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a day in my life

【あるアニメ演出家の一日】

 ふりだし。朝十時にスタジオに行き、絵コンテを描いたり原画チェックしたりラッシュを観たり、その隙間に打ち合わせをして口論して仲裁して、飯を食うチャンスを逃したまま深夜に帰宅し布団に埋没、以上!
 ひと息で言い終えてしまった。これがアニメ監督としての『わたしの一日』です。少ない睡眠時間=忙しい=売れっ子=偉い、そんな神輿で酔えている瞬間もある。自作を動かしている時だけね。今回は充電中のダラシない『わたしの一日』を書かせて貰おうと思います。余暇にこそ人生の深淵がある。誰か偉い人が言っていたはず。ググって下さい。
 朝十時に起床。目覚まし時計のない自由を満喫したく、昨晩次第で正午を越える事もままある。生活のリアリティは意外と好きで、家事などにも熱中できるのが演出家の性質だったりします。柔軟剤入れればタオルはゴワゴワしないし。掃除や食事を済ませ、正午までは参考の本や映画をチェック。付箋を貼ったり書き出したり、〝蓄えている感〟を自演。スタジオの模様替えの時に譲り受けた動画机に座っていれば、自宅でも比較的仕事モードには切り替えやすい。
 昼過ぎに気分転換に散歩。エコバッグを忘れて一旦戻る。幼稚園児たちと擦れ違ってうっかり泣きそうになったり、舞い散る桜に遠い五月病をぶり返したり、比較的困った性格の私です。近くの駅まで行き、本屋や喫茶店を回って『オオゼキ』を経由して帰宅。本屋巡りは学生時代からの習慣で、当時は「辻仁成をシメに行く」と言っていました。中谷彰宏や宮台真司に置き換わった時期もあったけど、本を出版させて貰うようになった今、そんな事は微塵も考えなくなりました(棒読)。喫茶店はドトール。スタバでなくドトール。あの年寄り達にも優しい雑さが嬉しい。帰宅して十九時くらいまでは雑務。資料漁りの続きや、手伝いの絵コンテを描いたりします。
 で、夜のスポーツジムへ魅せる体を仕上げに行きます。ま、冗談。本を読みながらエアロバイクを漕いでプルプル腹筋するという、成人病予防です。書かすな恥ずかしい。
 コンテ仕事に余裕がある時は、帰りに独り飲みに繰り出して一日終了。ガンマの冒険。立ち飲みハイボールとか演歌の似合う小料理屋で不遇時代の倉本聰みたいな心境を味わって帰宅します。健康診断気をつけます。
 止せばいいのに布団の中でSNSを覗いて憤慨しつつ、深夜二時くらいには専業主夫になる夢を見ながら眠りにつく、と。
 双六のような一日。そして冒頭へ戻る↑

月刊すばる 2016年4月号掲載

(2021年現在、宮台真司さんの映画評・社会時評などとても勉強させて貰っていて、軽はずみな事を書いてしまったなと少し反省している…)

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