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2-3.for小学生プロジェクト 始動!

今回手を挙げてくれた21名のうち、前回の大学生版書くP(書く力をつけるプログラム)の参加者は、10名程度。
書くPのアフターフォロー講習の意味合いも、今回に持たせたつもりだったが、半分以上がまっさらな状態で参加する。
しかも、T先生とはかかわりがあるが私とは面識もない子たちが10人以上もいる。

なので、メールではできるだけフレンドリーに、ていねいにやりとりを進めた。
それでなくても、学生はメールのやりとりは不慣れであることに加え、見も知らぬ大人を相手に書くことは、彼らにとってかなり障壁のあることだ。

プロジェクト的には、これが彼ら大学生にとっての最初の課題でもあったのだろう。
書くPは、根本としては大学生対象のプログラムだ。
今回、小学校に入らせてもらうが、小学生はプロジェクトの対象者。
プロジェクトとしては、対象者の彼らに「その子らしさの見える作文を書いてもらうこと」がゴールとなるが、そういうゴールを迎えることができるようにどうプログラム上で仕組んでいくのか、対処していくのかを考え実行していくのは大学生だ。それを学びとするのが、書くPである。

1月末から2月にかけて、進行シナリオとシート、対応スクリプトは私の方で作成していた。
そして2月頭から、大学生とはメールのやりとりで課題をやってもらった。
小学生の修了文集は「自分が成長したと思うこと」をテーマとする。
なので、大学生にも同じテーマで取り組んでもらう。

最初は「小学校5・6年生行事の中で、自分が一番成長したなと思う行事はなんですか?」という問いで投げてみた。

続々と学生からの返事がある。
Tゼミの2年T中(さ)さん
「6年生の時:計画委員会『計画委員とは学校行事(運動会やお楽しみ集会的なもの)の進行や、その過程の細かな事や議題を計画する委員会です。
私は6年の時に計画委員長をしていました。最初はじゃんけんで負けて嫌々やっていたのですが、4~6年までの委員の人の前で自分の議題を発表したり、運動会の進行役をしたりしていくうえで物事ができるまでの過程を作る大変さや少しずつ形になっていく達成感、より多くの人の意見を聞くための聞き方、達成後の充実感などを学ぶ事ができたと思います。」

よくある体の文章だ。
このこと自体に嘘はないのだろうが、誰にでもあてはまる書き方で、その子らしさを感じるものではない。

なので、以下の返事を送った。
「たくさんの経験をされているようなので、その中のひとつの事例を挙げて、「成長」を語ってほしいなーと思います。
小学生にはそういうレクチャーをしてもらいますので、宜しくお願いします。」

そしてこんな子もいた。

3年K田くん
「振り返ってみたのですが、小学5、6年の学校のイベントを通して成長したという実感や記憶がありません。誠に申し訳ございません。
当日はよろしくお願いいたします。」

素直で正直な大学生ではある。
が、それではことが進まない。
T先生から以下の返事があっていた。
「そういわずに、何か思いだしてみて。そこがポイントなのだから。自分の記憶なんて忘れているはずだから、思いだそうとして思いだすのは、単なるつくり話かもしれません(無意識の)。でも、それでいいのです。」

学生にとっては、なぞかけのような返事に思えたかもしれない。

記憶はいいように再編されて残る場合も多いので、それは事実かどうかはわからないことも多いものだ。ただ、事実じゃないから悪いわけではない。記憶は、自分がそのことをどう思って、どう理解して、どう進んでいったかを考える(思い返す)時の大きなヒントになる。記憶も自分らしく記憶するのだろうから。

小学生の中にも「成長したことなんてない」という子もでてくるかもしれない。そんな時にK田くんのケースは生きてくる。
「僕も最初は思い浮かばなかったんだけどさ、ひとつづつ「どんな行事があったかな」って思い出していったんだよ。そして…」と促していけば、小学生にとっては、「大学生も最初は浮かばなかったんだ」という安心感を持てるし、そんな自分と同じ状況だった大学生の声に聞く耳を持つようになるだろう。


一人ひとりから来る文章の状態はさまざまだ。
それでもう小学生向けのシートをネット上にアップし、ダウンロードしてもらい、そのシートに記載して返信してもらうことにした。

小学生向けのシートの問いはこうだ。

”5年生の一年間にはいろんな行事がありましたね。今日は、5年生で行なった行事「運動会」「自然教室」「音楽フェスティバル」の中から、ひとつだけ選び、あなたが「私はこのことで成長したな」と思うシーンを書
き出してみましょう。(行事は、コレが一番!と思うものを選んでください)”

なので、大学生向けには、
「小学校5・6年生行事の中で、自分が一番成長したなと思う行事はなんですか?」
とした。

以下は、小学生シートと同じ問いである。

「Q2:その行事の中で、自分が一番成長したなと思うのは、どんなシーン(状況)でしたか?情景描写してみましょう。(5W1H、その時の感情思い)」
「Q3:どうしてこの時に「成長した」と思ったのですか?」
「Q4:どんな風に「成長した」のですか?」
「Q5:「成長した」自分をどう思いますか?」
「Q6:周囲の方々(家族・先生・友だちなど)からはどういう評価をされていましたか?(わからない場合は、自分が判断して
「どう思われていたかと思うか」を記してください。その理由も)」

設問を細かくし、具体的に書いてもらう方式にしたので、
前出のT中(さ)さんのような例はなくなった。

だが、悩める学生からは、こんなメールも届いた。

「もうひとつ考え込んでいることがあります。
はっきり言って私にはこのころの記憶がほとんどありません。
小学校のHPやらをみてなんとか事実(であろうこと)は
なんとなく書けておりますが
心理状況等はかなり憶測であり不確実です。

この内容自体が正しい正しくないというのは
大した問題ではないのかもしれないと思うのですが
この内容を書いているとき初めに成長したという前提ありきで
内容を、悪く言うと「でっちあげている」のかなと感じました。

書くプログラムで自己紹介文を書いた時もそうでしたが
今の自分がどのようにして今の自分になったのか…
考えれば考えるほど記憶が曖昧になっていくような気がします。
記憶が本当にあったことなのか自分の想像したことなのか
よく区別がつかなくなってきました。

はじめから順序立てて結果として今があるのでしょうが
今を結果として、それを逆から証明というか説明していくと
なんだか出来上がった文章が必ずしも客観的な真実かどうか
なんとなくですが不安になったりします。

まだこの件に関しては考えている最中なので
伝えるもの自体がはっきりしていないためか
うまく表現できません。」

記憶をもっと深堀していくと、こういうジレンマに陥ってしまうことは大いにある。

彼には、T先生がこういう返事をしてあった。

「記憶は現時点起点のものしかありえません。なぜならば、
記憶はタイムシリーズで蓄積されいて、その時間軸を遡
及する形でたどれるモノではないからです。
いわば、現時点で何かを思いだそうとしたとき、昨日の
ことも、10年前のことも、同じ平面に、時間軸に関係なく
(時間に対してニュートラルに)、浮かびあがってくるの
です。
そのうちの何を選択し、どう紡ぐかで、小学校時代の記憶
は変わってきます。

だから、あなたの疑問は脳科学的に正しいのです。

そういうものだとみなして、取り組んでください。」

まだ、事前講習会もできておらず、何をメッセージとして小学生に伝えたいのかが学生もはっきりしていなかったことが、悩みを増幅されている部分は大きい。だが、こういう矛盾を感じて言語化することも彼らにとっては必要なことだと思う。まずもってこういう経験ははじめてだろうから。

そういう部分で、共有した方がいいものもでてきはじめた。

T先生が、全員にこの件について、再度解説を送っている。

「昔の記憶に関する疑問:
今回の作業を通して、不安になった方もいらっしゃると思います。
ほんとうに小学校の時、そんなことを自分は思ったのか?
そういう不安はわかりますが、記憶というものはそもそもそういうものです。記憶は現時点起点のものしかありえません。
なぜならば、記憶はタイムシリーズで蓄積されていて、その時間軸を遡及する形でたどれるモノではないからです。
いわば、現時点で何かを思いだそうとしたとき、昨日のことも、10年前のことも、同じ平面に、時間軸に関係なく(時間に対してニュートラルに)、浮かびあがってくるのです。
そのうちの何を選択し、どう紡ぐかで、小学校時代の記憶は変わってきます。選択するのは「いま現在のあなたであり私」なのですから、小学校時代のあなたや私と感じたことは違って当然なのです。」


シートの提出も、早い子と遅い子の差が出てき始めた。
I永くんのシートが、素材的にとてもわかりやすかったので、
彼のシートを参考にして、書いてもらうことにした。
早い子は、どんどん新しい課題に進んでもらう。とにかく時は迫っていた。

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