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街の自転車屋さんが提供する”巨大な価値”

皆さんは自転車に乗りますか?
どこで買いますか?

まだまだ多くの人は販売店で買っているのではないでしょうか?
重要な交通インフラだったり、大切な趣味だったり、大切な人へのプレゼントだったり。

先日僕の友達が中国に行ってきた話をしてくれたのですが、彼に言わせると「今や中国よりも日本の郊外の方が自転車多いぞ!w」だそうです。

多分、人口動態なんかをみてもそんなことはないと思うのですが、彼の話を紐解くと、”日本より10倍以上も人口の多い中国でもその程度”ということです。
別に中国をディスっているわけではなく、そのくらい日本の街角で自転車を見かける機会が多いというこのなのかもしれません。

(財)自転 車産業振興協会の統計データによると、平成25年段階で国内の自転車保有台数は約7200万台自動車の保有台数とほぼ変わりません。高齢化や自動車大国の一つである日本は国際的にみても非常に自転車の多い国であることがよくわかります。

最近では大手ショッピングセンターやデパートにも自転車屋さんができ、街中でのおしゃれな自転車屋さんを見かける機会が増えました。
それと比例して、昔ながらの個人の自転車屋さんはあまり見かけなくなりました。
おじさんやおばさんが1人で切り盛りしていて、「どうやって生計立てているんだろう?」なんて失礼なことを考えたりしていました。

僕の実家もそんな自転車屋さんの一つです。

創業は約50年前。
当時まだ30歳くらいのじいちゃんが独立し、店舗兼自宅を建てました。
(今思うと30歳で、自転車のことしか知らない青年が店舗兼自宅を建てるのすごいな。)

大手販売店の出現

15年ほど前から、僕の地元の地域ではある変化が起こりました。

「量販店での自転車販売」が盛り上がってきたことです。
友人の中には通学用の自転車を量販店(ホームセンターなど)で購入するケースが増えました。

「くそっ!敵だ!!ムカつく!」
当時まだ幼かった僕は、量販店に対しても、量販店で自転車を買う友人も好きではありませんでした。

ある時、確か休日の日。
じいちゃんとばあちゃんと店番をしていると、ある青年が自転車を押しながらやってきました。
「あのお、動かなくなったみたいで・・・」
どうやらタイヤかペダルの不調により、自転車が動かなくなってしまったようでした。

すると、ばあちゃんが、
「あーあー!これ〇〇(近所のホームセンター)で買ったんじゃろ?」

ばあちゃんの眉間にシワが寄りました。
多分、量販店への気持ちの表れでしょうw(ばあちゃんは昔からお客さんに対して失礼なのですw)

僕自身も、”なんだよ・・そんなの〇〇で直せよ・・・”と思っていました。

すると、じいちゃんはいつもの恵比須顔で、
「おーおー!直したげよう〜」
と躊躇することもなく工具を取り出し、数分で直してみせました。

正直じいちゃんの行動に納得がいきませんでした。
敵に塩を送るみたいなものだと思いました。

売っているのは”自転車”ではない

その青年は笑顔で自転車を受け取ると、「ありがとうございました〜」と帰っていきました。

「なんで直すん?〇〇で直してもらったらええが!」

するとじいちゃんは表情一つ変えず、
「ん?まあ、すぐ直るんよ、あれくらい笑」と、次の仕事に移りました。

・・・意味わからん・・・返事になってないし・・・。

しかし、数日後。
あるおばあちゃんが訪ねてきました。

「ウチん孫がお世話になったらしゅうて!ありがとうございました!」

どうやら先日の青年のおばあちゃんみたいでした。

すると、そのおばあちゃん、お礼を言ったと思ったら、自転車を一台買っていってくれたのです。

「三宅さんとこの自転車はええやつじゃからなあ」
おばあちゃんは上機嫌で帰っていきました。

その数週間後、他のご家族も自転車を買ってくださいました。

たった1人の青年を助けたことから、自転車が二台も売れました。
僕は子供ながらに商売の本質をまざまざと見せつけられたように思いました。

でも、こんな話は、ウチの自転車屋では日常茶飯事でした。
普通、出張修理などは別料金を取って行うことが多いのですが、じいちゃんは違いました。

山の中でバイクごと転倒し、怪我をしながらも電話をくれたあるおばあちゃん。
じいちゃんは他の仕事を中断し、風の速さで軽トラに乗り込みました。
じいちゃんは無料で出張修理をし、材料費だけしか貰わなかったにも関わらず、そのおばあちゃんを家(病院だった気もする)まで送ってあげたのです。

その話だけ聞くと、ただの気のいい自転車屋ですが、
そのおばあちゃんはその後何年もウチで修理をしたり、バイクを買ったりしてくれています。
その息子さんも、お孫さんも、うちでバイクや自転車を買ってくれました。

そうか、じいちゃんが売っているのは自転車じゃないんだ。

じいちゃんは、自転車ではなく、自分の「信用」を売っていたのです。
よくよく考えれば、若くして妻子を抱えながら独立し、田舎の自転車屋で生計を立てるのは並大抵の覚悟ではできません。

だから、多分、自然に身についたんだと思います。
ビジネスのプロでもなければ、本も読まないじいちゃんが、商売をし、生き残り、家族を養うために選んだ道だったのかもしれません。

じいちゃんが病気で何ヶ月か店に出られなかった間、近所の人が交代で遊びにきてくれたり、復帰した直後に沢山の仕事をもらったり。

多分、ただ自転車を売っていただけでは起こらなかったであろう出来事がたくさんありました。

ただ目の前の人に、自分は何が提供できるか。
ひたすらに手を動かし、境地にたどり着いたじいちゃんは、今でも僕の誇りです。

そんなじいちゃん。
81歳になった今でも、第一線で活躍してくれています。
運転は7,8年前から止めていますが、自分の手で「信用」を作り続けています。

いつまでも元気で、働き続けてほしいものです。


<終わり>



シニアの方々が、主体的に・楽しく生活し続けられるよう、頑張ります!少しでもご協力頂けると幸いです。