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勝利至上主義からの解放されたサッカー天国・手原和憲『夕空のクライフイズム』

(初出:旧ブログ2019-02-12)

 良いタイトルだな~と思って手に取った。クライフと言えばオランダ、オランダと言えばオレンジ、夕焼け色。そして高校サッカーといえば練習は夕暮れ時である。自分も通っていた大学の隣にあった付属高校が高校サッカーの名門校だったので、よく明子姉ちゃんよろしく(野球マンガじゃねーか)、ビブス姿で一喜一憂するイレブンを見守っていた。

 本作の舞台は木登(きと)学園高校サッカー部は突然監督が交替するところから始まる。中等部の雨宮監督が昇格するが、どうも考えがぶっ飛んでる。就任早々から「美しく散りましょう」と負けを前提にチーム作りをしたいと言い出す。監督だったころの”空飛ぶオランダ人”、ヨハン・クライフの「美しく敗れることは恥ではない」という言葉を引き合いに出して。部全体が悲嘆にくれるなか、ワクワクするのが約1名、本作の主人公・今中だ。クライフと同じく背番号14を背負う彼は、ドリブルしか取り柄の無いサブの左ウイング。勝利至上主義が過ぎて、バラバラになっていたチームを考えれば、「だったら雨宮監督の言う通り、思いっきりムチャして、ド派手に散ってやるのもいいじゃん!!」と、胸をときめかせる。思えば冬の高校サッカーはトーナメントである以上、雨宮監督の言うように「優勝した1校以外4174校の3年生にとって負け試合」だ。勝利至上主義も良いが、99.99%の学校は必ず敗れるワケで、それならば堂々と敗れる「潔さ」も大切である。また勝利至上主義にがんじがらめになった指導者が、若いアスリートに体罰をふるってしまうのだろう。

 戦術も作風も攻めて、攻めて、攻めまくる正統派サッカーマンガだが、戦術解説に多くページを咲いているマンガでもあるのがこの作品の特徴ともいえるだろう。正直いわゆるひとつの「スポコン」を求める人には、「早くプレーを読ませろ」と思うかもしれない。しかし、そればかりがサッカーじゃないはずだ。自分でお気に入りのクラブのフォーメーションを組んだり、テレビ観戦中監督気分で「そこでシュートだ」「もっとサイドを使え」と選手に指示したり、ウイイレやFIFAよりサカつく派だったりする「戦術型」サッカー好きにはたまらない作品になっている。もちろん、高校サッカーらしい熱い友情や、複雑な恋愛模様、普段は頼りないようでいざというときにカッコよくなる今中や、コミカルなギャグも盛りだくさんに入っているので、「スポコン」を求める人にもおすすめである。

●気になった場面
「山瀬功治って選手が好きだよ」(1巻P55)
 クライフをはじめ古今東西の名選手・監督の具体名が実名で登場するのも楽しい作品だ。1巻だけでも、グアルディオラ、茂庭照幸、サッキ、ブッフォン、シャビ、ベッケンバウアーetc.と様々な名前が飛び交うのが楽しい。しかし、主人公が「好きな選手が山瀬功治」ってマンガもそーそーないでしょうね~。

「女子の着るサッカーユニフォームは、『フィットタイプ』と『ダボダボタイプ』、どちらが好ましいか?!」(6巻P152)
 この話なんて丸々このテーマを議論するだけで終わる。そんな寄り道も楽しい本作。でも女子のユニの着こなしだって貴重なサッカー文化の一つだ。俺?……加賀美と同じほう…。

#サッカー #漫画

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