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中島らもの5冊

(初出:旧ブログ2017/09/27)

 僕が今回5つ選んだのは「中島らもの作品」。高校時代に『水に似た感情』という小説を読んで以来、繊細でシニカルだけれども、尼崎出身らしい愛すべき「あほ」な諧謔を忘れない「らも節」が大好きなのです。みやまるが自信もってみんなに推薦したい、中島らもの「この5つだ!」。

『こどもの一生』
 「笑えて怖い」らも文学の最高傑作。小説版もありますが、おすすめは戯曲版。孤島の精神病院のいじめられっ子患者たちが、結託していじめっ子に一泡吹かせようとする。いじめられっ子たちは存在しない架空の”おじさん”の設定を創作し、いじめっ子の前でその”おじさん”の話を設定に沿ってすることで、”おじさん”を知らず、話に参加出来ないいじめっ子を悔しがらせるという仕返しに出る。ところがいじめっ子がある日、とうとう”おじさん”の設定が書かれたノートを発見してこの遊びのタネを知る。嫌がらせに「”おじさん”は殺人鬼である」と書いたその晩、存在しないはずの”おじさん”が島に姿を現してしまう…首から下がゾーッとするホラーの大作です。夏の終わりに読むのがおすすめ。


『今夜すべてのバーで』
 著者が生涯のテーマとしてきた「酔い」を正面から書いた私小説。3人の人間から「お前は35歳で死ぬ」と言われた作家・小島が実際に35歳になり、肝臓を痛めて入院する。酒を不安から逃げるエンジンとして飲んで酔って過ごしたそれまでの半生と、早世した親友の妹や個性豊かな院内の人々と再生に向かう現在を、醒めない虚ろな眼で見つめていく。「ダウナー」に酔いつつも、人生の真理をさらりと教えてくれる。


『僕に踏まれた街と僕が踏まれた街』
 作者の若き日々を振り返る回想エッセイが中心の1冊。西日本で最高偏差値を誇る灘高校に8位の成績で入学するものの優等生的な環境に幻滅し、興味の対象をロックや未成年飲酒に移していく。純粋すぎる若き日のらも少年の姿に笑い泣き、考えさせられる。またタイトルの通り「街」について書かれたエッセイも多く、東京とは異なる華やぎを持った阪神圏の風景を楽しく読むことも出来る。


『恋は底ぢから』
 珍しく恋愛についてのエッセイが多い。そのせいか文庫版のあとがきでは<とにかく、僕はこういう本をを書く男は嫌いだ>と照れつつも、「男女の友情は成立するか」「どうして男性はああも”したがり”なのか」という男と女の普遍的な問いに、当時朝日新聞で人気を博した『明るい悩み相談室』のスタイルで答えてくれる。昨今の芸能界における、くっ付いた・離れた・不倫した・デキちゃったに辟易としてる方にも是非おすすめしたい。「恋するΩ(オーム)病」という短編小説も併録。


『あの娘は石ころ』
 こちらは音楽に関するエッセイ集。特に甲斐よしひろについて書いた「身につまされる甲斐よしひろ」は音楽、現代詩、幻想、ペーソスといったらも文学の魅力を2ページにぐい~~~っと押し込んだような文書だ。所属していた劇団やバンドのために書いた歌詞が途中途中で挟まっているので詩集のように読むことも可能だし、ラストには「ハードロックじじい」なる戯曲も収録されていたりと、中島らもの様々な面がいっぺんに読めるお買い得な本である。


 というワケで、どれから手をつけても中島らもの味わいを十二分に楽しめる作品5つをセレクトしました。…あー、でも『バンド・オブ・ザ・ナイト』も良いよなぁ。『中島らものたまらん人々』とか『お父さんのバックドロップ』も好きなんだよ…いやいや『啓蒙かまぼこ新聞』も……、♪終わりにしよう~♪キリがないからぁ~~。”らも・イズ・オーバー”というつまらんシャレを言いつつこの辺で…。

#中島らも #小説 #エッセイ #戯曲

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