小説『未来人狩り』

プロローグ
「おい、そっちじゃないぜ」と早瀬は言った。
「整備室はこっちだ」と彼が指差した先には、客の流れから外れた場所に、飾り気のない事務的な灰色のドアがあった。窓から差し込む夏の日差しに焼かれた灰色のコンクリートに、そのドアは同化しているように見えた。僕の手には、最新の画像認識プログラムが入ったメモリーがあり、彼の手にはセキュリティカードがあった。僕たちは、この会場の五百人の観衆の中に潜む未来人を見つけ出す。この夏の僕たちの課題は「未来人狩り」だ。

1. 始まり
 早瀬が山の上の高校からの坂道で話があると言ったのは期末試験の終わった夏休み前の短期授業の帰りだった。僕と早瀬は、図書館で見つけた一冊の古いSF小説をきっかけに、春と夏をかけて、80年代のSF小説をなりふり構わずに読んだ。おかげで僕は眼鏡をかけるようになり、優等生であったはずの早瀬は数学で2点を取っていた。数学で2点を取った人間に夏の空がどんなに見えるかを僕は知らない。だが、早瀬は夏の空の下に僕を見つけて声をかけたのだ。
「おまえ、この夏はどんな予定?」
「特に何もない。平凡な夏だよ」
「俺と一緒にもう少し危険な夏にしてみない?」
「危険て何だよ。危なっかしいことは嫌いだよ」
「そこまで危険でもないさ。SFだよ。おまえ、未来人に会いたいって思わないか?」
「未来人って、あのタイムマシンで未来から現在に来るやつ?」
「そう!会いたくないか?」
「ああいうのはな、見つからないで来るから、来れるんだよ。タイムパラドックス」
「そう。でも、それを打ち破る方法がある。人工知能でな。これから時間ある?」
「おう。一ヶ月後まで暇だよ」
そうやって僕は平凡であり得たはずの高校一年生の夏を失ったのだった。

2. アルゴリズム
 早瀬の説明した未来人を見つけるアルゴリズムは単純そのものだった。まず、未来人が現代に来る理由は何かと考える。早瀬が説明するところによると、それはミュージシャンのコンサートである。未来において有名になるアーティストやバンドの、後にレジェンドとなる駆け出しの頃のコンサートこそ、未来人が何を置いてもその時代にやって来たい最も大きな理由であるという。ビートルズの武道館コーサート、ローリング・ストーンズのアリーナ・コンサート、マイケル・ジャクソンのドームコンサート、などなど。
「ああ、しかし、未来で有名になるバンドの、後にレジェンドとなるコンサートって何?それがわかれば苦労しないや」
「問題は」と早瀬。
「未来人がどれぐらいの頻度で現代に来ているかってことさ。俺の予想ではたくさん来ている。伊豆へ観光に行くみたいに」
「一人が安全に来れるなら、あとはたくさんが来る。月旅行と一緒だ」
「だから、俺はこの浅野市のコンサートホールで夏の間、張り込むつもりだ。一緒にバイトしよう」
「あれ、一緒にバイトしようってこと?回りくどいなあ。バイト仲間が欲しいなら、最初からそう言えよ。別にいいけど。未来人なんてどうでもいいんだろ?だいたい、なんで未来人がこんな地方のコンサートホールに来るんだよ。五百人も入らないぜ」
「おいおい。未来人が武道館コンサートにでも来ると思うのか。これぐらいの地方都市の小さいコンサートホールがいいんだよ。後にレジェンドになるコンサートは小さいほどいい。ここからが本題だよ。おまえも最近のコンサートは転売を禁止するために、写真とIDがチケット購入と会場入場に義務付けられているのを知っているな。だから俺は、その写真のデータを使って、本来コンサート会場にいてはならない人物を見つけ出す。監視カメラのデータに人工知能ソフトを入れてな」
「写真との照合は入り口で行うんだ」
「未来人は入り口から入りはしない。会場のどこかに転送して来る。スタートレックみたいにな。そして、その日に欠席することがわかっている人の席に座る。欠席の席は未来ならデータからわかる。だから未来には、過去のコンサートの空席を販売するサービスがあるはずなのさ」
「俺たちはそのサービスを突き止める。それで?」
「それだけだ。あの人は未来人なんだ、とわかって、その時は、それからだ」
そうやって、俺と早瀬は「未来人狩り」のために浅野市のコンサートホールのアルバイトを始めた。

3. 一人目
 俺と早瀬はコンサートホールの客整理のアルバイトをしながら、いかにも公共施設と言った古びたホールの内部構造を徐々に把握して行った。階段状のホールのカメラの場所とその映像を集約する監視室を把握したが、その管理は幸いなことにほぼ無人であり、かなり杜撰だった。カメラは監視しているというポーズによる抑止力だけのためにあるようだった。一階にある管理部屋から清掃と言って三階にある監視室カードキーを取り出して、僕と早瀬は少しずつ設備を整えて言った。まず僕と早瀬のノートパソコン二台を運び込み、そこに会場内にある全動画をリアルタイムに流れ混むようにした。早瀬がネットから入手した画像認識ソフトを入れ、リアルタイムに顔認識ができるようになった。画面上では、カメラに写っている人物の顔を抜き出して座席番号と共にリスト化されている。問題は来場者の顔画像だったが、複数のゲートでシェアするためにオンラインのプライベート・クラウド上に置かれていることがわかった。僕は管理上必要であるとゲートの担当者を説き伏せた。しかし、これら、すべての準備ができたのは、僕と早瀬のアルバイトが終わろうとする一週間前だった。
システムは完成した。僕たちは毎日と押し寄せる観客たちと押し合いしながら、システムが何かを感知しないか待ち続けた。夏休みということで、地方のそこそこに有名なバンドや、外国から来たジャズ・ピアニスト、寄席、子供用演劇など、演目は多彩であった。しかし、システムは本来そこにいてはならない人物を検知することはなかった。照合は完璧だった。異常検知の値はゼロを更新し日々はバイト代だけを置いて無為に通り過ぎた。検知すれば、アラームが鳴るように設定した携帯電話への注意も削がれ初めていた夕方、アラームは急に鳴り出した。
「来た!」
最初にメッセージを投げたのは早瀬の方だった。早瀬は西側ゲートの管理係だった。東側ゲートの見回りの方が近く、監視部屋にも近い。僕は息巻いて階段を上がり、すぐさまノートPCの画面を確かめた。そこには、7R-38 と20代後半と思しきホールで撮られた顔画像が示されていた。僕は戸惑った。早瀬からの電話にもしばらく気付けなかった。僕は慌てて携帯の着信を押して電話に出た。
「未来人を見つけたか?」
「わからない」
「わからないって座席番号教えろよ」
「7R-38。でも…」
「でも?」
「でも、照合用画像と撮影された画像、二つの画像がそっくりに見える」

4. 仲間
 終演後、僕と早瀬は監視室の地べたに座って、頭を悩ませていた。二つの顔写真は少なくとも僕らの目からは同じに見えた。
「これはソフトのアルゴリズムのせいなのかな?バグ?」と僕。
「これは深層学習を作った精度99.97%を誇る最新のソフトだよ。間違うはずがない」
「それでも、一万人に三人は間違うはずだろ。五百人で間違う確率は低いにしてもゼロじゃないよ」
「深層学習は僕たち人間が気づかない何かを識別しているのかもしれない」
「それは何だ?わからない。深層学習は何重にも神経回路が層状に積層している構造だ。専門家でさえ、その中間の各層で何が識別されているかを知ることは難しい」
「そうか。深層学習って何でもできるってのは、人間はよくも分からず、深層学習だけがわかっているということだな。今回も、俺たちは何も分からず、深層学習だけが真実を知っているってことだ。」
コンサートホールのバイトが始まる16時までに、僕たちは秀才で有名な山地を呼び出した。
「おまえ、ヤマチと知り合いだっけ?」と早瀬、
「いや、三組のやつに紹介してもらった」
「外見わかる?」
「そりゃ、あれだ、秀才だから、メガネと襟シャツだろ」
「こんなバーガーショップに大丈夫か?」
「秀才でもハンバーガーくらい食べるだろ」
午後の日差しはガラスを通して店内を照らしていた。後光を掲げて山地は入り口のドアを開けて入って来た。革ジャンに革パンツ、白Tシャツ、そして小柄な身長。前髪だけ茶髪なサラサラヘアー、歩き方は軽いガニ股だった。60年前の不良崩れと、ロック志向崩れを足して二で割ってさらに薄めたような感じだった。
「なんか用事?」ヤマチは言った。
「おう。すまないな。こちらは早瀬。三組の大座は中学の友達なんだ」
「そうか。お前たち、あの、コンサートホールでバイトしてるんだろ?」
「なんで知ってるの?」
「結構有名だよ。コンサートに行ったやつらが、お前たちを見たって言いふらしているのさ」
「まじかー、恥ずかしいなー」と早瀬。
「なんか力になることある?」
「ヤマチは深層学習とか詳しい?」
「まあまなな。必須科目だからな」
「おー」僕と早瀬は思わず声を合わせる。僕はノートパソコンを取り出し二つの画像を見せる。
「この二つの画像の人物をどう思う?」と早瀬。
「同じだな」
「でも、深層学習ソフトは違うと言っている」
「先に言えよ。見せてみなよ。ああ、フリーの深層学習のライブラリ使ってるんだな。基本的にな、深層学習は何十層という層を経由して結論を出すので、どの層で何を見分けているかなんてわからない。」
「じゃあ、無理か」
「初期の深層学習はたしかにわからなかった。だが、深層学習には途中から、何を判断しているかを表現する拡張ができたのさ。それもネットにあるのさ」
「ダウンロードして!」
山地がつまらなそうに英単語を打ち込み、サイトの飛ぶと、おもむろに拡張プロクマラムを落とし込み、インストールした。
「どのファイルをスキャンすればいい?」
と山地が聴くと、
「ちょっと貸して」と早瀬は奪い取るようにノートパソコンを取り、当該のファイルを新しい深層学習のスキャンにかけた。そして、二つの顔の違いがくっきりとマーキングされていた。僕たちは声を合わせて言った。
「耳だ!」
 その違いはよく見ると明らかだった。実際にホールで撮影された写真の耳は下部と上部のバランスが異様に悪かった。下の方がとても大きい。それは近くで見ると逆に気にならないが、遠くで見るとわかる。というのも、近くで見れば下部だけで一つの耳に見えるからだ。
「急ごう、バイトの時間だ」
「ありがとう。山地」と僕。
「まてよ」とヤマチ「俺もつれて行けよ。お前たち、未来人を狩るんだろ?」
「なんで知ってる?」
「俺も同じことを考えたことがあるからさ」

5. 捕獲
 山地を監視室に忍ばせ、僕と早瀬は配置についた。押し寄せる人の波を整理しながら、アラームを待った。今度は山地が待機している。そして今度はすぐに深層学習が異常検知した点を拡張プログラムが教えてくれる。
 しかし、アラートは鳴らなかった。コンサートは昨日と同じジャズ・ピアニスト。昨日未来から来る価値があるなら、今日だってあるだろう。
 途中、トイレ休憩があり、外から誰の出入りもなく、すでに僕も早瀬もあきらめがちだった。だが、その時、アラートは鳴った。山地からメッセージが入る。F-33、目印はやはり耳、茶色いコートの男、と書いてある。おそらく昨日と同じ男だ。転送が遅れたのか、きっと後半にしか着けなかった。
 僕と早瀬はコンサートが終わるのを待った。しかし、終わると同時に僕たちは退場列の整理に向かわねばならなかった。
「山地頼めるか?」と早瀬。
「わかった」
僕たちはゲートで列を整理しながら、山地がうまく未来人を捕まえてくれるのを願った。整理が終わって、僕たちは山地を探した。しかし、どこを探しても山地を見つけることはできなかった。山地は姿を消したのだ。
 少し困ったことになった。山地は失踪した。だが夏休みということもあり、たいしたニュースにもならなかった。誰も山地の連絡先を知らなかった。山地の住んでいる場所もわからなかった。今では学校も個人情報を言うことができない。
「山地はコンサート会場で姿を消した。未来人を追いかけて。とすると、山地は未来人に消されたのだ」と早瀬。
「山地は勝手に帰ったのかも」
「どうして?おまえは電話してみたんだろ?」
「ああ、つながらなかった」
「帰るにしてもひとごとあるはずだ」
「今日は徹底的にコンサートホールを探そう」
「ああ」
僕たちはコンサートホールの準備が始まるバイトの二時間前に着き、会場を隈なく歩き探した。そして昨日の録画映像から山地の姿を検索したが、一向に見つからなかった。
「コンサートの終わったあと、山地の姿が消えている。ゲートのどの映像にも山地の姿がない」
「山地が未来人なのだろうか?」
「なんで?だったら、なんでこんな面倒くさいことをする?」
「違うよ。山地は未来から未来人を狩りに来た。山地は何らの理由です未来人を見つける手段を失った。そこで俺たちに近づいて、未来人を見つけて、未来に連れて帰ったんだ」
「山地は三組にいるんだろ?」
「そのはずだ。だが、記憶が希薄だ。あんなへんなやつ、廊下ですれ違ったら覚えているはずだろ。誰もかれも、夏休みが明けたら、誰も覚えていないかもしれない」
「山地は未来人狩り狩りなのかも。未来人を狩ろうとする者を狩る。未来人の旅行会社には未来人を狩る者が邪魔だからだ」
「つまり俺たちが標的ってこと?」
「だって、過去への旅行が未来でいい金になるなら、俺たちはビッグビジネスの邪魔ってことだろ?」
「だったら俺たちは逃げた方がいい!」
「どこに逃げる?」
その時、重々しく扉が開いた。そこにはあの茶色いコートの男が立っていた。

7. 解決
「やれやれ、危ないことをする」
飛びかかった僕たちを蹴り倒し、男は穏やかな口調で言った。
「僕は未来人だ。君たちが探していた。連れないじゃないか。ずっと僕に会いたかったんだろ?攻撃しなければ、危害は加えないよ」
僕たちは息を整えて、彼を睨みつけた。
「山地を返せ!」と早瀬。
「それはできない。彼は危険人物だからね。いや、危険人物ではないな。彼は人間ですらないのだから」
 男は話し始めた。
「タイムトラベルは禁止されている。未来では、それを可能にしたが、厳重に禁止されている。だが、人はいろいろな理由で過去へ遡りたいと願う。君たちが思ったように、過去のコンサートとか、あるいは、未来で利益となる悪事を働くためにね。僕はそんな未来人を連れ戻す警察のパトロール要員なのさ。ところが、未来人を密かに過去へトラベルさせる闇のトラベル会社が跡を絶たなくてね。これはいたちごっこなのさ。来たまえ」
男は扉を開けて手招きをした。そして、業務用エレベーターに乗り、地下3階を押した。その階にはコンサートホールの電源施設しかない。男は奥へ奥へと緑色の廊下を進み、一つのドアを開けた。そこには大きな檻があり、さるぐつわをされた山地が入っていた。
「山地!」
僕たちは声を荒げて山地を救い出そうとしたが、その檻はビクとも開かなかった。
「まあ、見たまえ」
男は指輪から光線を出すと、みるみる山地が長い毛で覆われた獣になって行った。
「マンイーター。人喰いさ」
男はおもむろに言った。
「しかも、こいつは唯のマンイーターではない。未来人を嗅ぎ付け、未来人だけを食べるように訓練された、特殊なマンイーターだ。こいつに噛まれたらひとたまりもない。」
男は山地の額に指輪のレーザーを向けると躊躇なく発射した。山地はばたりと倒れた。
「殺しはしない。立派な証拠だからね。こいつはね、未来の闇のトラベル会社が、僕みたいなパトロール要員を殺すために過去へ潜伏させている獣なんだ。君たちの言葉で言えば、未来人狩り狩りだ。」
彼は横たわった山地を見下ろして言った。
「しばらくこのままにしておく。コンサートもこれからだからね。あの調べを聴いて未来にこいつを抱えて帰ることにするよ。君たちは今後、二度とこんなことに関わらないようにね。それに僕はどこにいても君たちの声を聴ける。それを忘れるな」
男がパチンと指を叩くと、僕たちは再び監視室にいた。

8. 本当の解決
「見たか?」と早瀬。
「見たよ」と僕は。
会場の合図が鳴り、僕たちは遅いでゲートに向かった。あまりに惨めな気持ちだった。
僕たちはコンサートが始まると監視室に行き、張り巡らせたコードを抜き、片付けを始めた。この夏を無為に過ごしたという後悔、そして恐ろしいものの横を通り過ぎだ、という恐怖の感覚が全身を支配していた。あの緑色の獣の姿が瞼にこびりついていた。
「危なかったな」と僕。
「そうだな。でも、俺は今でも何か釈然としない」
「なぜ?」
「わからないよ。でも、まだ脅威が去っていない感じがする」
「どうして?」
「俺はあの男の横顔をじっと見て、話を聴いていた。あの男をはまるで人間という感じがしなかった」
「どういうこと?」
「あの男の方こそ、マンイーターだったら?山地の方が本当はあの男を捉えに来たパトロール要員だったら?僕たちはあまりにも早く敵の言葉に言いくるめられているとしたら?そう、そして何よりもあの男の耳は人間のようでないのはなぜだ?なぜ、山地をあそこで殺さなかった?あとで食べるためだったら?」
「行ってみよう!」
僕たちはドアを蹴り、業務用エレベーターで再び地下3階に向かった。山地の檻の前に行き、獣を棒でつついた。
「山地!」
「山地!」
僕たちは何度も叫んだ。やがてその獣は目を微かに開き、自分の頭をコンコンと叩いた。そして、ぐったりと倒れ込んだ。
「山地、お前が未来人か?」早瀬は問うた。
「山地は未来人だ。マンイーターではない」早瀬が言った。
「なぜ、言い切れる?」
「ホログラムだよ。今、あの獣の手は頭を通り過ぎた。檻を開けて確かめよう」
早瀬が金属棒を差し込み、小一時間ほどで僕たちはテコの原理で檻の柵を折り曲げて、山地をなんとか外に出した。僕たちが獣を触ると、触り心地がなく、途端に人間の姿に戻った。間違いなく、それは人間の山地だった。山地に水を飲ませると、目を開けた山地は僕たちの後ろを指差した。そこには、茶色いコートの男が立っていた。
僕はふと手に温もりを感じた。山地が緑色の粉を僕の掌に乗せたのだ。「投げろ!」山地がそういうと僕は思いっきり、緑色の粉を男にかけた。すると男は見るみるうちに、獣に姿を変えた。
「マンイーター!」
早瀬が叫ぶが早いか、その鉄の棒がマンイーターの額を直撃した。
「キャイン」
という可愛い声と共に、マンイーターはそこに倒れ込んだ。山地は立ち上がって、マンイーターの額を撃ち抜いた。
「殺しはしない。麻酔さ。こいつは立派な証拠だからね」

エピローグ
 僕たちは次の日、バーガーショップにいた。山地はどこか居心地が悪そうだった。
「騙すつもりはなかったんだ。ただね、マンイーターを探すレーダーが故障してしまってね。どうしても奴を早くとらえなくてはならなかった」
山地は窓の外を見ながら言った。窓の外は夕暮れの光でいっぱいだった。こんな地方の街でも、夕暮れの街は黄金のように輝いていた。
「すべては芝居だったと思ってくれ。僕とマンイーターを演じた未来人が、君たちが二度と未来人狩りなどをしようと思わないための。だからすべて忘れろ。僕たちは、君たちが、この夏に読んだ、ただの一編のSF小節にすぎない、と思うようにね」
 そういうと山地はパチンと指を鳴らして消えた。早瀬と僕はしばらくの間、声もなく目を合わせ続けた。まるで起こったことが信じられなかった。
「これは俺たちだけの秘密だ」と早瀬。
「でも」と僕
「でも?」
「俺はいつかこれを物語に書くかもしれない。実は俺、小説家志望なんだ」
「まじで?」
「まじ」
「だったらいいよ。いつか書いてみせろよ。どうせ誰も信じないさ」
早瀬は笑った。僕も笑った。そして僕たちは、山地もマンイーターもいなくなった街の、青春の只中に置き去りにされた。

(おわり)

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