将棋回文のススメ

回文とは「トマト」「しんぶんし」です。

世には計算された美しい回文もたくさんありますが、私は回文の、無理をした結果馬鹿馬鹿しい文章になりがちなところが好きです。

(以下の文章中の回文は全て自作ですが、かぶっていたらごめんね。清濁一致のみ、読みに濁点をつけます)

回文に登場する人物は、何とか逆さにならんと、食器を見て「お椀、ワオ!(おわんわお)」と無意味に叫び、「即糞(そくくそ)」をし、「僕は久保(ぼくはくぼ)」とつたない自己紹介を繰り返し、「佐藤ー土佐(さとうとさ)」と対局を組まれ、「美味しいご飯は碁石。伊緒(おいしいごはんはごいしいお)」と夫の商売道具を食べたりするのです。愛おしいですね。

将棋回文愛好家はたくさんいます。私も三人知っています。好みはそれぞれですが、私の場合は先の例文にあるように、特定の棋士を織り込んで作ります。フルネームを入れた例をあげます。

「きつい中、郷田真隆の句『善き玉の固さまだ動かない月』(きついなかこうたまさたかのくよききよくのかたさまたうこかないつき)」

使いやすい棋士名に「(鈴木)環那→なんか」「神吉→きんか」などがあります。「環那~なんか」「神吉~きんか」の間に逆さ言葉を入れれば出来上がりです。

「なんか痛い環那(なんかいたいかんな)」

「神吉取る、と金か(かんきとるときんか)」

出来ましたね。ちょっと長くしてみましょう。

「神吉以下、関西方棋士の解説会。活性化の士気高い。参加皆勤か(かんきいかかんさいかたきしのかいせつかいかつせいかのしきたかいさんかかいきんか)」

さて、ここでも羽生です。将棋に関して何か書こうと思うと必ず出てくる羽生。将棋について何も書く気がない私の文章の中でも最も将棋に関係しない回文の、このテキストすら、羽生の領土です。羽生の汎用性は恐ろしい。「羽生は」があまりにも使いやすいので、羽生回文はいくらでも出来てしまうのです。

「さすが羽生はツカミ良いな、悪くしないよ。毎夜、ついガチ叫ぶ『羽生、桁違い強い。迷いなし、狂わない読み。勝つ羽生、剥がすさ』(さすがはぶはつかみよいなわるくしないよまいよついがちたけぶはぶけたちがいつよいまよいなしくるわないよみかつはぶはがすさ」

とりあえず、3回「羽生」を使ってみました。

それだけではありません。更に恐ろしいことに「善治」までが私を襲います。迫り来る「よしはるはしよ」、これがまた使いやすいのです。「しよ」から始まる単語の多いこと。

「『WIN!』言う善治は、勝因言う(ういんいうよしはるはしよういんいう)」

我々将棋ファンは、たとえそれが回文でも、羽生善治の掌に遊ぶに過ぎません。目の前に羽生、振り向いても羽生、あさっての方向に羽生、おはようからおやすみまで羽生、天上天下唯羽生尊。

名前を出さずして特定の棋士を連想させる回文もあります。

「私ゲス。棋聖咳スゲーしたわ(わたしげすきせいせきすげしたわ)」

佐藤永世棋聖のことです。

「異才、怪才、雄雄しき妖よ、まさに彼の竜王。追う百合の香に彷徨う夜。棋士多い祭、開催(いさいかいさいおおしきようよまさにかのりゆうおうおうゆりのかにさまようよきしおおいさいかいさい)」

糸谷竜王のことです。

符号を入れてみましょう。

「5二角、歩取る天彦。暇あると服買いにGO(ごにいかくふとるあまひこひまあるとふくかいにご)」

一気に将棋回文らしくなりますね。

皆さんも将棋回文で遊んでみませんか。

「我が都や身 流る春が名 宮戸川(わがとやみながるはるがなみやとがわ)」

でした。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?