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ショートショートのお部屋 2019/05

★NYで赤ん坊を拾う

 セントラルパークのベンチでハンケチを出そうとバッグを開けたら「赤ん坊」が入っていた。これは幻覚に違いない。見なかったことにしようと目をつぶったら、できたてホヤホヤの新生児が日本語でささやいたのである。「すみませんがお宅で6時間ほど充電させてもらえませんか?」
アタシはとうとう気が狂ってきたのだ。ニューヨークのど真ん中で、英語も下手ならオンナ力も不足のアラフォーが、恋人に去られたショックと孤独のあまり幻覚、幻聴をおこしたとしか思えない。
フラフラと家に戻ると赤ん坊は自分でバッグから這い出してきて、おへそのへんからコードを出してコンセントに差し込んだ。「ありがとう、腹ぺこで飢え死にするところだった」。赤ん坊はほっとした様子で部屋を見回して「いいところに住んでいるのね」と言う。
この頃になると幻覚・幻聴にもだいぶ慣れてきて、とりあえず会話が出てきた。
「ここは彼氏の家なのよ」
「じゃあ、彼が帰るまでに充電終えるから」のっぺりとした顔がすまなそうな表情になった。「いいのよ、今日別れたの・・・私も捨てられちゃった」

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