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『劇場版 アイドルキャノンボール2017』

ようやく劇場鑑賞料金を払ったので、解放された気分です。やっと客として感想を書けるぞー。コレは私の個人的な感想&記録です。

見た人からいろんな感想を聞き、全部「なるほど」と思った。ただし私の周囲にはアイドル側からこの映画を見た人は少なく、出演者、成り行き、編集など『テレキャノ2013』と比較したものが多かった。
比べてしまうのは、もう仕方ないよなーと思う。私も「テレキャノ2013を超えたかもしれない」というカンパニー松尾監督のリップサービス的コメントが先にあり、アイキャノを見て、まず「それは言い過ぎ」と思った。

傑作を作ってしまうと大変だなと思う。あの奇跡はそう簡単に超えられない。それはどんな作り手も同じで、本当は超えるとか超えないとかはどうでもいい。でも映画はやっぱり「超えてくるシリーズ次回作」を期待されると思う。毎月どんどん新作が出るAVとは感覚も違う。「今回ハズレ」は、映画の方がなんだか許されにくい。良くも悪くも劇場公開される作品の重み。劇場版ならば、内輪ウケはしんどい。
そういう意味でもテレキャノはすごかったと思う。何も知らない通りすがりを巻き込む求心力があった。出演者を知らなくても一瞬で把握できた。今回のアイキャノは経緯も出自も複雑で、そこはやっぱり難しかった気がする。

テレキャノはいろんな意味で傑作だけど、一方で私は『BiSキャノ』も好き。
もともと「なんて言えばいいか分かんないような映画」が、私は好きなのだ。松尾監督にはアイキャノインタビューもやらせていただいたのだが、私はその中で「ポップコーンムービーですね」とか、エラそうに言っている。本当は「ゲラゲラ笑ってスッキリ」という映画にはあんまり惹かれない。私は鏡のような反射率でもって、見ている人に逆襲してくる映画が好き。モヤモヤ、ザワザワしちゃう映画が好き。テレキャノも、BiSキャノもそうだった。

でも、アイキャノが「笑ってスッキリ、ハイおしまい」だけの作品かというと、そうは思わない。実はコレも十分、ザワザワした。
あの中で起きた出来事や誰がどうだったとかいう話はすでにいろんな人が語っているし、もういいかと思うのだけど、やはりバクシーシ山下さんは最高。何から何まで最高。エリザベス宮地さんは勿体なかったなと思う。百歩譲って、ポイント以外のキャノンボーラーとしての起死回生チャンスは最終局面まで残されていた気がする。でも極端な人がいた方が面白いし、今後がとても楽しみ。

それはともかく、私がこの映画で一番ザワついたのは、岩淵ヨメだ。
まずその登場自体にビックリした。キャノンボールに奥さんが出てきて「ハメ撮りしないで」と訴える。世界がグラグラした。それは根底じゃないか!

キャノンボールは男の夢とロマンが詰まったゲームかもしれないが「仕事」でもある。AV監督やAV男優によるキャノンには大前提の共通認識があり、見る人もそれに乗っかっていく。もっと行けとか、アイドルはやっぱり壁が厚いなー、とか。素人でもアイドルでも、とにかく女の子とはハメるのが当たり前の大目的だと思っていたし、実際そういう内容だ。

今回は、AV監督陣にMV監督が加わった。AVを作るお仕事でハメてなんぼのAV監督たちとMV監督たちは、同じ映像監督でも経験や状況が決定的に違う。ましてや宮地さんと岩淵さんは、撮りたい対象を選んで撮ってきた、自主映像の出身だ。
熱に浮かされて被写体に溺れていく宮地さんの逸脱ぶりは分かりやすいが、それとはまた方向の違う熱に浮かされた岩淵さんが、奥さんの映像を放り込んでくることもビックリ逸脱ポイントだった。例えばAV監督の梁井さんが、キャノンボールに行かないで! とイヤがる妻子を撮ってきて会議で流すとは、とても思えない。逸脱してるMV監督ならではの行為だと思う。
そして私もそれまですっかりこの摩訶不思議な世界に同化し、「あーあ」とか「もっと行け」などと思っていたのが、岩淵ヨメの登場で引っくり返された。「あ。ですよね~…」と、我に返って思ってしまった。

ダンナが「ハメ撮り合宿、頑張りまーす」と元気に出かけたら、そりゃイヤでしょ。テレキャノを見た時「自分の夫や恋人、兄や弟が出たらどう思うか」という話をしたことも思い出した。どこまでも無情にアイドルを追うAV監督と、おかしな方向へ熱く走り出すMV監督たちは対照的だ。さらにそこに常識的なヨメが登場することで、私はどんな目線で見たらいいか分からなくなってしまったのだ。
加えてその後、AVを生業とする人からサラリと出る「ボールガール」という言葉が、私のグラグラに追い打ちをかけた。ホント混乱した。アイドルでも候補生でもなく、ボールガール? それは今回どんな立場の、つまり「どっち側」のヒトでしたっけ?

奥さんを持ち込むことに異論もあると思う。それは岩淵さん自身の実情を見せることでもある。「SFXのスゴい宇宙船、実はグリーンバックで撮影しました」みたいなことかもしれない。でもこの宇宙大戦争に憧れていたはずの岩淵さんがナチュラルにそれをし、また受け入れられていくのも、私は面白かった。少なくとも「あれ、今まで見てたの、何だっけ?」と思わされた。
世界が揺れる映画、私は大好き。
見る人はみんな当たり前に理解しているのかもしれない。こんなことで世界が揺れるのは私ぐらいかもと薄々感じている。でもこのグラグラを、私は楽しませていただいた。内側にもしっかり反射してくる映画だった。だから私が個人的に賞をあげるとしたら、岩淵さんです。

それにしても岩淵ヨメ、こんな映像を全国公開されて大丈夫かとひそかに心配していたら、都内の舞台挨拶に登壇された姿を見た。ひと安心!

おまけ
劇中、松尾監督が女の子に「君が生まれる前から俺はハメ撮りをしている」と言う。とても心に残った。監督生活30年、アイドルだけでなく普段のAVも、撮影対象である女の子の大半がそうだろう。その現実に向き合わざるを得ない中で続けている人であることを、改めて思う。
そして、このフォーマットを踏襲した数々のキャノンボール。いろんなキャノンボールが他ジャンルにも発生し、その鉄板ぶりを思い知ったわけだが、先日名古屋のアイキャノ舞台挨拶で「2020年、東京オリンピックとテレクラキャノンボールを同時開催したい」という話が出た。松尾監督が「マラソンと並行して走って、中継に映り込んだらプラスポイント」と冗談を飛ばし、すぐに「それは芸人キャノンボールがやること」と打ち消した。
それは画的にも容易に想像できて笑えるけど、自分たちのキャノンボールにしかやれないことをやるという姿勢が頼もしく、なんだかとても心強かった。

*****

『劇場版 アイドルキャノンボール2017』
出演:BiS BiSH GANG PARADE WACKオーディション参加者
 渡辺淳之介 高根順次 平澤大輔 今田哲史
 カンパニー松尾 バクシーシ山下 アキヒト 梁井一
 嵐山みちる 岩淵弘樹 エリザベス宮地 他
監督:カンパニー松尾


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