それを活かさない手はない。
だからグループワークやみんなの前での発表はmustだ。

この授業を取る子の層は大きく3つに分かれる。
まずは「就活もあるし、自己表現系のものやっといた方がいいだろう」層
これが一番多そう。7割
次に「自分は書いたり表現するの、どっちかというと好きだしできると思う」という層。ここは少数だがそれなりのアウトプットを出してくれるので受講者がお手本にできることを期待ができる。2割
最後に「時間割が開いていたから」と言い切る層。1割、いやもっと多いかなも。

人数が20人以上になると、ほぼこの割合比率は変わらない感じ。
ちょっと前までは、初日から「あなたはなぜここに座っているのですか?(この講義を受講しているのですか?)」を全員に言わせていたりした。
そうすると、彼らはほんとに素直に言うのだ。「空きコマがあったから入れました」「スケジュールの都合で」と。単位が棚ぼたあるかもしれない組かな。
その他の層の子は「先輩からこの講義いいよって言われてきました」「就活もあるし、自分は表現力に自信がないから、ここで学ぼうと思いました」あたりが多い。
トップ層になると「毎日ブログを書いていまして」とか「起業しています」なんて言う子が出てきたりもする。


が、なかなか問いに対してどんぴしゃりと言える子は少ない。
きっかけや思い、やっていることを言ってもいい。
でも、「今問われていることはなんだ?」ということに意識的になってほしい。
「あなたはなぜここに座っているのですか?」という問いには、「この講義をなぜあなたは受講するのか?」「それはどんな力をつけたいからなのか?」までの問いが暗に含まれているのだ。

「あなたはなぜここに座っているのですか?」
というと「入り口から入って近かったから」とか平気で言う子もいたりする。この答えはOKかNGか。

「あなたはなぜここに座っているのですか?」という問いがどういう状況下で言われたか、つまり文脈があるかないかで大きくこの問いの持つ意味合いは変わる。
何もない文字通り文字面通りであれば、「入り口から入って近かったから」ここに座っている。それは理由として正しい。OKだ。

でも、前期の講義のガイダンスでもある初回で、この講義について話をしている時に、「あなたはなぜここに座っているのですか?」と聞かれたならば、考えて欲しい。
その問いに含まれる直接の言葉だけでない、真の問はなにかということを。
「講義のテーマに関した今の自分の状況、そして本講義を通してどうなりたいか、どんな力を身につけたいか」
そこまでを発言できる学生になってほしいと思っている。

学生の中には、「じゃあ最初からちゃんと言ってよ」という子もいるだろう。
そういう問いかけも確かにできる。
「あなたは今このテーマについてどう思っているの?それはなぜ?この講義を受講したらあなたはどうなってると思う?」
でも、社会に出てそういう聞き方をしてくれる人がどのくらいいるだろうか?
1を言われて1を答えるだけなら、企業としては使えないと言われてしまうだろう。
時代的にそういう学生がとても増えている。
悪気はないのだ。でも薄い。
言葉のうわっつらだけをとらえ、それに対応するだけの答えしか出せない。
それは確かに表現力とは言わない。反応しているだけだ。
そしてそのことを全く自覚していない。

だから最初のような問いをがつんとかます。
はっ、としたような学生たちの顔を見るのが好きだ。
はっとすれば、自分の言葉にもう少し意識的になるだろうと期待できるから。
ただ、そういう反応も徐々に少なくなってきた。
彼らに非はない。
が自覚もない。考えていないからだろう。

だから、ここ数年は最初からがっつり自己紹介をさせている。
テーマは「このクラスの中で誰ともかぶらないことで、自己紹介」。
加えて、その自己紹介に条件を付けた。
「誰に・どう思ってもらいたいか(笑ってほしい、親しみを感じて欲しい、声をかけて欲しい、友だちになってほしい、〇〇を知ってほしい等々)」を意識すること。

50人以上の自己紹介は、90分×3回もかかる。14回のうちの3回をこれでつぶす。でもやるのだ。これが最初の自分らしさのとっかかりになるのだから。
この場は訓練の場なのだ。自分の声で語る、質問を受ける、返す。
そういう訓練には、時間がかかるがかけるべきことだとおもっている。

続きは次回に。




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