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相居飛車はいいぞって言う記事(戦型編)


序章:相居飛車は(難しく考えなくて)いいぞ

こんにちは!
相居飛車布教委員会の宮倉杏です!

近年、プロのタイトル戦でも頻繁に相居飛車が指されてますよね。
だから興味はあるんだけど、難しいイメージがあってハードルが高いとか、
最初はどの戦型がいいのか、どの手順なら何の戦型になるのか・・・?
あるいは指したことはあるんだけど、よくわからないうちにボコボコにされた・・・というような方もわりと多いんじゃないでしょうか?

相居飛車を指そうとすると、1つの戦型だけで戦うというのは難しいですが、序盤の手順を数手覚えれば、それぞれの戦型の誘導・拒否ができるようになります。それぞれの戦型の特徴と、そこまでの手順を紹介しますので、好きな戦型、得意な戦型を見つけるための参考にしてもらえると幸いです。

本記事は、「相居飛車は難しい」という固定観念を少しでも減らして、
相居飛車を楽しく指してくれる人が増えてほしい!という願いで書いています。

本記事について

まずこの記事の内容についてですが、過去に私がYoutubeで配信した、
「相居飛車の基礎を偏見だらけで解説(以下略)」というライブのダイジェスト版のような位置づけになっています。
かなり長いライブ配信になってしまっているので、もしよほど暇な時間があれば本編もご覧いただけると幸いです。

本記事では相居飛車の布教がメインのため、一つの戦型を深く掘り下げはしません(というか私の棋力的にできません)。
指してみたいけどあまり指したことがない方、級位者~初段くらいの方に向けての内容だと思います。

また、「振り飛車なんてクソだから居飛車やれ!」という思想ではないです。愛を持って飛車を振っている方は、ぜひ自信を持ってその愛を貫いてください。(もちろん浮気するときは協力します!)

相居飛車の戦型

相居飛車の戦型といっても、力戦系も紹介してくとキリがありません。
そこで今回はプロの間でもよく指されている、以下の6種類の戦型について簡単に説明していきます。
後の説明のため、6種類の中でさらに2グループに分類します。

グループA:①角換わり ②矢倉 ③相掛かり
グループB:④横歩取り ⑤雁木 ⑥一手損角換わり

それぞれの戦型のおすすめ度を書いていますが、私の偏見と宗派が強めに反映されています。とは言っても明らかに間違ったことは書いていないはずなので、参考程度にしてもらえればいいかと思います。

グループA

①-1 角換わり

おすすめ度 先手:A
      後手:A
まずは最近、最も(いろんな意味で)話題になっている角換わり。
お互いに手損がない状態で、序盤に角を交換する戦型です。

角換わり参考図

角換わりの一番の特徴は、角を交換していることです。
誰かの構文みたいになりましたが、要するに「角の打ち込みに気をつけながら駒組みを進める」ことが必要になります。

角交換をした後は、先手後手ともに攻めの陣形を整えていくわけですが、
基本的には、以下の3つの中から戦法を選ぶことになります。
A.棒銀(▲27銀~▲26銀~▲15銀)
B.早繰り銀(▲37銀~▲46銀)
C.腰掛け銀(▲47銀~▲56銀)

戦法ごとの相性の善し悪しは多少ありますが、先手も後手もどれを選んでもそれなりの将棋になります。
基本的には先手が攻めていく展開が多いですが、後手から積極的に動いていく形もあります。

①-2 角換わり 参考図

角換わり参考図A
棒銀 vs 早繰り銀


角換わり参考図B
早繰り銀 vs 腰掛け銀


角換わり参考図C
腰掛け銀 vs 腰掛け銀

①-3 角換わり まとめ

相居飛車の練習なら、まずは角換わり。

角換わりを指してみるメリットは、好形やその組み手順を覚えられること、飛車と銀(と桂)を使った攻めを覚えられること。
そして、自陣と相手陣がどの形なら仕掛けられるか、仕掛けられないのかを覚えていけるということが大きいと思います。

また冒頭でも書きましたが、角だけをお互い手持ちにしているので、自陣に打ち込まれるスキがないか、自陣全体を見ながら駒組みすることになります。自陣と相手陣を比較して、「今なら角交換(飛車交換)はしてもいいのか?」という判断は、他の戦型にも生きるのではないでしょうか。

角換わりのおすすめ度は、先手後手ともにAランク
これから指す方は、腰掛け銀は結構難しいので、早繰り銀も指すのがオススメ。棒銀はダメという訳ではないですが、他2つに比べると攻めの幅が狭いので、あまりメインで勉強しなくてもいい気がします。

②-1 矢倉

おすすめ度 先手:B
      後手:A
将棋の純文学、矢倉。
角換わりや相掛かりほどではないですが、相居飛車で矢倉を好んで指すプロ棋士も結構いますよね。

少し紛らわしいですが、囲いとしての矢倉囲い(金矢倉とか銀矢倉など)ではなく、矢倉志向の戦型として扱います。よくわからなかったら気にしないでください。


矢倉参考図

昔の矢倉は、参考図のようにお互いガッチリ囲ってから戦いが始まることがほとんどでした。ただ最近では、後手が急戦で速攻を仕掛ける形が多く、攻めの主導権は後手が握ることも多いです。
後手側が急戦にするか持久戦にするかを選ぶことになることが多いので、自分から主導権を握っていきたい方なら、先手矢倉はあまり指したくないという方もいるかも。

矢倉戦も基本的には、飛角銀桂を使って攻めることになります。前記の角換わりと大きく違う点として、自陣にいる角をどう使っていくかで作戦が大きく変わってきます。
持久戦にしたい場合は▲79角~▲68角(または▲46角)として▲79玉から囲えるようにし、急戦で攻めたい場合は▲88角のラインを生かして攻めるような戦い方が多いと思います。

②-2 矢倉 参考図


矢倉参考図A
持久戦 ▲46銀型


矢倉参考図B
持久戦 ▲47銀型


矢倉参考図C
米長流急戦矢倉
矢倉参考図D
左美濃急戦

②-3 矢倉 まとめ

持久戦の基本。でも組ませてくれるかは知らん。

矢倉戦では、序盤で角や歩が駒台に乗らないため、自陣の飛・角・銀・桂を効率よく使って攻める必要があります。また、あまりにも雑に組んでいると速攻を仕掛けられて潰れることもあるため、相手の陣形によっては速攻を警戒した駒組みが必要になります。

おすすめ度は先手はBランク、後手はAランクとしています。
前述の通り、後手が急戦か持久戦かを選べること、先手は後手が速攻を仕掛けてきた場合は守勢になりやすいことから先手はBランクとしていますが、
対速攻用の駒組みと対応を覚え、攻めを凌ぎきれば良くなる展開も多いので、受けが好きな方はぜひ指してみてください。

③-1 相掛かり

おすすめ度 先手:A
      後手:A

グループAのラスト戦型は相掛かり。
お互いに飛車先の歩を伸ばし、飛車先の歩交換をする戦型です。
(基本的に、角換わりと矢倉はお互い飛車先の歩交換をさせない)

相掛かり参考図

角道をすぐに開けずに陣形を整備しつつ開戦するタイミングを窺うことが多く、作戦の幅がめちゃくちゃ広いことが特徴です。
アマ高段やプロレベルまで突き詰めればもちろん難しいんですが、我々のようなアマ級位者~低段レベルであれば、よほど変なことをしなければ何をしてもだいたい一局の将棋になってくれます。

戦法の例でいえば、棒銀、早繰り銀、腰掛け銀や、横歩取りのように速攻を仕掛けていく、あるいは飛車を引いて持久戦調にして金銀を盛り上げていくとか。
囲いの例だと、中住まい、雁木、右玉など・・・
とにかく相掛かりは自由度が高く、何をしてもすぐに悪くなることは少なく、逆に何をしてもすぐに良くなることも少ないんです。


③-2 相掛かり 参考図

相掛かり参考図A
相掛かり棒銀 シンプルに飛車先突破を狙う


相掛かり参考図B
浮き飛車+中住まいで、34歩取りを狙うなど


相掛かり参考図C
相腰掛銀 こうなると角換わりに近い陣形になりそう


相掛かり参考図D
お互い似た形の持久戦

③-3 相掛かり まとめ

とりあえず指してみたらいいよ。楽しくなるから。

作戦幅が広くて、最初は駒組みどうすればいいんだ・・・ってなることも多いと思いますが、まず自分の好きな形を使ってみてください。
まずはシンプルに棒銀や早繰り銀でもいいし、激しい将棋が好きなら浮き飛車にして桂を跳んで殴りかかる準備してもいいし、厚い将棋が好きなら位を取って金銀を盛り上げて組んでみてもいい。
指してるうちに自分の得意な形、苦手な形、陣形の相性とかが少しずつわかってきます。

おすすめ度は先手後手どちらも文句なしAランクです。
理由として、まずは自由度が高くて、何を指しても一局になること。
指しているうちに、急戦向き・持久戦向きの好形が覚えていけると思います。歩を多く持つ展開になりやすく、部分的な手筋(特に歩の手筋)が多いため、別の戦型を指していても役に立ちます。

もう一つ大きなメリットは、序盤すぐに角道を開けないため、わけわからん奇襲戦法を受けにくいこと。
乱戦が好きな野蛮人は、とにかく早めに角交換をして、どこかに打ちたがってきますよね。角道を開けなければそのような脳死の奇襲を受けにくいので、ある程度安全に駒組みができます。

自由に駒組みができるとはいっても、相手が棒銀など早めの攻めを見せてきたらその迎撃準備するなど、相手の動きに合わせて臨機応変に対応することは必要なので、いろんな陣形と作戦を使ってみてください。

グループB

④-1 横歩取り

おすすめ度 先手:B
      後手:C

グループB最初の戦型は横歩取りです。
横歩取りって聞くと、かなり激しい戦いになるというイメージを持っている方は多いのではないでしょうか?

横歩取り参考図

お互いに角道を開けてから飛車先を交換し、先手から34の歩を取っていきます。その後の作戦・変化がお互いに多く、激しい戦いになりやすいです。

先手の作戦は、36飛型、青野流、勇気流など、
後手の作戦は、33角戦法、33桂戦法、45角戦法、相横歩取りなど・・・
角が向かい合ったまま飛車が上空を飛び回り、しかも持ち歩の枚数が多い。
ということで技がかかりやすく、先手も後手も変化が多い上に、少し間違えるとすぐに崩壊することが多い戦型です。

④-2 横歩取り 参考図

横歩取り参考図A
33角戦法+青野流
横歩取り参考図B
36飛型+85飛戦法
横歩取り参考図C
相横歩取り

④-3 横歩取り まとめ

先手も後手も、気を抜いたら死ぬ。

横歩取りは、速攻でいきなり潰れることもあるため、覚えることが多く、なんとなくの雰囲気で指すのが難しい戦型だと思います。激しい将棋が好きな方であれば指していて楽しいと思いますが、あまり指し慣れていない状態で指すには難易度が高すぎるので、ちょっとおすすめはできない・・・

ただ変化が多いので、アマチュアレベルでは先後ともに研究のしがいがある戦型ではあると思います。

幸いなことに、先手後手ともに横歩取りを拒否することは簡単にできるので、手順編で紹介します。
でも指せるようになれば楽しいので、気が向いたら指してみてください。

⑤-1 後手一手損角換わり

おすすめ度 先手:ー
      後手:C

その名の通り、序盤で後手が一手損する角換わりです。
後手なのに更に手損するという、一見意味わからない戦型ですが、プロでも一部の棋士だけが指しているなかなかマニアックな戦型です。

後手一手損角換わり参考図

前提として、通常の角換わりと同じようには指せません。
わざわざ手損した角換わりで何がいいのかというと、先手の手によって陣形を決める、要は後出しジャンケンみたいなことをしたいということです。
先手の指し手による細かい違いで対策が必要になる上に、手損しているため、通常の角換わりとは違う部分でポイントを稼ぐ必要があります。

代表的な例としては、△85歩を保留して△85桂の余地を残すことや、
▲68玉を指させてから早繰り銀を目指すなど。難しくてよくわからん。

⑤-2 後手一手損角換わり 参考図

一手損角換わり参考図A
△85歩を保留できている
一手損角換わり参考図B
▲68玉を指させたら早繰り銀にシフトする作戦
一手損角換わり参考図C
△85歩保留+△72金型右玉は、将来△73玉と逃げた形が堅い

⑤-3 後手一手損角換わり まとめ

まずは手損のない通常の角換わりを指してくれ。

一手損角換わりは、通常の角換わりと同じように指すと、ただ弱いだけの
角換わりになりかねません。

前述の通り、相手の指し手によって対応を変える必要があるわけですが、その駆け引きがなかなか繊細です。どのタイミングでどの歩を突くか、右銀をどう使うか、玉の位置をどうするかなどの細かい研究が必要になります。

基本的には先手が速い動きで攻めてくる展開が多く、自分から主導権を握って攻めていく展開にはなりにくいです。
先手の陣形を見て後出しするための手順、カウンター狙いの待ち方など、少し特殊で繊細な感覚が求められます。
通常の角換わりとは違う将棋になるので、まずは角換わりに慣れてから指してみるのがいいと思います。

⑥-1 雁木(一直線雁木)

おすすめ度 先手:C
      後手:D
数年前にプロ界で流行していた雁木。
ここでは、角道を止めて一直線に雁木を目指す作戦のことを
「一直線雁木」と呼ぶことにします。

雁木参考図
後手から角道を止めて、雁木を目指すパターン

今回は、主に後手番で使う一直線雁木について。
序盤で角道を止めてそこから雁木を目指す、
または振り飛車も見せつつ場合によっては雁木にするという作戦です。

角交換をしないので安全に駒組みができそうに見えて、実は必ずしもそうではありません。かなり早い段階で先手の速攻が成立しやいため、序盤から注意しつつ先手の速攻への対策を準備しておく必要があります。
先手のほうが早く陣形が整うため、後手から主導権を握るのはかなり難しくなります。
先手番の一直線雁木も同様で、漫然と駒組みをしていると速攻で潰されやすく、潰されなくても作戦負けになることも多いため、一直線雁木で戦うにはそれなりに深い研究や手順の工夫が必要です。

⑥-2 雁木 参考図


雁木参考図A
潰れはしないが先手に主導権があり、この後も作戦負けしやすい展開
雁木参考図B
先手矢倉の対策としての雁木は有力な作戦の一つ

⑥-3 雁木 まとめ

なんとなくで指すと、ボコボコにされるよ。

一直線雁木は角道を止めて駒組みできますが、攻めの手が遅れるため、
速攻対策を準備しておかないと一方的に殴られることが多くなります。
さらに速攻を受け止めても良くはならないことも多く、
自然に指していて徐々に指しにくくなりやすい戦型です。

おすすめ度は本記事の中で最低です。
なんでかって言うと、例えば横歩取りだと「序盤から間違えたら崩壊しそうな危険な雰囲気があって、間違えたらちゃんと死ぬ」のですが、一直線雁木の場合は「まだ特に何もなさそうな序盤の雰囲気で、気付いたら速攻を食らって死んでいる」ことが多いからです。
角道を止めてじっくりした将棋にしやすいように見えるかもしれませんが、
相居飛車の練習段階なら、むしろ難易度が高い部類の戦型だと思います。

振り飛車党の方が相居飛車に興味を持って、試しに一直線雁木を指してみたら序盤で一方的に負けて「やっぱ相居飛車難しいわ」と思ってしまう方も結構いるのではないかと思っています・・・
あなたが弱いんじゃない、一直線雁木が難しすぎるんだ。

ちなみに参考図Bのように、
「先手が矢倉を志向したときの対策としての雁木」は有力な作戦です。

再掲 雁木参考図B

先手は角を引いて使っていますが、後手は△45歩を突くと△33角のラインが相手陣に直射するので、角の働きの差を生かして戦うことになります。

相居飛車の戦型について全体のまとめ

結局のところ、相居飛車の練習をするならグループAの戦型(角換わり、矢倉、相掛かり)がいいよ!ということです。
グループBの戦型(横歩取り、一手損角換わり、一直線雁木)は、工夫や研究が必要だったり駆け引きが繊細だったりと、そう簡単に指せる戦型ではない、ということを覚えていただけたらと思います。

一応もう一度書いておきますが、ここまでの内容はこれから相居飛車を指してみたい方や、級位者~初段くらいの方に向けての内容となっています。
ですので、「プロでも後手横歩とか雁木とか好んで指す人いるやん!」とか言われても困っちゃいます。(というかプロ全体で言うと、グループBは後手の勝率が低すぎてあまり指されてないです)

では、この戦型を指してみよう!と思ったときに、
・どの手順ならどの戦型に誘導・拒否できるのか?
・先手は▲76歩と▲26歩、後手は△34歩と△84歩の組み合わせでそれぞれどの戦型になるのか?

ということが気になってくると思います!気になりますよね!?

結構長くなってしまったので詳しい手順については次の記事で説明します!
戦型編(本記事)と、手順編(次回)を読んでいただければ、相居飛車が怖いというイメージはかなり薄くなるはずです!

最後まで読んでいただきありがとうございます。
皆さんの快適な相居飛車ライフの手助けができれば幸いです。
ぜひ次回の手順編もよろしくお願いします。

相居飛車はいいぞ。


次回、手順編↓


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