今尚思い出す笑い飯『鳥人』の衝撃

(初出:旧ブログ2017-10-28)

 お笑いの賞レースもかなり多くなったが、やはりその頂点にあるのがM-1グランプリだろう。将来有望な若い才能をするという意味を含めて、お笑い界における芥川賞と言っても良いかもしれない。賞の中でも箔の付き方が違う賞だ。そしてそのM-1グランプリの中で僕が忘れがたい衝撃を受けたのが、2009年に笑い飯が決勝ファーストラウンドで披露した『鳥人』というネタだ。あまりの面白さに「笑い飯ってすごい」という感想を超越し、「『漫才』ってこんなにも可能性に満ちた表現なんだ!」と心を奪われた。

 お馴染みの笑い飯のダブルボケツッコミで構成された『鳥人』は、縁日で父親にヒヨコを買ってもらえない子供(こちらがツッコミ役)の前に、鳥の頭にタキシードを着た”鳥人”なる半獣半人の紳士(こちらがボケ役)を、西田と哲夫が交互に演じながらコント仕立てで進行していく。得体のしれない怪物に恐れおののく子供に対して、鳥人は「お父さんに見えない鳥(子供にも見えず、鳥人にすらぼんやりとしか見えない)」を渡したり、出席番号「チキン南”バン”」として同じ学校に入学しようとしたりする。「焼き鳥」「目ヤニ」「イチジク」「森進一」「千葉真一」と無軌道に話題を膨らませていくが、鳥人という奇想天外かつファンタジックな存在を軸に矛盾なく漫才が進行し、笑いを取っていく二人に対して、 漫才が純文学になった!話芸の中に宇宙がある!と大いに感動した。「もう『鳥人』を知らない昨日までと同じようにお笑いを見ることは無いんだな…」という悟りのようなものさえ感じた。

 結果は大会審査委員長の島田紳助から、2017年現在でも唯一である100点満点を獲得したが、決勝ファイナルステージでパンクブーブーに敗れた。「チンポジ」という小学生レベルの下ネタを連呼するネタをしたから、というのが敗退の理由に良くあげられるが、僕は「『鳥人』が面白すぎたから」だと思っている。知らず知らずのうちにオーディエンスに『鳥人』と比較させてしまい、結果自らで自らのハードルを上げてしまったのでないかと今も思う。

 途中に哲夫が「シューベルトの『魔王』ってそんなやつやで!」とがツッコむ(改めて字に起こすと凄さが際立つ)場面があるが、それこそクラシック音楽のように、漫才の「古典」が誕生した瞬間を目にしたように思った。江戸の時分に生まれた古典落語が今なお上演されるように、遠い将来まで語り継がれるべき普遍的なおもしろさを持ったネタだと思う。25XX年、5代目笑い飯・西田が「友達の証にタキシードの胸元を開いて、人間の体と鳥の頭の境目を見せてあげよう!」というボケに、21世紀と変わらぬ大爆笑が起きていてほしいなあ。

#お笑い #笑い飯 #M -1

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