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成人式と、その後の打ち上げという幻影

 先日中学の友人であるK島(仮名)と所沢のメットライフドーム(西武ドーム)へ行った。埼玉西武ライオンズファンである我々2人にとっては別段特別なことではない。所沢で生まれ育った2人が、地元球団の本拠地スタジアムに行くだけのことである。中学卒業後も年に何回か2人でここに足を運んでいる。
 2人が大きく異なっている点といえば、みやまるは実家を出て新宿区で独り暮らしを始め、K島はまだ所沢在住という点だ。とはいえ電車で1時間程度で所沢に戻れるのであまり”上京”という感じもなく、長渕剛の『とんぼ』的なノスタルジーやドラマはない。しかしながら母も再婚し、杉並に新居を構え、家は売りに出したので、みやまるの所沢の「実家」は完全に消滅した。「里帰り」しようにも、帰る家が無いので、帰郷の一番の理由が「野球観戦」になってしまった。

 一応中学では生徒会長をやっていたのだが、小~大学まで全て、そこまで学校という環境には馴染めなかったので、「同窓会」と冠したものに行ったことが無い(ついでに言うと「合コン」も。これは早く行ってみたい…)。そんな状況だったので今から数年前(細かい年数はナイショだが、少なくともハタチだった自分がアラサーになるくらいには昔)、成人式に行くかどうか迷っていたのだが、同じくK島に誘われたので、あまり乗り気ではなかったが一緒に行った。会場に行く道中すら、「珍走団が変な儀式とかしてるのに、巻き込まれたりしないよね…」とおずおずと会話していた。
 しかし行ってみれば「よくぞ誘ってくれた」という感じであった。小、中時代の懐かしい顔ぶれ、中には幼稚園から中学までずっと一緒の学校だった同級生なんかにも久方ぶりに会えた。「学校」というワクの外で会うのがいかに気楽かと実感した。一緒に悪ふざけしたり、冗談を言い合った同級生と楽しく再会できた。その後の中学単位で集まった打ち上げにもきちんと参加し、当時付き合ってた彼女に「イエーイ、今日は成人式~!」みたいなLINEを送ったことすら覚えてる。部活でいじめ、いや部内暴力を受けていたので、特に「中学」というものにトータルではあまり良い印象を持っていなかったが、とても楽しく数時間過ごし、居酒屋を後にした。

 ついでに言うと、俺に手を上げていたヤツは最後まで姿を現さなかった。人伝いに聞いた「卒業式の日にクラス全員が中指を突き立てている写メを送られたらしい」という噂にも、まあまあ信憑性があるなと思った。教室で虐げられてたぶんを、部活で八つ当たりをしていたのだという。だからといって、彼に情状酌量の余地はない。現に別の同級生は暴力によって不登校に追い込まれているし、みやまるも医者に行く必要のあるけがを負わされた上に、もみ消された。
 だからずっと根に持っていたし、今なお腹に怒りを抱えている。そんな中、みやまるは成人式とその後の打ち上げに出席し、反対に加害者は来ないという図式に留飲を下げるものがあった。


 しかしそこから地元の友人との親交が再開したかというと、そういうことも特になく、その後、実際に顔を合わせた友人を数えてみたが、K島含め4人だった。そのうちの2人も1度会ったきり、それっきりである。別に会いたくないというわけでは無い。もしなにかの拍子で再開すれば、また交友が始まる可能性は大いになる。だがこちらから会いに行こうと思うほどの人物は結局大した人数では無かったのだ。

 曲りなりに大人になった今、成人式の日の記憶を辿ると、なんというか不思議な感じというか、おぼろげな”もや”に包まれている感じがする。確かに楽しかった「成人式」、「その後の打ち上げ」は美しい記憶として残っている。でもその記憶は現在の自分の生活にほとんど繋がってないし、もう一度再現しようにも、もう2度とあれだけの人数が楽しく過ごせる空間は実現しないだろう。
 成人式なんて、野暮ったい、アカぬけないものと思っていたけれど、あれはちょっとした奇跡というか、偶然の産物だったんだなと、今にして思う。今後K島から「実は俺は優秀な催眠術師で、あの日のことはぜ~んぶ幻だったのだ!フハハハ」と言われても納得してしまうかもしれない。そんな記憶だ。

#成人式 #エッセイ #回顧

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